第3話 冷酷姫

「俺どんぐらい寝てたんだ…?」


一人で呟きながら窓の外を見てみると陽が沈みきっていた。

起きてすぐに左手を見てみると、まだ梨里杏と手を握ったままだった。だが疲労からか、梨里杏は寝ていた。今日は、梨里杏に心配をかけさせてしまった。

ボールのことでとても責任感じていたからな…梨里杏は、毛布も何もかけずに寝ていた。夜は、冷えて体に悪いと思い保健室の先生を探しに行くか。


「少し手を離すぞ…」


俺は梨里杏の手を離し保健室の先生に毛布をもらうためベッドから離れた。保健室の先生は、保健だよりをパソコンのキーボードを打って製作していた。


「あの先生、彼女寝ているので毛布をもらえますか?」


「あっ、それならあのの棚の中に入ってるから自分でとってね。私保険だより作るのに大変だから」



先生が、指を指した棚のところに行き何枚もある毛布の中から一枚だけとった。すぐに毛布を梨里杏のところへ早く持って行こうとしたら、先生に呼び止められてしまった。


「ねぇー君。少しだけあの子について話したいことがあるの」


「梨里杏についてですか?わ...わかりました、聞きます」


先生は、梨里杏について何か重要なことを言おうとしている感じだったので、毛布を掛けるよりも先に話を聞くことにした。

先生は、梨里杏の方をむいて少し暗い顔をしていた。



「彼女ね、学校で冷酷姫って言われているでしょう…でもね冷酷姫って噂されるたびに保健室に来て泣いてたの…」



「えっ…」


俺は愕然としてしまった。いつも梨里杏は男子を振る度に冷酷姫と噂されていたがそんな素振りを一つも見せなかった。梨里杏は、いつも一人で抱え込んで泣いてたって言うのか…何で俺は好きな人が悲しんでいるのに気づけなかったんだ…先生もまだ暗い顔をしながら話を続けた


「泣きながらいつも...「何で私がこんなあだ名をつけられて噂されないといけないの...」とか「好きな人は、私自身で決めさせてよ...」って言って嘆いていたの」


それを聞いていた俺は、怒りが込み上げてきて物に八つ当たりしたくなった。でもここは、保健室だったため怒りを抑えることにした。

話終わった先生は、暗い顔をしていたはずなのに俺の方に顔を向き直すときには笑顔になっていた。



「今日まで私ね、ずっと彼女の泣き顔しか見てこなかったの…でもね、あなたの寝顔を眺めている彼女はとても嬉しそうだったのよ。だから、あなたにお願いがあるの。彼女のことを大切にしてあげて…」



先生に言われなくても俺の中での答えは一つだけだ。

梨里杏を悲しませるやつがいたとしても絶対に俺が守る。俺の彼女は冷酷姫なんかじゃなくただの女の子だ。


「梨里杏のこと大切にします!だから、先生は安心してください!どれだけ梨里杏を悲しませる奴がいたとしても俺が守りますからっ!!」


俺は、梨里杏のことが好きだ。

それはこれから先、一生変わらない気持ちだ。

俺のその気持ちを理解してくれた先生は、涙目で笑顔を作っていた。

              

「分かったわ。あの子のこと任せるわよくん!」


「えっ…先生...俺が彼氏ってわかりますか…?」


「わかるに決まってるでしょ。だってさっき私に行った言葉、結婚前に親に挨拶行った時に言う様なこと言ってたし」


先生に言われて気づいた。確かにさっき言ったの結婚前に言うことだし、付き合ってるってバレてもしょうがないな。でも先生にバレたところで広めたりしないだろうし問題ないから良いけど…

そして先生との話を終わらせた俺は梨里杏に毛布をかけた。

さっきの先生の話を聞いたからか、梨里杏の頭を無性に撫でたくなった。頭に手を置き優しく撫で、そして寝ている姿を見ていると少し悪戯をしたくなってしまった。


「寝てる梨里杏も可愛いな…」


俺は梨里杏の耳に手を当てて囁いた。

すると梨里杏はゆっくりと目を覚まし俺を見てきた。


「ん…ん……んっ…!あ…あっ碧斗君!?か…顔が近いわよ?!」


梨里杏は、俺と顔が近いことに驚き、慌てて離れようとしたが後ろは壁で逃げ場はなかった。逃げ場を失った梨里杏の顔が少しずつ紅潮し、頬は朱色に染まっていた。正直俺も、とても緊張していて今にも心臓が張り裂けそうだ。俺は今、梨里杏のことを離したくない。なぜならさっき先生に梨里杏のことを聞いたからだ。


「顔が近くたっていいじゃん。俺たち恋人同士だし…だからさ、もう少しだけ俺このままがいい…」


「う…うん分かった。碧斗君悲しい顔してるから、もう少しだけならいいよ…」


俺と梨里杏は、お互い顔を近づけたままでいると先生が俺たちの姿を見ていた


「二人ともイチャつくのはいいけど、保健室じゃなくて外でしなさい」


「はいっ!」「はいっ…!」


俺も梨里杏も同じタイミングで返事をし、お互いに少しだけ距離をとった。すると梨里杏は俺がかけた毛布に気づいたのか毛布を見せてきた。


「あれこの毛布…もしかして碧斗君がかけてくれたのかしら?」


「あ…うん。夜は冷え込むから毛布がいると思ったんだ…」


「あっ…ありがとう碧斗君…」


二人だけで、また話をしていると先生が俺たちの横に入ってまた話を中断させられた。梨里杏は俺との話に割り込んできたのが不服だったのか頬を膨らませていた。


「もう遅いわよ。早く帰りなさい」


「あっ…ホントだ」「本当だわ…」


時計を見るともう19時を過ぎていた。流石に保健室に長居しすぎてしまった。急いでバックを持って二人で保健室を出ようとした時、先生に腕を掴まれ俺にだけしか聞こえないような声で囁いてきた。


「外暗いから分かってるわよね彼氏くん。ちゃんと彼女を家まで送ってあげるのよ…」


「分かってますよ」


先生、俺の彼女をたった一人夜道歩かせるわけないじゃないですか。それに…


「さっき、絶対に守るって約束しましたしね!」


そう先生に告げた俺は、先生から離れ梨里杏の前に来て俺は手を差し伸べた。


「さぁ、一緒に帰ろう梨里杏!!」


「そ…そうね!」


俺の差し伸べた手を梨里杏が掴んだと同時に保健室を出て二人で廊下を走った。



「梨里杏!俺は、冷酷姫の梨里杏じゃなくて、ただの女の子である梨里杏が好きだから!」


「恥ずかしいからあまり大きな声で言わないでよ!!」



俺はこんな素敵な笑顔をする彼女が好きだ。


今日から俺は、梨里杏を彼女のとして大切にする。





ー冷酷姫ではなく普通の女の子である梨里杏をーー

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