第5話 生きろ
「ありがとうございます...勇者様。」
貫禄のある声で村長が感謝を勇者に伝えた。
周りからは歓声や賛辞が飛び交っている。
勇者はにっこり笑いながら村長に話しかける。
「いえいえ、とんでもないです。勇者としての勤めを果たしただけですよ。」
勇者の左手にある伝説の剣が神々しく輝いている。
それに対して、勇者の足元の魔物の死骸は禍々しさを放っていた。
そうだ。スコクエのイベントにも似たようなことがあった。
でも確か、畑を襲う魔物は、実は主人公の昔の仲間で、ある特定のアイテムを渡すと主人公のことを思い出して仲間になるイベントだったはずだが...
「では、私は勤めを果たしましたのでこれで失礼します。」
「はい。ありがとうございました。」
村長は頭を深々に下げ、これでもかというくらいに感謝をしていた。
勿論、アレトの父親も同じように何度も頭を下げていた。
周りの村民も勇者に向かって感謝の言葉を伝えていた。
自分がモブキャラだからか分からないが、前世の時にスコクエをやっていた際、同じような場面があったがそこまで嬉しいとは思わなかった。
やっぱり、ゲームと現実とでは感覚が全然違うよな。
そういえば、元兵士の男はどこに行った?
周りを見渡してもいなかった。
元兵士の男性を探している間に勇者はカボタ村から発とうとしている。
「では、また何かありましたら王国の方にご依頼下さい。いつでも、飛んでいきますので。」
「おお!何とも心強い!またよろしくお願いいたします...」
勇者はカボタ村を発った。
村民は勇者が見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。
僕も店に帰るか。
エレナとレイを待たせているし、母さんも間もなく帰ってくるだろう。
今日はお祝いだろうな。
でも、アレトには心残りがあった。
それが何か勇者にあるような気がして、アレトは後を追うことにした。
勇者と村のみんなに気づかれないように。
元兵士の表情が忘れられなくて、どうもその原因が勇者にあるような気がする。
恨みなのかな。
もしや、勇者パーティを追放されたアレ的な?
いろんな憶測が頭の中で飛び交う中、勇者の後を気づかれないように尾行した。
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カボタ村の森を抜け、広大な草原に出る。
あたりは風が心地よく吹いており、とても爽やかなになるような場所だった。
アレトは尾行を続けていた。
まもなく、勇者はある人物に出会う。
その人物は引きこもりの元兵士だった。
婆ちゃんの話からはもっと頼りない印象でしか無かったが、今は一人の戦士として勇者の前に立ち塞がっている。
「これはこれは、ブノウさんじゃあ無いですか。」
「久しぶりだな。勇者ロア。」
「もしかして、俺に会いたくてわざわざ会いに来てくれたの?」
「ふざけるのも大概にしろ!お前カボタ村のみんなに何かしてないだろうなぁ!!」
「何もしてないよ〜。ただ、依頼をこなして魔物を倒しただけさぁ。」
「お前また能力で魔物を使役して金を騙し取ったのか!」
「いやぁ〜、あんな田舎の村にお金があるだけ無駄でしょ。俺が全て使った方がお金も幸せだということよっ。」
ブノウは、もっていた槍をロアに振りかざす。
ロアは簡単に避け、ブノウの腹に一発重たい蹴りを入れる。
相当レベル差があるのか、アレトとブノウには勇者ロアの動きは早すぎてとても見えなかった。
「うっ...」
「元兵士風情が俺に攻撃できると思うなよっと。」
勇者ロアは再び攻撃をする。
一方的すぎる...
