第115話 竜王
メインクエストの最終段階。
テレスの《最高位魔術師》を痛めつ――説得したのに応じなかったから《アイテムスティール》して手に入れた《最終ダンジョンの鍵》を使って、あたしと参宮は『Transport Gaming Xanadu』の全プレイヤーが未だに到達できていない領域へと足を踏み入れた。
「さっきは地下でしたけど、今度は空中なんですね」
助手は端っこまで歩いていって景色を見下ろしている。
手招きして「湖が、いや、これオアシスかな。砂漠っぽいし。いい眺めですよ、四方谷さん」とあたしにも見るように言ってくる。
「あたしは、いいや」
「怖いんですか?」
「あ? 後ろから押してやろうか?」
「大天才、高所恐怖症だったんですね」
「じゃねェわ。高いところ怖がってたらチキンに乗って移動しねぇだろうがよ」
「確かに」
ラスボスと戦う前だってのに呑気なもんだよな。
「助手。使えそうなカード、選んどけよ」
「四方谷さんこそ、最後の最後で弾詰まりはやめてくださいね」
「バカ言うなよ。SAAは
「言いましたっけ」
「言ってたよ」
助手が《最終ダンジョンの鍵》を城門の鍵穴に差し込むと、その扉が開いていく。
「げっ、階段」
「だりぃなぁ。乗っていくか」
あたしはSAAを空に向かって撃つ。
こうしてチキンを召喚するのも、これが最後かもな。
「フォー!」
「助手も乗るが、振り落とすんじゃねェよ、チキン」
「フォォ……」
「不満げですね」
あたしの倍以上の重量物な助手を乗せたくないのか、駄々をこねるチキン。
「なら、助手は乗るな」
「フォッ! フォフォ!」
どうぞどうぞ、と姿勢を低くするチキン。
本当にお前ってやつは……。
「俺が裏切って、四方谷さんだけを行かせて、ここでUターンするかもしれませんよ?」
「フォ!?」
「は?」
「……まあ、しませんって。ただ、このゲームの全てのスキルがこのカードにあるのなら、俺もその乗り物を召喚できちゃうんですよね」
助手が青いカードをかざすと、チキンによく似た鷹がこれまたよく似た「フォー!」という鳴き声と共に飛んできた。
「フォ……!」
「フォ、フォフォ」
「フォアー!」
それから新しく現れた《フェザーホーク》とチキンがその翼を広げて、抱き合っている。
二羽の会話からして、生き別れの兄弟らしい。
なんだかわからんが、再会できてよかったな。
「行くぞ!」
「はい!」
「フォッフォ!」
「フォー!」
合計何段あるんだか数えていたら日が暮れそうな石段の上を飛んで進んでいく。
最上段にはまた門があった。
その手前の石板には六つの穴があいている。
「フォーフォフォ!」
チキンの言う通り、ここにバッジを納めていけってことだろうな。
和風都市、神樹都市、黄金都市、中立都市、陽光都市、常夏都市、で六個。
「俺の分もですかね?」
「じゃねェの?」
「できれば思い出として取っておきたかったんですが」
「いらねェだろ。こんなガラクタ、売っても金にならねぇよ」
「ガラクタだからこそ、保管しておきたいんですけどね……」
助手の気持ちはわからん。
あたしのバッジを置いてもうんともすんとも言わねェが、参宮の分も置いたら入り口の時と同じように扉が開いていった。
そして、
「ようやく来てくれたね!」
その先で、
「タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ……」
創の背後には見上げるほどの大きさの、赤紫色の球体があった。
「タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ……」
あたしの聞き間違いじゃなきゃ、その球体の中から〝声〟がしていて、ずっと『助けて』と繰り返している。
その『助けて』は一人の声じゃなくて、何人かの声だ。
男の人の声もあれば、女の人の声もある。
たぶん、子どもの、っぽい声も。
「こちらが、これから拾肆ちゃんたちが戦う『ドラゴンキング』――と呼ばれているものだね」
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