第8話 野球ボール
俺は、梨里杏との関係について男子達から質問…いや尋問させられた。
「何で碧斗が?!」「付き合った経緯は!?」など質問されていると、梨里杏も女子達から呼び出され廊下へ行ってしまった。
「大丈夫か……梨里杏…」
誰にも聞こえない声で呟いたのも束の間、周りには徐々に人が増えてきた。梨里杏を追いかけたいという気持ちはあったが、男子達に囲まれてしまい抜け出すのは不可能だった。何とか始業のベルがなるまでに誤魔化して周りにいた男子達を帰らせることはできた。
「梨里杏…まだ戻ってこないな…」
梨里杏を連れっていった女子達と梨里杏は、まだ教室に戻ってこない。俺は、梨里杏の席を見ながら、探しに行くか帰ってくるのを待つか考えているといると加藤が話しかけてきた。
「おい、碧斗頭大丈夫か…?」
「昨日当たったボールか…何とか大丈夫だ……って何で加藤知ってんだよ!」
「それはだなー…昨日実はな」
加藤side
俺は、運動神経が良いためいつも部活の助っ人として参戦することがある。バスケやバレー、バトミントンなど様々な部活から誘われる。そして今日は、野球部からの誘いがあったため放課後野球部の練習試合に付き合わされていた。
「碧斗うまくやれよ…」
俺は、バッターの出番が次に来るため素振りをしながら碧斗達がいる空き教室を眺めていた。今の試合の状況は、9回裏2対3で俺たちが負けている。ここでホームランでも打たない限りもう勝ち目はないだろう。そして俺の前のバッターは、バットの金属音を響かせヒットを打った。
「おい加藤頼んだぞ!」
「そうだな。ホームラン打ってサヨナラ勝ちにしてやるよ!」
ベンチにいる野球部に答え、バッターボックスに立った。ここでホームランを打てば逆転サヨナラだ。相手の投手が投げたボールに勢いよくバットを振り金属音が鳴った。打ったボールは、放物線を描きながら校舎の方に行き教室の窓ガラスが割れるのが見えた。
「嘘だろ…」
俺が、ホームランを打って窓ガラスを割った教室には、碧斗が梨里杏に告白しに行ったあの空き教室だ。ヤバい!俺のせいで碧斗の告白を台無しにするわけにはいかない!!
「俺、急いでボール取ってくる!!」
俺は、全速力で走り3階にある空き教室まできて、碧斗と咲野にはバレないようゆっくりと教室を覗き込んだ。教室内では、頭から血を流して倒れている碧斗と涙目であたふたしている咲野がいた。
「どうしよう!?手当てしたいけど碧斗君を保健室まで運べるほどの力ないわ…」
俺は、碧斗が倒れているのを見た瞬間覗き見るのをやめ咲野に近づいた。
「咲野…俺は、碧斗を運ぶからそこのボール持ってきてくれ」
「わ…分かったわ…」
咲野は、突然のことで驚いていたようだが俺の言ったようにボールを持ってきてくれた。空き教室を出て廊下を歩いていると梨里杏は俺のことをずっと見てきた。
「ねぇーあなたいつも碧斗君のそばにいる人ですよね…」
「そうだ…」
「やっぱりあなただったのね…でも、何故碧斗君が倒れたこと知ってたの?」
ここは、咲野に正直に話すしかない…でも碧斗が咲野に告白しようとしてたことは言わないでおこう
「さっきまで、野球の助っ人をやってたんだが俺が打ったボールがこの空き教室に入っていくのが見えたからだ…」
「なるほどね…それならあなたが全ての原因なのね」
「そうだよ…」
俺たちは、そこで話をやめ保健室に着くまでの間お互い何も話さなかった。保健室に入ると先生は何か作業をしているようだった。
「あの…頭にボールぶつけて気絶している人をベッドに運んでいいですか!?」
「いいわよ…ってうわっ!血が出てるじゃない!!」
碧斗をベッドに運び、咲野と俺は碧斗の手当てが終わるまで待つ事にした。俺たちは、碧斗の寝ているすぐそばで待つ事になった。数分して手当てが終わった後、先生は俺だけを保健室の外に呼び出し碧斗の症状について説明してくれた。
「あの子はまだ取り乱しているから、あなたにだけ先に説明するわ。まず命に別状はないわ…でもいつ起きるかわからないの…」
「はっ?…」
「確信は持てないけど、今日の夜起きるかもしれないし明日か明後日になるかもしれないの…」
「マジかよ…」
俺は、碧斗になんてことをしてしまったんだ…碧斗は、少しでも前に進もうと咲野に告白しようとしたのに、俺はその勇気を台無しにしてしまった。俺が暗い顔をしているのが分かった先生は大きい声で俺に言った。
「あなた男の子でしょ!だからそんな暗い顔しないの!!今後悔したってどうしようもないでしょ!!だから碧斗くん…の症状をあの子に説明して来なさい!」
「わかりました…」
先生に言われたことを咲野に伝えるため保健室に戻ったが、碧斗の症状についてあまり覚えていない。何故なら、俺は頭が真っ白になってしまい何も考えられなくなってしまったからだ。俺の覚えている限りでいいから咲野に伝えよう。
「悪い咲野…碧斗のことだけどさ、先生に聞いたんだがいつ起きるか分からないそうだ…」
「う…嘘…わよね…」
「本当だ。そして碧斗には俺が来たこと黙っといてくれ…悪い…俺先に帰る…!!」
碧斗が起きた時どう謝ればいいか分からなかった。そんな怖い気持でいっぱいになり俺は、保健室から逃げ出してしまった。
♦︎
「昨日お前が倒れた後そんなことがあったんだ…」
「それじゃあ…お前が野球のボールの犯人だったのかよ!!」
俺は、教室全体に響き渡るような声で加藤に向かって叫んでいた
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