第二十六話 禁書
本書は、あらゆる怪異と繋がるための手順を記すものである。
以下の記述は、土着信仰……奇祭、その他古今東西の妖怪、神々の研究に心血を注いだ青森の考古学者、立花順一氏によるものであり、彼はこれにより数多の怪異と繋がり、交流し、後の世に多大な貢献を残した。
これを読む諸君らも、手順通りに儀式を行うことができれば、立花氏同様にさまざまな怪異と繋がることができるだろう。
是非、自分の目で不思議な世界を体験してもらいたい。
まず、儀式を実行するには準備しなくてはならないものがある。
一、少女の血
これは怪異が清らかな乙女の血を好むためである。異性交友がないと確信を持てる女の場合は、成人をした女性のものでも代用ができる。
一、男の体液
これは何でも構わない。血液、唾液、リンパ液などである。
一、蝶
これはできるだけ大型の、そして羽の紋様が美しいものほど好ましいとされる。
一、獣肉
豚、牛、鶏、猪、鹿……火を通していない、生の肉であるならば、どの生物のどの部位でもかまわない。
一、コップ一杯の水、塩
これは、特筆することはないだろう。
これらが用意できたら、儀式の準備に取り掛かる。
時刻は深夜の二時から三時。
場所は、締め切った風も通らないような狭い部屋が望ましい。
照明は蝋燭のみを使用し、数は問わないが出来るだけ周囲が薄く見える程度で多すぎない方が良い。
術者は部屋の中央に必要なものを持って立つ。
次に、指で少女の血に男の体液を混ぜる。丁寧に、ムラができないようにしっかりと混ぜる。
そして、その液体を顔に満遍なく塗りつける。かき混ぜた指を使い、丁寧に皮膚にすり込むようにして塗るのだ。液体が余れば首、鎖骨、胸元、手や足先など体の好きなところに塗ってかまわないが、決して余らせてはいけないし、目や口、鼻などの粘膜に触れさせてはいけない。
それが終われば、生肉をナイフで細かくちぎって周囲に撒く。
大きな塊をひとつ置いても構わないが、初心者はこちらの方がより成功率は高いだろう。
次に、コップの水を手に待つ。
次第に右に左に、後ろに前に、諸君らの名を呼ぶ声があるだろう。それは男や女、子供や老人……親や恋人、親友の声の場合も存在する。
それらが、怪異だ。
しかし友好的なものに紛れて悪霊も混ざっていることがある。
交流の持てる者とそうではないものを判別するために使用するのが蝶で、蝶を部屋に放ち、止まったものは安全な怪異である。
あとは好きに交流をとればいい。
しかし、聞き慣れた声で呼ぶ者と交流をとるのは、おすすめしない。……それらは、生者の魂が諸君らを思う強い思念が怪異となって現れたものである。
彼らは、諸君らにありとあらゆる要求をすることだろう。愛情を、欲望を……自分が憎く思う相手の死を要求することもあるはずだ。しかし、決して首を縦に振ってはいけない。……否、これは怪異との交流において最も重要なことのひとつであるのだが、それらの言葉に首を縦に振ってしまったら最後、人間は必ず、それを叶えなくてはならなくなるのだ。
逃げようと思っても怪異は許さない。
必ず、叶えるためにありとあらゆる手を使ってくる。約束を守るまで永遠に終わることはない。
そして、もうひとつ重要なことがある。
それは決してコップの水を手放してはいけないし、こぼしてもいけない、ということだ。諸君らの手に収められたその水のみが、諸君らを怪異から守ってくれる唯一のものである。飛沫が飛んでしまう、一滴二滴こぼれてしまう……それならば構わないが、中にはコップの水を手から落とさせようとする怪異もいるため、注意が必要だ。
もし、その水がなくなれば諸君らは怪異と化してしまうことだろう。
この手順を記した立花氏も、これによって命を落として怪異と化してしまったと言われている。
深夜三時を迎えたらコップの中の水を全て飲み、血のついた顔を洗い、塩をひとつまみ舐める。
これで儀式の終了である。
そしてその晩は、塩を小皿に盛って枕元に置いて眠る。
無事に朝を迎えることができたら儀式は成功である。
また、上記は実際に行わずとも、これを読み、または音声として聴くだけでも効果を発揮するものとする。
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