第4話 恋人繋ぎ
保健室を出て廊下を走った俺たちは手を繋だまま下駄箱まできた。
着いた時には、俺は運動不足で死にそうになっていたが、逆に梨里杏は平然と立っていた
「やばい...運動ひとつも...してないせいで、少し走っただけでも...息が切れる...」
「もう少し体力つけたらいいのに...碧斗君」
あれ…?さっき保健室を出るとき梨里杏は、俺のことを碧斗って呼んだのに、何で君付けなんだ?そう疑問に思った俺は梨里杏に聞く事にした。
「なぁー梨里杏。さっき…俺のこと碧斗って呼んだよな?」
「たしかに。呼んだわ…呼んだけど……私…やっぱりっ……無理っ!言えないわ!だって…恥ずかしいもの…」
梨里杏は、俺と繋いでいない左手を頬にあて顔と耳が紅潮していた。俺のことを呼び捨てで呼ぶのが彼女にとって恥ずかしいはずなのにさっき保健室を出るとき碧斗と言ってくれた。俺は、梨里杏の顔が可愛すぎて思わず頭を撫でたくなった。
「ありがと梨里杏。俺のために勇気出して言ってくれたんだろ…。俺のことを呼び捨てできるまでずっと待っててやるから安心しろ」
「碧斗…くん…分かったわ。いつか碧斗君のことを呼び捨てにできるように努力するわ。あと...こんなに私に対して優しく接してくれるのは、碧斗君だけだわ...」
校舎の中は暗く梨里杏の顔は、あまり見えないが月の光によって反射した一粒の雫が見えた。きっとこれは、涙なんだろう。今まで学校の中で梨里杏のことを優しくしてくれる人なんて誰一人としていなかったからな…そして、すぐに梨里杏は涙を拭い泣いているのを誤魔化すように笑って繋いでいた手を離した。
「ほら…こんなことしないで早く靴履きかえるわよっ!」
「そうだな。ずっとここで話してたら、先生が来そうだしな」
俺たちは、体育館シューズからローファーに履き替えまた、手を繋ぎ直したが、なぜか梨里杏は不服そうな顔をしていた。
「どうした…梨里杏?もしかして俺と手繋ぐの嫌だったか?」
「違うの...碧斗君あのね…わ…私!碧斗君と恋人繋ぎしたいわ!」
「……っ?!」
こ…恋人繋ぎっ?!俺、手汗大丈夫か…俺は今、梨里杏の左にいる。つまり、俺は右手で恋人繋ぎをすることになる。右手を見て手汗が大丈夫か確認していると梨里杏は上目遣いで覗き込んできた。
「だ…だめ…かしら?」
そんな上目遣いで見られて言われたら、もう手汗なんかもうどうでも良くなってしまう。こんな可愛い彼女と恋人繋ぎできるのに躊躇ったって意味がないからな。
「わ…分かった恋人繋ぎしよう!少し恥ずかしいけど梨里杏のために頑張らないとな!」
俺は、梨里杏の左手に俺の右手を合わせお互いの指を絡ませた。梨里杏との恋人つなぎはとても安心感がある。なぜなら普通に手を繋ぐのとは違い恋人つなぎは、すぐそばに梨里杏がいるため暖かく感じる。
「帰りましょうか碧斗君!」
「そうだな帰るとするか!」
俺たちは、歩幅をあわせながら一緒に校門を出た。そういえば、梨里杏の家ってどこなんだ?今日までの一つも話したことがなかったため梨里杏の家がどこか俺は、知らない。
「梨里杏の家ってどこら辺?」
「えーっとね…最寄りの駅から電車に乗って二駅先の所ね」
それを聞いて俺は安心した。なぜなら俺の家は、そのもう一つ先の駅で降りないといけないからだ。なので梨里杏を家まで送ったら、また次の電車に乗ればいいだけだ。
「俺、梨里杏を家まで送ってくよ。」
「えっ…!でも流石に悪いわよ碧斗君に迷惑かけちゃうわ…」
俺は、梨里杏を守るとさっき先生に約束したんだ。だから一人で夜道を歩かせるわけにはいかない。