ブノウは痛みを堪えながら、勇者ロアを睨む。
「お...お前。村の金を...みんなで貯めた金を返せぇ...」
「あいつらもバカだよなぁ〜。ただでさえ金が無い貧乏人の集まりだというのに、村の全財産をこの勇者ロアに貢いでしまうもんなぁ!」
「っツ!!!」
「まぁでも、最初は俺もこんな依頼断ろうと思ったさ。依頼金が村の全財産でも所詮俺からしたら端金だからな。だからある条件を出した。」
「カボタ村の若い女供を俺の奴隷にする。子供もだ。俺ってば可愛い女には目がないからねぇ。カボタ村の女供は皆、顔とスタイルが良い。」
「ふざけるな!!村長がそんなこと許すはずないだろ!!」
「いんやぁ〜、最初はキレられたけど、村の全員殺すぞって脅したら快く許してくれたよ。」
「でも今頃は俺の仲間がカボタ村を襲撃して、老いた野郎と男供は皆殺しにしてると思うけどね。」
ブノウは我を忘れたかのように勇者ロアに飛びかかる。
だが、そんなブノウの攻撃は当たることもなく、再び反撃された。
このままでは、ブノウが死んでしまう。
ブノウの顔はもうめちゃくちゃだ。
なんで意識がまだあるのか分からないくらいにブノウの状態は酷かった。
アレトは目の前の光景に唖然としていた。
スコクエのイベントに似たようなことはあるとは思っていたが、やはり、スコクエの世界とは少し違うのか?
物語の主人公であるはずの勇者の裏側がここまで悪行で満ちた人物だとは。
ブノウさんを助けないと...
しかし、アレトは勇者の圧迫感、否、勇者から発せられる恐怖に圧倒されて、動けなかった。
クソっ!!僕はまた逃げるのか!!
本気で生きるって決めただろ!!
動け!!
勇者ロアはブノウに最後のトドメをしようとしている。
その時、自分でもよく分からなかったが足が動いた。
ブノウさんの方向に目がけ一直線に。
多分、鍛冶場のくそ力ってやつだろう。
でも、この行動が過ちだった。
勇者ロアは、瞬時にアレトの方向にトドメの攻撃を向けてきた。
あっ、これ、死ぬな。
瞬間、アレトの頭の中では前世で少女を助けようとした時の光景を思い出していた。
アレトは耐え難い痛みを目を瞑り覚悟して待っていた。
しかし、身体に痛みは来なかった。
それもそのはずで目の前には、心臓を槍で刺されたブノウが立っていたからだ。
何が起きたか瞬時すぎて分からなかった。
「ブ、ブノウさ...」
「リーブ!!」
「くっッ!!」
ブノウが何かしらの呪文を勇者に唱えると、勇者は何処かに吹っ飛んでいった。
ブノウは勇者が吹っ飛んで消えた様子を見届けると膝から崩れるように倒れた。
「ブノウさん!!」
「...ああ、アレト...だめじゃないか...こんなところ一人で来て...」
「喋らないでくださいよ!!!血が...血が止まんないです!!!今、助けを呼んで来ますから...」
「いやダメだ...今、村に行ったらお前が殺されちまう...」
「でも!!」
「お願いだからおじちゃんの言うことを聞いてくれ!!」
ブノウは泣きながらアレトの腕を掴んだ。
アレトも泣いていた。
自分の無力さ、また何も救えなかったと。
「アレト...お前はまだ子供だが、とても責任感があって真面目な子だ...」
「...俺のかつての仲間も責任感があって真面目なやつらばっかりだった。本気で国を守り、より良い王国を築いていこうとしていた。」
「だが、いつも俺の周りでは責任感があって真面目な奴から死んでいく...」
「死ぬべきなのは俺だっていうのに、全く神様は酷いことをするもんだよな。」
「だから、アレト...お前は死ぬな...」
「生きろ」
「みんなの分まで生きろ...」
アレトは泣いていた。
「ブノウさん...ごめんなさい...本当にごめんなさい...」
「謝るな...引きこもりだったが、一応元兵士だったんだ。子供一人守れないくらいで国を守った兵士だって名乗れないだろ...」
ブノウの声は段々と消えかけそうだ。
「ブノウさん!!」
ブノウの身体から熱が引いていく。
「最後にお前一人だけでも救えて良かった。どうしようもない人生だったけど、あの勇者に一矢報いることもできたもんな...」
ブノウの表情は柔らかい。
「ブノウさん...ありがとうございました...!!」
アレトは最後に精一杯の笑顔で感謝を伝えようとしたが、泣いてしまったいるせいで顔がぐちゃぐちゃだ。
そんな様子を見たブノウは安堵したように少し笑みを浮かべて、静かに息を引き取った。
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次回の更新も気まぐれです。
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