第2話 異世界に転生したら...

異世界に転生した建成はまともな人間になりたかった。


ここで建成の考えるまともな人間とは、良い大学に進学し、親にも迷惑をかけず、親孝行ができる人間だった。


生きているだけで偉いと考える人もいるかもしれない。


しかし、建成はそういう考えを持たず、第二の人生が与えられた以上は本気で生きていきたい考えていた。





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誰かの声がする...





誰かが泣いているような気もする...いや、喜んでいるのか?




身体が動かない...




というか、無事に転生できたのだろうか。



転生先が剣とか豚とかはゴメンだぞ...


ーーしかし、そんな不安も束の間、自分の身体に人間の手足があることが分かり、胸を撫で下ろす。


が、身体には違和感があった。


なんか、僕の身体小さくないか?



重い瞼を開いてみる。



そこには頼りなさそうな男性と、助産師らしい女性が嬉しそうにこちらを見ていた。



「-----!!」


「-----...」



何を言っているのか聞き取れない。どうやら日本語でも英語でも、自分の世界にあった言語とは違うような気がした。


ちゃんと、異世界に転生できたようだな。転生先が人間だったのは幸いだとして、赤子スタートか。


赤子から始まる転生ものも珍しくは無いな。もはや、王道でもあるような。


これから、どんなチート能力が覚醒するのか楽しみだな。


顔は超絶イケメンだと良いな。



そんな理想を考えつつ、意識は再び薄れつつある。



母親の匂いがした。


母親に抱かれながら眠る夢を見てるような気もする。



建成は、充電が切れたように再び深い眠りについた。






「-おやすみなさい、アレト...」





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それから長い年月が経った気がする。


ところどころ記憶に残っているのは、転生先で生まれ育った家族と過ごす日々。


父親は農夫で、母親は道具屋を営んでいる。


言葉はいつの間にか覚えていたが、まだ六歳児レベルだ。身体も大体六歳児ぐらいかな?


というのも、この歳になってやっと前世のことを思い出した。


産まれたばかりの時は前世の記憶はまだあったはずだが、手術前に全身麻酔を施され目を覚ましたら一日経ってしまいましたのような浦島太郎状態を味わっているようだった。


クソ。赤子の状態で前世の記憶があったらこの世界のこと勉強しまくって良いスタートを切ろうとおもっていたのに。


自分なりに調査をして現在分かったことは、自分の住んでいる場所が、山の中のカボタ村だということ。魔法は存在する。魔物も存在する。なんとなく世界観がスコクエに似ていることぐらい。