「迷惑じゃない。むしろ俺が梨里杏を家に送るまでの間ずっとそばにいれる。それは、俺にとって…とても嬉しいことだ」
「た…確かに…私だって少しでも長く碧斗君のそばにいたいわ…」
梨里杏は、恥ずかしくなったのか俺とは反対の方を向き顔を隠してしまった。これ以上揶揄うと梨里杏が手を離して、逃げ出してしまいそうだったので一旦揶揄うのをやめた
「また話し込んでしまったな...このくらいの時間ならちょうど駅に着く電車があるから行くとするか」
「そうね。ずっとここにいてもしょうがないし...」
俺たちは、恋人繋ぎをしたまま住宅街を歩いた。その道中周りの視線が少し痛かったが、梨里杏のそばに入れるのなら俺は気にしない。
♢
改札口の前まで来た俺は、制服のポケットから定期を取り出し、梨里杏はずっとバックの中を漁っていた。
「梨里杏は、ICカードか定期持ってるか?」
「もちろん!持ってるわよ…えっ…!あれっない!私、定期どこにやっちゃたのかしら…!?」
梨里杏は繋いでいた手を離し慌ててバックや制服、スカートのポケットを触って探していた。
「このポケットには!財布…こっちはスマホ…ないどこにもないわ…」
「どこかに落としてしまったのかもな…」
流石に今から定期を探しに行こうにも外は、もう陽が完全に落ちている。探すのは無理だと思い俺は梨里杏のために切符を買おうと財布を出した。
「碧斗君だめよっ!私が定期を落としたのに切符を買ってもらうなんてことできないわ!!」
梨里杏は、そう言いながら自分の財布を取り出した。梨里杏の財布は、白の折りたたみの財布で猫をモチーフとしているものだった。しかしそれだけでなく、折り畳みの財布の間に何かパスケースらしきものが挟まっていた。
「あの〜梨里杏さんっ?まさかだけど…財布に挟まってるのって…」
「あっ……!定期の入ったパスケースあったわ!!…でも何でこんなところに?」
多分だけど…財布と定期を同じポケットに入れてしまい挟まったのだろう。定期が見つかって安心した俺たちは、電光掲示板で電車がいつ出発するか確認すると
あと1分しかなかった…
「早くしないと電車が行ってしまう!行こう梨里杏っ!」
「そうね...」
俺たちは、改札口を抜け、逸れないよう手を繋ぎ急いで階段を登った。駅のホームに出て乗ろうとした電車を見たが、もう開閉口が閉まっていた。そしてそれを見た梨里杏は、今にも泣きそうな顔をしていた。
「ごめんね碧斗君…私がポケットから財布を出して確認してたら電車に乗れてたのに…」
「いや…さっきも言ったろ!少しでも長く梨里杏と一緒に入れるのが俺にって嬉しい事だって!だから次の電車が来るまで待とう…」
俺は、梨里杏に優しい声音で言うと泣きそうだった顔が一瞬にして笑顔に戻っていた。
「碧斗君ってあの頃から何も変わってないわ…」
「梨里杏何か言ったか?」
「いいえ…何もないわ…」
俺には聞こえない小声で梨里杏は何か言っていた。正直何を言ってたか気にはなるが次の電車が来るまでずっと立ちっぱなしはキツい。周りを見渡すと空いているベンチがあった。
「梨里杏あのベンチ座ろう!俺もう歩きすぎて疲れた...」
「私も丁度座りたいって思ってたから、言ってくれてありがとうね」
そして俺たちは、次の電車が来るまでの間ベンチに座って待つことにした。
周りには殆ど人がいないか確認して
…お互いの指を絡ませた…
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