生まれ変わったら村のモブキャラでしたが全力で生きていこうと思います

やさい

第1話 最後の足掻き

どれくらい時が経ったのだろう。

多分僕は負けるだろう。



「おいおい、終わりかぁッ!!」



屈強な身体つきの勇者がけたましく怒鳴ってくる。


ふざけるな。

ここまで頑張ってきたんだ。

そう簡単に終わりたくない。



「はぁ、はぁ...」



身体を動かせ、頭を働かせろ、僕ならできる。



「はぁぁぁあッ!!!!」



咆哮を上げながら、ボロボロになった身体を動かす。


勇者に向かって走り出す。


届かないだろう剣先を振り下ろして。




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「そういえばさ、明日のスコーピオンクエスト買う?」


「そりゃあもちろん。今までのナンバリングタイトルは全てやってきたからな。」



男子学生が2人。揺れる電車の中、忙しない世間話しをしている。



「お前、スコクエだけはガチ勢だもんな。」


「まぁな。俺ぐらいやり込んでると全てのアイテムの位置や、NPCのイベントとかも全て覚えているからなぁ。」


「マジかよ。俺なんて1周したぐらいで満足なんだけど。」


「おいおい、1周だけじゃあスコクエは語れないぜ。せめて、3周はしないとNPCイベ全て回収出来ないじゃん。」


「よく飽きないよな。俺なんていろんなゲームに手出しちゃうよ。」


「まるでお前の女癖の悪さのようだな。」


「へへ、冗談おきついこと。」


「どうだかな。」



ーーまもなく、六会日大前。お出口は左側です。


電車のアナウンスが流れる。



「じゃあ降りるわ。」


「ああ、明日の10時に藤沢な。」


「また明日な。」


「おう。」



こうして、2人の男子学生は明日の再会を約束しそれぞれの帰路に発った。


何気ない日常がいつまでも続くとは限らない。それが例え明日であろうとも。





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電車の広告を眺める。次の駅で降りる。


藤沢駅で降り、江ノ電に乗り換え目的の駅まで向かう。


ようやく明日発売か。前作から4年経ったもんな。しばらくは生活リズムが崩れそうだな。


スコーピオンクエストは、日本向けの大人気コマンドRPGである。歴史もあるため、発売される度に様々なところで取り上げられる。


そんなスコクエの大ファンな自分も新作の発売ともなると、夜も寝つきが悪くなるくらい楽しみであったりする。


平凡以下な容姿と頭の出来。学校でも下から数えた方が早い成績で、運動神経も然程良くない。


目立ちたいというわけではないが、何か優れている能力が欲しい。


スコクエはそんな自分を輝かしい主人公にしてくれる場所だ。



「よーし、家に帰ったら前作のおさらいでもするか。」



目的の駅で降り自宅に向かう。明日のスコクエが楽しみな分、いつもの憂鬱な気分とは違い晴れやかな気分でいることができた。



「ねぇ〜、ママ!!ジュース買ってよ!!」


「家に帰ったらオレンジジュースがあるじゃないの。」


「やぁ〜だぁ〜!!このアニキュアのジュースが欲しいの!!」


「そんなこと言ってると夜ご飯抜きにするからね!早く行くよ!」


「え〜!!」


まぁ、たまにある光景だ。子供が親に欲しい物をねだる瞬間。僕にも昔はあんな時期があった。少女よ、バイトができるようになったらそんなジュースいっぱい買えるぜ。


しかし、少女は自販機の前から離れようとしない。母親は既に遠いところまで歩いている。1人にすれば勝手に付いてくると思っているのだろう。


僕も早く帰るとしよう。


夜空が輝いている。


心地よい風が靡いている。


目の前からくる車も嬉しそうに左右に大きく蛇行しながら近づいて来る。


おいちょっと待て。前の車の運転手寝てないか?


これはまずいぞ。


どうやって止めればいいんだ?その前に警察に電話するべきか。携帯を即座に取り出し電話しようとするが、車の進行方向は先程の少女のいた自販機に暴れ牛の如く突っ込んでいく。


マジかよ。まだ居たのか。さっきの母親はいない。少女も車の存在に気づいてない。



「おい!!そこのガキンチョ!!危ないからそこから離れろ!!」



普段大きな声を出さないので声が裏返った。そんなことより、少女はこちらに振り向いたが状況を把握していないようだった。



今から走って行ったら間に合うか?もしかしたら、車の軌道が逸れて自販機の方向には行かないかもしれない。そもそも、自分が行かなくても誰かが助けに行くだろう。



他の誰かだったらこんなことを考えて動かない、或いは少し間があってから走り出すかもしれない。



しかし、この男子学生は違った。


男子学生は少女を助けるために全力で走っていた。


少女と車との距離はもう然程遠くない。


間に合うか...