世界がどのくらい広いのか、少なくともこの村には世界地図というものが無いから知り得ない。また、歴史を知るために本を読んでみようとしたけれど六歳児には読めなかった。


少年アレトは村の小さな図書館みたいなところで本を物色していた。この時間は、ここを管理するかなり年老いたおばちゃんしかいない。


まず、語学の勉強から始めないとこの世界の歴史も知れないし、魔法も扱えないな。



「ねぇねぇ、アレト何してるの!!」


「あーエレナ、ちょっと調べたいことがあって...」


「アレトって字読めないのに変なの〜。」



顔の汚れた少女が声を掛けてきた。


背丈は同じくらいで、自分と同じ黒髪のボーイッシュな子だ。


この村には子どもが自分含めて三人しかいなく、エレナは八歳ぐらいだ。


もう一人、五歳ぐらいの少年がいるがあまり話したことは無い。



「さて、そろそろ家に帰るか」


「えー!!もう帰るの!!私来たばっかなのに!!」


「でも、これから母さんの手伝いしないと行けないから。」


「じゃあ、あたしも行く!!」



こちらの世界でも、前世の世界と同様の時間であるから、朝、昼、夜と分かりやすい。もっともこれらの単語は通じないが。


しかし、エレナのやつめっちゃついてくるな。昨日も一日中一緒にいたのに。レイの野郎はどこにいることやら。


レイはこの村の最年少であるにも関わらず、もの静かでクールな少年だ。


エレナの方が年上なのに、まるでわがままな妹のようだ。まぁ、妹なんていたことがないので憶測でしかないが。



「レイはどうしたの?」


「知らないよ。本でも一人で読んでるのかなとも思ったけどいなかったし。」



確かにレイは外で遊んでいるというより、一人で本を読んでいる印象がある。



「あいつ昨日は本のおばちゃんのとこにいたんだけどな。」


「あたし、レイのこと嫌ーい。全然遊んでくんないんだもん。いつも本ばっかよんでるし。」


「僕はレイの奴のこと好きだけどな。話をしたことはあまりないけど、僕も本好きだし。」


「えー、レイと一緒に居てもつまんないじゃん。」


「あたし、アレトは大好きだよ!いつも遊んでくれるし!!」



お前が僕に一日中付き纏ってだけだよと言いたかったかったがそんなことは言わない。なんせ数少ない友達だからな。



「将来アレトはあたしと結婚するんだから!!」


「はいはい、ごっこ遊びはまた今度な。」



よくあるよな。結婚とかに憧れてごっこ遊びをする子ども。中身は大学生だから保育士になった様な気分だ。


わちゃわちゃしている内に家に着いた。



「ただいま!!」


「あらアレトかえってきたのね。」


「アレトのお母さんこんにちは。」


「まぁ、エレナちゃんまで、今日も手伝ってくれるの?」


「うん!!」



エレナのやつうちの母さんに会うとなんか行儀良くなるんだよな。なんかもう、うちの店でアルバイトとして昔から働いてぐらい馴染んでるし。


エレナは、何も言われずに仕事場に入る。エレナの仕事は基本母さんの補佐と掃除。僕はというと、荷物運びや薬草などの調合をして手伝っている。


しかし、今日はいつもと違った場面だった。薬草などを調合する仕事場にレイがいた。



「あ!レイ!どうしてこんなところにいるんだよ!」


「僕もアレトのお母さんの手伝いがしたくて...薬草のことも興味あったし...」


目線を斜め下にそらしてモジモジしながら話してくる。レイは基本人と話すことが得意ではない。五歳で、人見知りとは先が思いやられるな。


「そうそう、アレト。レイちゃんにはこれから薬草の調合を手伝って貰うことにしたから、分からないことがあったら教えてあげてね。」



母さんが、作業をしながら声を掛けてくる。エレナは村の常連さんに接客していてこちらの状況に気づいていない。


エレナがレイのこと気づいたら色々ややこしくなるだろうな。


まぁいいか。その時はその時だ。


ーーその後、僕はレイに一から薬草の調合のやり方について教えた。所詮、六歳児にできる作業だからあまり歳の変わらないレイにとっては難しくは無いとは思うけれど。



「レイ、ちょっと外に出てくるから少し一人でできるか?」


「うん。大丈夫だよ。」


アレトは、父の畑に向かった。母の道具屋は野菜も売っているので、毎回決まった時間に野菜を取りに行っている。


父は、日中は畑仕事をしているので夜にならないと帰らない。


だから、少しの時間でも父に会えるので毎回この時間は楽しみであった。


畑に向かう途中、隣の家のお婆ちゃんがそわそわした様子でこちらに話しかけてきた。



「あら、アレトちゃんこれからお父さんのいくの?」


「はい。野菜を取りに行ってきます。」


「偉いわね、私の息子も見習わないかしら。」



お婆ちゃんの息子は元兵士だそうだが、今は怠惰な生活を送っているらしい。まるで、前世の僕のように。



「そんなことより、今、村に良い男前の若い子が来てるのよ〜」


「そんなんですか。珍しいですねこんな村に。」


「アレトちゃんも一度会ってみたら?」


「時間があったら少しだけ会ってみようと思います。」



確かに六年間生きてきて、村の外からお客が来るとは初めてのことだな。


昔はよく、旅人がこの村に立ち寄ったと聞くが、ここ数年は全く来なくなったと聞いたからな。



「やあ、そこの僕。少しお尋ねして良いかな?」


「?」



話しかけてきた男は、イケメンで身体つきが良くまるで物語の主人公のような人物だった。



「な、なんでしょうか?」


「宿屋の場所を教えて欲しいんだ。」


「宿屋なら、このまま真っ直ぐ言ったところにあるよ。」


「ありがとう坊や。良い子だね。」


「ど、どういたしまして。」



男からは圧迫感が出ていて話すのが億劫になった。


というか、どこかでみたことあるような気がした。


そんな考えも束の間、直ぐに確信へと変わる。


男が背中に装備している装備。あれはスコクエの伝説の剣だ。あいつは正真正銘のこの世界の主人公だ。



そして、この時はっきりした。





僕が転生したのは、この世界の主人公でも魔王でもなく、ただの村のモブキャラだということに。










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こんにちは。最近忙しくなってきたのであまり更新できなそうです。また、暑くなってきましたので水分補給を忘れずに!!また、気まぐれに更新します。





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