第116話 LAST BATTLE

 はじめは墨で〝神〟と一文字書かれた白いティーシャツを着て、デニムパンツを穿いた男の子の姿をしている。オルタネーターじゃあない。テキトーに自分で切ったみたいな髪型をしている。


「どうして人の声が?」


 助手にも聞こえていたらしい。

 あたしの空耳じゃあなかった。


「きみたちには人の声が聞こえるんだね?」

「創にはなんて聞こえてんだ?」

ね。この中に入っているのは、この『Transport Gaming Xanadu』の休眠アカウント――プレイヤーがゲームに飽きちゃって、全くログインされなくなったアカウントたち」


 ゲームの話が出てきた。

 大天才のあたしにもわかるように話してくれよ。


「データとして存在しているけども、パソコンの持ち主っていうかゲームのプレイヤーがゲームを起動してくれなくなったから、……でも、そういうのって、しばらくは残しておくもんじゃあないんですか?」

「運営としても三ヶ月は残してある、らしいね。それも過ぎちゃった子たちがこの中にいる。完全に【抹消】されずに、蓄積されていったプレイデータ、が、これだね」


 なんとなく理解できたような。

 要はこの声は〝着ぐるみの怨嗟〟みたいなもんで。


 中に入って動かしてくれる人が来ないから、捨てられそうになっている着ぐるみたち。

 そんな着ぐるみが、この球体にぎゅうぎゅうに押し込められている。


「正体がわかったところで、ラストバトルを始めようかね」


 創が指パッチンすると、球体が変形し始めた。

 グネグネと腕が生えて、足が出てきて、さらに背中からは一対の翼がニョキニョキと伸びていく。


なら、やっぱりドラゴンの姿をしていないとダメだよね!」


 その翼で自身を持ち上げながら、足と足の間から尻尾がギュルンと出てくる。

 腕と腕の間からは恐竜の頭のようなものが生えて、そのとび色の瞳であたしと参宮とを見て「ギャオオオオオオオオオ」と叫んだ。


 それは人の声には聞こえなかった。


「グギュルル」


 もし人の声で喋ってくれたなら、同情の余地はあったかもしれねェ。

 さっきまでの話を含めて考えて、あたしはSAAの銃口をドラゴンキングの頭に向けた。


 球体は赤紫色だったが、今はずいぶんとカラフルな姿をしていた。

 一枚一枚のウロコが、それぞれの色で輝いている。


 これは――あたしの推測の域を出ないが――それぞれが元は違う人のデータだったんだろう。

 十人十色なそれらを集めているから、こんなにチグハグな姿になっちまっている。


「あたしは、このゲームをクリアして、約束通り、侵略者を追い出してもらうからよ」

「グオオオオオオ!」


 ドラゴンキングは雄叫びを上げた。

 そんなのでびびらねェんだよな。


「だそうだけど、参宮拓三きみはどう?」

「……四方谷さんが、望むようにすればいいと思います。四方谷さんがこの世に存在していたことを、俺が忘れなければ」


 助手は苦い顔をしていて、創が唇をとがらせて、何か言おうとして、結局何も言わない。

 ドラゴンキングの尻尾が創に直撃したけど、その尻尾は創の身体を通過して床を叩いた。


「全人類の平和のため」


 ピースメーカーとして。


 あたしはSAAの引き金を引いた。

 SAAは召喚獣を吐き出さず、あたしの思惑通りに、銃弾が発射される。


 一発目は頭をかすった。

 二発目が右腕に当たって、ドラゴンキングは飛び上がる。


 逃げられる!?


「参宮!」

「っ、はい!」

「あいつの動きを止めろ! あと一発しかない!」


 助手は助手らしく、あたしの言うことを聞いてくれればいい。


「クラーケンは一発で倒してたじゃあないですか! 急に射撃が下手にならないでくださいよ!」


 う、うるせェ!


 あたしに文句を言いながら、助手は一枚のカードを使って、飛んでいるドラゴンキングの身体を凍らせた。

 落ちてくる。


「これで決める!」


 これで全部。

 全部終わりになる。


 あの侵略者がいなくなって、怪物も消えて。

 全人類が等しく幸福Zero-Sumでありますように。






 全の中に、あたしはいない。


【GAME CLEAR】




















































Transport Gaming Xanadu

のメインクエストを終了しました。


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→いいえ


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1へ移行します。


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おつかれさまでした。

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