第8話 別れ
どれくらい歩いただろうか。
村の方を見ると空が燃えていた。
ブノウの亡骸を担ぎながら悪夢から目を背けるように歩き続ける。
何度も挫けそうになる。
六歳児のアレトの身体にはブノウの体重が重たすぎるということもあったが、何より、ブノウの死と覚悟がそれ以上に重たかった。
再び挫けそうになる。
身体は限界に近い。
このまま、地面に倒れて寝てしまいたい。
前世の記憶が再び蘇る。
何もせずに家のベットでスマホをいじり続けた日々。
そんな、怠惰な生活が今は恋しい。
視界がぼやけてきた。
なんで俺、こんなに頑張ってんだろ。
もういっそここで休むか...
アレトはブノウを担ぐ力を無くそうとした。
アレト自身、頭の中では休もうとしていたかもしれない。
しかし、その身体は休む気配なく、一歩ずつ安全圏に向けて前進している。
前世での記憶、ブノウの意志がアレトの背中を押していた。
前世で一回だけ応援してもらった母の言葉を思い出す。
「--がんばって」
「...俺、頑張るよ!」
アレトは歯を食いしばり、重たい脚を動かして歩く。
ゴールが見えない安全圏に向けて。
アイの背中を追い続ける。
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「アレト様、現在のコマンドが終わりました。」
「そうか...一応逃れたということか。」
疲労感と緊張感が解けて、アレトはその場に崩れるように倒れた。
命を繋ぎ止めることができた。
しかし、安堵することはできなかった。
「早く、村のみんなを助けに行かないと...」
アレトはボロボロの身体を動かそうとする。
もし、この場に他の者が居たとすれば、その光景は六歳の男児が助けを求めるように這いつくばってるようにしか見えないだろう。
それほど、アレトの身体も、事態も悪い状態だった。
「アレト様、体力が著しく低下しているので道具を使いますか?」
凛と透き通った声でアイは驚きのことを言う。
その声を聞いてるだけで体力が回復しそうな気もするが...
「道具って、薬草かなんか持っているということ?」
「薬草よりも回復の効果のあるハイポーションがございます。」
「なんでそれを先に使ってくれなかったのさ!」
「コマンド中は道具が使えませんので...」
優秀なのかポンコツなのかわからないが、回復手段があるのは有り難い。
「早速お願いしてもいいかな?」
「かしこまりました。」
そういうと、アイは何も無いところに手を突っ込む動作をしたと思ったら、いつのまにか手元にハイポーションと思われるものを持っていた。
「アレト様、こちらです。」
「どんな手品だ...ありがたく使わせて頂くけど」
ドラえもんか!と、ツッコミを入れたくなったがそれよりも身体がハイポーションを望んでいた。
味はとても美味しかった。まるでエナジードリンクのようだ。飲んだ瞬間、ボコボコにやられた身体や体力が一瞬で癒えていく。
飲み終わった時には、身体は元通り以上のコンディションに戻っていた。
「すごいよ!アイ!一瞬で治ちゃった!どこで手に入れたの?」
「お褒めのお言葉ありがとうございます。こちらのハイポーションは世界に一つしかないと言われるポーション、創造神がお造りになった神物でございます。」
アイは無表情ながらも、ドヤっとした態度が見て取れる。
というか、世界に一つしかないとか、なんちゅうもの飲ませんだ!
おかげで全快したけど、なんかやるせないな。
「よくそんな高レアなアイテム持ってたよね。」
「予め持たされましたので。」
「...もしかしてなんだけどさ、死者を蘇生するアイテムとかもあったりするの?」
「道具はハイポーションしかありませんでした。」
神物とか持ってたら、他にもこの場を打開するようなアイテムがあるかと思ったが、見当違いだったようだ。
「そうだよね...」
「はい。しかし、アレト様のお手伝いは出来ます。命令をして下さい。」
命令してくださいとか、なんか、えっちいな。
その気になればいろんなことを命令しちゃうぞとおもったが、ブノウの亡骸をみて思い止まった。
「じゃあ、ブノウさんとちゃんとお別れしたいから手伝って。」
「かしこまりました。」
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ブノウの埋葬は思ったより早かった。
自分が全快していて作業が早かったというのもあるが、アイがとてつもなく早くロボットのように進めていったというのもある。
ブノウのお墓に花を添える。
何かないか探していたところ、一輪の綺麗な花が咲いていた。
それが、村で見たブノウの姿に思えて、何かしらの縁を感じた。
「ブノウさん、また来ます。次来る時はブノウさんみたいに強い姿が見せられるようにが頑張るよ」
アレトは合掌して、亡きブノウに語りかける。
そんなアレトの姿を見てアイは何を思ったのか、それは誰も知ることはないだろう。
「じゃあ、急いで村に戻ろう。」
「次の目的地はカボタ村に設定しますか?」
「よろしく頼む、出来るだけ最短ルートでお願いしたい。」
「かしこまりました。最短ルート検索中。検索終了。アレト様、私の背にお乗り下さい。」
「どうして、女の子におぶられなきゃいけないのさ!」
「アレト様は子供の身の故、これから行くルートは険しいです。」
「また、アレト様はあまり動けないので。」
「そうですか、じゃあ乗らせていただきますよ。」
アレトはそう言って、男の尊厳関わらず素早くアイの背後にまわる。
別にやましい気持ちがあるわけではない。
決してね。
アレトは、華奢だが、実っているところは実っている身体の後ろに乗る。
とても、いい香りがした。
そして、至近距離でアイの顔を見たことがなかったが、目が大きくクリッとしていてまつ毛が長く、その瞳に吸い込まれるようだった。
また、後ろから見る谷間がすごかった。
顔は童顔なのに身体は大人というアンバランスさ!
いかんいかん、俺は賢者、俺は賢者...
アレトは身体の異変を抑えながら、少し声を裏返して、
「じゃ、じゃあ出発!」
「しっかりつかまっていて下さいね。」
「しっかりってどこに...、うわぁー!」
アイがそう言うと、アイはアレトを担いで道なき道を物凄いスピードで走り始め、カボタ村へと向かうのであった。
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