第5話 梨里杏の家まで

俺たちは、次の電車が来るのをベンチで待つ事にした。流石にさっき電車が行ったばかりだったため周囲に人はほとんどいなかった。俺は、横にいる梨里杏を見ると眠たいのか欠伸をし、瞼を擦っていた。


「今日は、色々あって疲れたんだろ。眠たいなら寝ていいぞ。電車来たら起こしてやるから」


「そうね。それならお言葉に甘えて…寝させて…もら…う…わ…」


梨里杏は、話が終わると同時に瞼を閉じ寝てしまった。俺は、梨里杏が寝たのを確認した後、ホームにあった時計を眺めていた。すると突然俺の肩に何かが当たる感触がした。咄嗟に見てみると、梨里杏が俺の肩に頭を乗せていた。


「……っ!」


梨里杏の顔が近くにあって思わず声が出そうになったがなんとか堪えることができた。俺の肩には梨里杏の頭、手はまだ恋人繋ぎをしたままなので身動きが取れない。声を出して梨里杏を起こすのも悪いと思い俺はそのまま寝かせておく事にした。寝ている梨里杏は、寝息を立て気持ちよさそうに眠っていた。


「さっき、仮眠をとったとはいえ、流石に神経使いすぎたもんな…」


「…ん…ん〜…碧斗君かっこいいわ…」


「はっ…!?」


寝言とはいえ何を言ってるんだ?!一応周りにはまだ人がいなかったから良かったものの、もし誰かに聞かれてたら俺恥ずかしすぎて死んでしまう…

俺は、また梨里杏が寝言を言わないかそわそわしている内に駅のホームのアナウンスから俺たちの乗る電車が来ることを告げられた。梨里杏を起こそうとしたが身動きが取れなかったので声をかけ、起こす事にした。


「起きろ…梨里杏。電車もうすぐ来るぞ」


「ん…ん〜わかったわ…はぁ〜ーーよく寝たわ...」


梨里杏は、起きてすぐに伸びをし、俺の方に顔を向けた。少しだけ梨里杏は、顔を赤くしていた。


「わ…私何か寝言でおかしなこと言ってなかったかしら?言ってないならそれでいいのだけど...」


「えっ…!……いっ…言ってないぞ…」


俺は嘘をつくのは苦手だ。いつも加藤とババ抜きをすると絶対に負けてしまうほどだからな…そして梨里杏は、案の定俺が嘘をついたのが分かったのか頬を膨らませていた。


「絶対嘘じゃない!ねぇー碧斗君さっき私なんて言ってたの?」


「それは言えない。言ったら梨里杏顔真っ赤にして逃げ出しそうだから…」


「別に私、逃げ出したりしないから言ってよ!」


梨里杏は、多分俺から聞き出せるまで退かないつもりだ。これは、正直に梨里杏に言うしかないな…


「分かった…言うよ…。さっき、梨里杏が俺のことを「かっこいい」って言ってたんだよ…」


「ふぇっ…!う…嘘でしょ?」


「嘘じゃない…」


梨里杏は、さっき俺が言ったように顔を紅潮させ逃げようとしていた。しかし、電車が来るため逃げ出さないよう梨里杏の手を俺はしっかり握った。


「ちょっとだけでいいから碧斗君手を離して…今…私、顔真っ赤だから見られたくないわ…」


「そうか?俺は、顔を真っ赤にしている梨里杏可愛いと思うけどな…それに、俺も梨里杏に向かって可愛いって言ったんだからこれでおあいこだろ」


「ずるいよ…碧斗君…」


今の俺、梨里杏と同じように顔が赤いんだろうな。そのようなことを考えているうちに電車が目視出来るほど近づいていた。俺たちは、ベンチから立ち上がり電車待ちの列に並んだ。電車が駅に着き開閉口が開くと帰宅する人達で電車内は混んでいた。


「人多いな…梨里杏一応手繋いで乗るか?」


「そ…そうしてもらえると助かるわ...」


俺たちは、最後尾に並んでいたため梨里杏が開閉口に寄りかかれるようにした。その一方俺は、梨里杏を痴漢から守るため壁ドンのような体制で梨里杏を守る事にした。


「だ…大丈夫か梨里杏?」


「ドアに寄りかかっているから大丈夫わよ…」


梨里杏は、地面を見ながら胸に手を置いていた。俺からは、梨里杏の顔が見えない。でも少しだけ頬が赤いのは気のせいだろうか。もしかして、満員電車で気分悪くしたとか。俺が、頭の中で色々と考えている内に降りる駅に着いてしまった。


「やっと出れたな…」


「ほんと、疲れたわ…満員電車は、嫌だったけど碧斗君と一緒に乗れたからいいわ」


俺たちは、電車を降り改札口を抜けた後、恋人繋ぎをしなおし梨里杏の家に向かう事にした。静寂に包まれた住宅街を歩きながら他愛もない話を二人でしていると梨里杏の家が見えてきた。


「後、少ししたら碧斗君とはお別れね…まだ、こうして碧斗君と一緒に話してたいのに...」


「そうだな...でも家に帰ってもNINEをすれば...あっ!そういえば俺たちNINE交換してなかったな...よしっ今からNINE交換するか!」



そうだ。俺たちはまだNINEの交換をしてなかった。なぜなら今日まで俺は、梨里杏と殆ど話をした事がない。

そのため梨里杏のNINEを持っていない。


「いいの碧斗君っ!やったー!家に帰ってもまた話せるわっ!!」


梨里杏は、NINEを交換できるのが相当嬉しかったのか、スマホを両手に持ってぴょんぴょんと跳ねていた。こんな可愛いい生物俺今まで見た事ないぞ。


「そうだな。俺も梨里杏と家でも話せるのは嬉しい…」


俺は、バックに入っているスマホを取り出し、梨里杏とNINEを交換した。交換し終わり、歩いていると咲野と書かれた表札を見つけた。


「着いたわ。ここが私の家よ」



梨里杏の家は、二階建ての一軒家で外装をみるだけでも新築のように綺麗だった。


「綺麗な家だな。でも、梨里杏の家ってなんかもっと大きい家だと想像してた」


「昔は、ここよりも大きい家にいたのだけど、お父さんが主張で今は単身赴任中だから引っ越ししてきたの」


「そうだったのか」


「あ...あの碧斗君…前の家より少し小さいかもしれないけど、家で遊びたくなったら言ってね…」


「分かった。近いうちに梨里杏の家に遊びに行くよ」


俺は、名残惜しいが梨里杏の手を離した。そして梨里杏に向かって俺は、手を振った。


「また明日な!梨里杏っ!」


「バイバイっ!碧斗君!」


俺は、さっき来た道を通って駅まで戻った。電車が来るまでの間スマホをいじっているとNINEから通知が来た。


「これからよろしくねっ!碧斗君!」




梨里杏がこの文を送るまでに10分以上かかったことを俺は、知る由もなかった。

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