少女に向かって走っている時、今までの嫌な思い出が蘇ってきた。


友達にテストの点数を晒され虐めの対象になった時。


家族と喧嘩して仲が悪くなった時。


塾に行った挙句も大学受験に失敗し、1浪の末に偏差値の高くない大学に入ることになった時。



母親が亡くなった時。



少女に向かって手を伸ばす。車のライトが眩しい。運転手は相変わらずこっちの様子に気づいていないようだ。


少女は自分の置かれている状況に理解できないまま唖然としている。


間に合え...


少女の身体を思いっきり茂みの方へ突き飛ばした。


刹那、全身に鈍い痛みが広がり、間もなく頭をビルの上からボウリング玉を落とされたような衝撃を味わった。


ぅッ、なんとか間に合ったか...あの子は...うん...無事だな


視界が真っ赤になっていく。全身がバラバラになってるんじゃないかってくらいに痛い。死が迫って来ることが分かる。


クソ...最後にスコクエの最新作やりたかったな...


母さん...ごめん...結局なんも出来ないまま死ぬことになりそう...


母さんも亡くなる時どんな気持ちだったんだろう...


多分...天国には行けないだろうな...


来世があれば真っ当に生きたいな....



様々な思い出が走馬灯となって出て来るが、そんなことも束の間、男子学生は生き絶えた。







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意識が朦朧としている。


僕、死んだのか。


短い人生だったな...


せめて、母さんの分まで生きたかったというのに...



「こんにちはぁ!!」


「ッ!!!」



なんだこのいかにも神さまみたいな格好をした白髭おじさんは。


というか、死んでいるのになんで思考ができてるんだ?



「あれぇ?おかしいなぁ〜言語は日本語で合っていると思うけど...」


「あー、聞こえていますよ。」


「嗚〜呼それは良かった!!」



凄く陽気で個性のあるお爺さんだな。話していて苦手なタイプだ。



「な〜んでぇ死んだはずの僕がここにいるんだぁッという顔だねぇ〜」


「はい、なんで僕はここにいるんでしょうか?」



普通死んだら生まれ変わるか、星になるか、異世界に転生するかだろ。



「君ぃ!!鋭いねぇ〜、まさしく最後の考えが正解だよ!!」



このおじさん思考読めるのか。本当に異世界転生もんみたいになってきたな。



「死んだ人はみんなこうやって異世界転生するんですか?」


「のんのん!!選ばれし人間だけだよぉ〜」


「因みに君が初めて。」



僕が見た異世界転生は複数人転生していたけどな。



「なんで、僕なんなだ?」


「クズ人間だったから。」



なんだそれ。僕以上にクズ人間なんていっぱいいると思うのだが。



「君の最後の生き様。と〜ても素晴らしかったよぉ〜。」


「結局、少女は助からなかったけどねぇ」



衝撃の事実を知らされる。死んだ見返りが共倒れだとは...


選択を誤ったということか。


体は無いはずなのに心臓が苦しい。



「まぁ〜、そんなに気を病まないでよ。」


「何故、君を選んだのか...それは、クズ人間なお前でも他人を助けるためだったら死ねるからだぁ。」


「...」


「なかなか、頭の中で思っていても行動に移せる人間はいない。特に他人を命を賭して助ける、それは儂が見てきた人間には少なからずいなかった。」


「...」


「そういうことから、君ぃを特別に異世界転生という形で生き返させてやろうということだ!」


「ーーどうせなら、母親を生きかえさせたかった...」


「でもぉ、儂が認めたのはきみだからなぁ〜」


「じゃあ分かった。異世界転生は無しでいいから母親と同じ天国に連れて行ってくれ。」


「ぶぶ!!そんなことできませーん。」


「じゃあ、殺してくれ。」


「それもできませーん。君ぃの異世界行きは決定!!してます。」


「じゃあ...」



言葉を発しようとした時、視界が真っ暗になり意識が途絶えた。


「ごちゃごちゃうるさいから転生させちゃったよぉ〜」


「他の異世界転生だと、チート能力を授かるみたいなお決まりなパターンがあると思うけどそんなのないからねぇ」


「でも、可愛そうだから君ぃ好みの可愛いナビーゲーターを用意してあげるよぉ。」


「儂たら優しいなぁ!!」




「まぁでも、この世界でもどう生きていくのか。前世の二の舞にならないか高みの見物をさせてもらうよ。」



「せいぜい頑張れ、建成君。」












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こんにちは、最近暖かくなってきましたのね。そんなわけで初めてファンタジー作品を書いてみようと思います。拙い文章ばかりでしょうが読んでもらえると幸いです。更新は気が向いたらします。
















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