第7話 AI

「なんだこれは...」



アレトは首を刎ねられたと思っていた。


 しかし、アレトの首から上はしっかりと付いていた。


 それだけでも驚くべきことだが、アレトは周囲の異常に気づき更に驚愕した。



「時が止まっているだと?」


「ご主人様、大変お待たせしました。私、戦闘から生活まであらゆる面でサポートさせていただきますAIでございます。」


「それは先程聞きました。ありがとうございます。」



AIと名乗る女性は、同じ文言を繰り返す。



それよりも、周りの状況だ。



 殺しに来た兵士の剣は振り翳したまま止まっている。


 兵士の顔には不快な表情を浮かべながら止まっている。


 揺れていた木の葉が止まり、音が止み、時間の流れ自体が一時停止する様だった。



「ご主人様、大変お待たせしまし...」


「あー、ごめん。それさっきも聞いたからもう大丈夫。」


「それでは個人認証を行います。」



AIと名乗る女性は機械的に喋る。



「貴方様のお名前は建成様でよろしいでしょうか?」


「この状況でいきなりだな。」


「貴方様のお名前は建成...」


「ーー前世の名前は建成だが、今はアレトだ。アレト・サクリフだ。アレトでいい。」


「名前の変更を確認しました。お名前はアレト様でよろしいでしょうか?」


「ああ、間違いない。じゃあ今度はこっちの番だ。一体何が起こったの説明してもら...」


「ご主人様の個人認証を完了する為に私の胸に手を当てて下さい。」


「おい!人の話を遮るな...」


「ご主人様の個人認証を完了する為に...」


「あー!分かったよ!やればいいんだろ!後でちゃんと説明してもらうからな!」



コイツ全くこっちの話を聞かないな。


 でも、前世の時の自分も母親の言うことを聞く前に話を遮って一方的に言いたいことだけ言っていたから人のことはあまり言えないか。


さて、個人認証を済ませるんだったな。


さっさと終わらせて今の状況を聞くか。


胸に手をあてればいいんだったよな。


胸か...



 AIと呼ばれる女性は、顔は可愛らしい童顔に対して身体付きはしっかりあるものはついていた。



 多分gカップ、いや、hカップか?知らんけど。


 そんなことより、やばいな。こんなところで童貞の悪さが出て来てやがる。



 アレトの前世は童貞だった。女子と目すら合わせられないクソ童貞だった。



胸にタッチするだけでいいんだ。


 簡単なことだ。友達とハイタッチする様な感覚でいけばいい。


風船とハイタッチだと思えばいい。


個人認証だからしょうがなくやるんだ。


決してやましい事をするわけではないんだ。



「ご主人様の個人認証を完了する為に...」


「あ、はい!すみません!」


「???」



AIが困惑した様な表情を見せた。



なんだ、表情変えられんじゃん。


というか、まじで童貞丸出しだな。


心を落ち着かせろ。


無になるんだ。



 アレトは覚悟を決め、AIの大きく実っている胸に手をあてる。



柔らかい...



 女の子とまともに、喋ったことが無いクソ童貞にはとてつもない程の破壊力だった。



僕は生涯この感覚を忘れん!



 AIの胸から自分の手と反応するかの様に青白い紋章の様なものが光り出した。


その様子は神々しく美しかった。


AIは透き通る様な声でアレトに語りかける。



「個人認証が完了しました。アレト・サクリフ様、こんにちは。」


「こ、こんにちは...」


「私には名前が有りません。ご主人様が呼びやすい様にお呼び下さい。」


「そうですか。だったら...」



アレトの頭の中に浮かんだのは高校時代に好きだった女の子の名前、かれんちゃ...



いや、それはキモいな。


AIだからなぁ...


よし!決めた!



「お前はAIだから、アイで決まりだ!」


「...かしこまりました。これから私の名前をアイとします。」



 アイと名付けられたAIは、なんだその安易でありふれた名前の付け方は。センスなさすぎるだろと言わんばかりの表情をしていた。



 というか、機械みたいにあまり表情を変えないのでこっちがそうおもっているだけだが。



 そんなことをアレトが思っている間にアイは話出す。



「私はあらゆる面でアレト様のサポートをします。何か困ったことがありましたらお申し付け下さい。」


「そうだ!色々聞きたいことがある。まず、何で時が止まっているんだ?」


「それは私AIの能力pauseです。時を一時的に止めることができます。」


「なんだそれ、チートじゃん。」


「しかし、デメリットもあります。戦闘時にしか使えないこと。戦闘時の敵と一定以上離れると効果が切れること。使ったら半年は使えないこと。使ったら私AIの他の能力が三日間使えなくなることです。」


「要するに、絶対絶滅のピンチの時に使えるという能力か。勝てない敵に遭遇した時に主に使える感じで、今がその状況ということか。」


「はい。その様な感じです。」


「じゃあ次に、何で助けてくれたんだ?一応初対面だよな?」



 いきなり出てきて、お待たせしましたご主人様は飛躍しすぎてる。


 こんな可愛い子と知り合いだったら、覚えていないはずがない。



「はい。それは私AIのアイが、神から創造されたものだからです。アレト様の様々なサポートをする様にと命令されています。」



はーん。あの胡散臭いジジイがねぇ。



「だったら何でもっと早くに、来てくれなかったのさ。」


「申し訳ございません。アレト様を見つけるのに手間取ってしまいまして、5年も掛かってしまいました。」


「なんだそれ。手間取ったってどういうことなの?」


「本来なら、アレト様は王国の王子として転生させられることになっていたはずなのですが、手違いがあったようでこうして見つけるのに時間が掛かったということです。」


「驚愕の事実だな。今からでも転生をやり直すことはできないの?」


「恐らく不可能です。私から創造神に話しかけることは出来ないので難しいかと。」


「それは残念だ。」



アレトは内心で呆れていた。



 何が手違いでだコノヤロー。あのジジイ絶対許さねぇ。


 辺境の村のモブキャラと王国の王子とじゃあ落差が激しすぎるだろ。


 せめて、何かしらの個性のあるキャラが良かった。


あーでもやっぱ勇者が良かったな。


 あんなクソ野郎が主人公より、僕の方が絶対良いに決まっている


多分...



 そんな表情に出さず内心で地団駄を踏んでいるアレトを構わずにアイが語りかけてくる。



「アレト様、如何なさいますか?」


「何が?」


「この状況でのコマンドです。」


「コマンド?」


「現在二つのコマンドがあります。戦う事を続けるか、逃げるか、です。私的には後者をお勧めします。」


「今だったら、時が止まってるんだし兵士達全員やれるんじゃないか?」


「先程言い忘れていましたが、pause中は敵に攻撃することができません。pauseを解けば攻撃することができます。」


「そうなのか。だったら逃げるしか無いな。身体中痛いし。」



 アレトの身体は限界を超えている状態にあって歩くのがやっとという理由もあるが、ブノウを安全な場所まで運びたいという理由もあった。



「そういえば、戦闘中敵に全くダメージ与えられなかったんだけど、なんか理由分かる?」


「それは、アレト様がモブキャラであり、戦闘することがそもそも出来ないからです。」


「うそ?なにそれ?初耳なのですが...」


「アレト様は農民の子のモブキャラです。」


「ーーまぁいいや。詳しい話は後で聞くとして、まずはこの場から離れないと。アイ。安全な場所までルート案内とかできたりする?」


「はい。近くの安全地帯までナビゲートします。」









 こうして、アレトはブノウを担いでアイと共に安全地帯まで向かうのであった。











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こんばんは。今日天気良かったですね。次回更新も気まぐれです。





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