第4話 気を引き締めろ

「アレト〜、お母さん少し出かけてくるから店番よろしくねー。」



 アレトの母親であるアイナがいつもの様に優しく声掛けてくる。



「う〜ん、分かった。」



 アレトは背を伸ばしながら、寝起きの身体を起こす。


 昨夜のこともあって、少し寝起きが悪い。


 まだ幼いのでレイの体を見ても向こうはなんとも思わなかっただろう。


 しかし、中身は男子大学生であるアレトにとっては唯一の男友達だと思っていた人物が女の子だと知った時の衝撃は凄まじかった。


 まぁそりゃあ、小さい子は男女一緒に着替えたりお風呂に入っても気にしないもんな。


 おっと、いけない。


 母さんに店番頼まれているんだった。


 アレトは身支度を整え、1階のお店に向かう。


 机に書き置きがあった。


アレトへ

レイちゃんが起きたら、台所のご飯をあげてね。レイちゃんは今日もお店のお手伝いをしてくれるから何かあったらよろしくね。

あと、今日はお父さんにご飯届かなくていいよ!!

              お母さんより


 そうか。今日もレイはお店にいるのか。


 昨日はエレナとレイが奇跡的に出会うことはなかったが、今日は無理そうだな。


 エレナのやつレイのことあまり好きじゃないからな。


 今日も大変そうだな。





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「はぁ〜疲れたぁ〜」


「お疲れ様。ごめんね、今日一日店番頼んじゃって。」



 結局、店番を頼まれてからお店を閉めるまで母親は帰ることなく、アレトは仕事をしていた。


 一人でということはなく、レイは勿論として、エレナも遊びに来たついでに手伝ってくれた。


 しかし、エレナはレイが働いている様子を見た途端、案の定、ぶつくさいいはじめ手を焼いた。


 レイもエレナを見ると素っ気ない態度を取り始めたので、らしく無い行動に驚いた。


 最初はどうなることやらと思っていたが、なんやかんや仕事は一生懸命に取り組んでくれて、とても助かった。


 でも、母親がいない分、児童三人でお店を回すのは大変であり、もし、今日がいつもより混雑していたらお手上げだっただろう。


 というか母さんも、子供一人に店番を頼むとか無理な話だろ...



「そういえば、今日一日何してたの?」


「今日はね、お父さんと村長と勇者様で畑を荒らす魔物について話していたの。」


「明日勇者様が畑の魔物を誘き寄せて倒してくれるらしいから、これで野菜も安全に採取することができるわね!」



 そうか、とうとう明日か。


 何か引っかかることもあるが、畑を荒らす魔物が討伐されるというのは喜ばしいことだ。



「お父さんも喜ぶね。」


「そうわね!」



 お母さんはとても嬉しそうだ。


 ずっとお父さんのこと心配にしていたもんな。


 この事件が解決したらお父さんもお母さんも安心して眠れるな。



「あー、そうそう。明日もお母さん畑の件で一日いないから店番よろしくね!!」



 まじすか...





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 そして翌朝。


 昨日と同じように店番をしていると、レイとエレナが時間差で来た。


 また、エレナがぶつくさ言うのかなとも思ったがそんなことはなく、今日も真面目に働いてくれている。


 というか、今日、お客さんがまだ一人も来ていないから暇だということもある。


 いつもの様に、エレナには店の前に立ってもらい、レイには薬草の調合の他に、布の服の作り方や単純な武器な作り方など様々なことを教える。


 なんやかんやで、一日が過ぎるのかなと思っていたその時、畑の方角から歓声が聞こえて来た。


 きっと、勇者が魔物と戦っているんだろう。


 それを、僕たちモブキャラが応援する。


 ゲームではありきたりなイベントだな。


 まぁ、モブキャラの僕にとっては縁の無いイベントだな...


 そんなことを思っていると、隣のお婆ちゃんの家から、一人の見知らぬ男性がヤリを持って出てきた。


 体格的にはそこまで大きくは無かったが、どこか鍛えていたんだろうという印象があった。


 そこまで見て、その人が隣の婆ちゃんの息子で元兵士の男性だと分かった。


 その男は、歓声の上がっている畑の方を見て、一目散に駆け出した。


 どこか緊張感があるというか、髭を生やした温厚そうな顔には、張り詰めた表情が出ていた。


 あの人が、隣のお婆ちゃんの息子さんか。


 想像していたのは、前世の僕みたいなダメ人間だったんだけどな。 


 立派な兵士さんにいそうな人だった。


 

 アレトは何を思ったのか、その男性の後をついて行きたいと思った。



「エレナごめん!後の店番頼んだ!レイにも伝えておいてくれ!」


「ちょ、アレト!!待ちなさいよ!!どういうことか説め...」



 エレナが何かを言おうとしていたがお構いなしにアレトは走り出していた。


 この、胸に何か引っかかる違和感。


 元兵士の人について行けば何か分かるかもしれない。



 アレトは走りながら、前世のことを思い出していた。



 そういえば、僕が死んだ時も何も考えずに走って後悔したな。


 今回は、そんなこと無いといいが...


 アレトは不安だった。


 このまま、元兵士の男性について行って不幸のことが起こらないだろうかと。


しかし、そんな杞憂も束の間だった。



 畑の真ん中で、モブキャラの歓声を浴びる様に、まるで、かの英雄ように勇者が右手を掲げて立っていた。


 僕はその光景を見てホッとしていた。


 今回ばかりは勘が外れたと。



 しかし、元兵士の顔には怒りの表情が出ていた。



 僕はそんな元兵士の顔見て再び気を引き締めたのであった。




 

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こんにちは、今日寒いですね。皆さんも体調管理に気をつけて下さい。

次回の更新も気まぐれにします。

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