第6話 抗え


しばらくその場で立ち尽くしていたと思う。



村の方から、断末魔が聞こえてくる。



どうしたらいいのか分からない。




母親を亡くした時、





自分は何も出来なかった、





僕はクズだった、





ブノウが目の前で死んで、改めて無力さを感じる。







ーー戻らないと





みんなを助けないと...





頭で考えていても、行動に移せない。



脚に力が入らない。






「ーー勇者様を探せ!!村の近くにいる人間は皆殺しで構わん!!女供は殺さずに捕縛しろ!!」





勇者の仲間が迫ってくることが分かる。





逃げないと...





しかし、アレトは動けなかった。



 アレトの視界には体温を失ったブノウが映っている。



 アレトの感情には怒りと恐怖が入り混じってぐちゃぐちゃになっていた。



「おい!!こっちに誰かいるぞ!!」



「子供だ!!子供がいるぞ!!」



「子供だろうと構わん!!将来の不安材料は今のうちから潰しておけ!!」



ーーそうかい。



アレトから乾いた笑いが溢れた。



子供でも容赦ないか...



 転生したら俺tueeeができると思ってたんだけどな。



 もう少し時間くれたっていいよな。せめてこういうイベントは15歳ぐらいまで待って欲しかったな。



あの胡散臭い神様なんもしてくなかったな。



 むしろ、こんなイベントを早々に寄越すなんて絶対僕のこと嫌いだな。



 勇者の仲間であろう兵士らしき者が剣を自分に振り翳してくる。




また死ぬのか...




 本気でこの世界で生き抜こうと決意したのに...





これじゃ前世のクズの時の自分と同じだな...




アレトは諦めていた。



 己の無力さを感じ、大人しく自分の死を待っていたのかもしれない。



 あるいはゲームの中の通常のモブキャラだったらあっけなくやられて消滅していたかもしれない。




アレトの内心では既に諦めていた。




が、





 アレトの身体は無意識に剣を避けるように横に飛んでいた。



「なっ!!」



「こんなところで死んでたまるかぁ!!!」



アレトは顔を上げ前を向いていた。



何故、動けたのかわからない。



ただ、死ぬ間際に、



 母親と助けられなかった少女、ブノウの顔が見えた。



 分からないけど、諦めるな、頑張れと言われた気がする



 自分で避けたというより、誰かに押されたような感覚だった。



 今まで絶望と無力さ故に顔を上げることができなかった。



 だが、今は、明確に目の前の敵を倒したい意志が湧いてきた。



脚も不思議と力が入るようになった。



兵士がこちらに向かって突っ込んでくる。



すかさず、近くの茂みに逃げ込んだ。



戦う意志はあっても所詮自分は子供だ。



 この場を打破できる良いアイデアは無いだろうか...



 アレトは逃げながら子供の脳をフル回転して考えていた。



しかし、



 アレトは村からあまり出たことは無かったので此処らの土地勘は無いに等しく、簡単に包囲されてしまった。



「やっぱここまでか...」



「おい!ガキ!悪いがここで死んでもらうぞ!恨むなよ!」



 アレトは、近くに落ちていた木の棒を拾い手に取った。


 その木の棒は駆け出し冒険者が最初に装備するような棒だった。


 子供のアレトにとっては少々重たかったが、両手で持てばなんとかもてる棒だった。


 兵士はこちらの木の棒を持って身構える様を見て嘲笑っている。



「おい、ガキ。可哀想だから死ぬ前にいい思いさせてやるよ。」


「なめんなよ。」


「口だけは達者なことだな。まぁいい。俺は暫くお前に攻撃しない。そのお粗末なおもちゃで俺に攻撃することだな。子供のおままごとに付き合ってやるよ!」


「クソぉ!!」



 アレトは目の前の一人の兵士に向かい木の棒を振り攻撃する。


 子供が振っているにしても金属バットのような木の棒で頭を攻撃すれば必ずダメージを与えられるはずだ。


アレトはそう考えていた。


 しかし、アレトの攻撃は相手に全く効かなかった。


 アレトの攻撃は、兵士の頭を思い切り振り抜いたはずだった。


 手応えもあったはずなのに、相手の顔には与えた傷すらない。



「どういうことだよ...」



アレトは、再び絶望感に陥る。



「おいおい、一発だけか?俺の頭に会心の一撃が入ったと思ったか?」


「はぁぁっ!!!」



 アレトはけだもののように咆哮を上げ再び兵士に攻撃を仕掛ける。




何度も何度も攻撃した。




 息が上がろうとも身体を動かし、腕の筋肉が限界を迎えていても構わず木の棒を振り続け攻撃した。


 

 クソ!何でだ!何でダメージを与えられないだ!


アレトの頭の中は真っ白だった。



「んー、もういいな。飽きた。」



兵士がアレトの頭を掴み蹴り飛ばした。



「ぐはぁ...」



久しぶりなこの感覚。



腹に焼けるような痛みが生じる。



「少しは俺を楽しませてくれのかなと思ったけど威勢だけだったな。勢いはあったが所詮は子供。力が足んねぇーだよ!」



 兵士は倒れ込んでいるアレト顔に蹴りを入れる。アレトの顔に鈍い痛みが生じる。



「もういい。おい。後始末は任せたぞ。」



 兵士が別の兵士にそう言うと他の兵士が剣を持ってアレトに振り翳してきた。



ああ、本当に此処で終わりか。



 折角ブノウさんに生かしてもらったと言うのに。


何も出来なかったな。



「ガキ!恨むなよ!!」



「うあぁぁっ!!!!」



 兵士の振り翳した剣先はアレトの首に一直線だった。


 アレトも死を受け入れたくなかったが、変えようないのない運命に抗えなかった。




本当に終わりか...






刹那、






時が止まった。





「ご主人様、大変お待たせしました。私、戦闘から生活まであらゆる面でサポートさせていただきますAIでございます。」




透き通る綺麗な声だった。





 アレトの目の前に猫の様な可愛いらしい女性が立っていた。










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お久しぶりです。前回の更新から1ヶ月が経ってしまいました。暑くなって来ましたので水分補給は忘れずにお願いします。また、気まぐれで更新します。

















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