第113話 精鋭都市 〈3〉


「地下ダンジョンっていうか、地下闘技場って感じですねこれ」


 助手の感想に同意する。


 イヌがあたしと助手をその『テレス地下ダンジョン』へとワープさせた。

 タロウとジロウは戦う気満々で、二匹で準備運動をしている。


「キュッキュ」

「キュッキュキュ」


 あたしたちを取り囲むような石積みの壁。

 一挙一動を見守るようなカメラの台数。


「ダンジョンっていうから、てっきり迷路にでも放り込まれるのかと思ってましたよ」

「迷路だったら、壁を破壊してゴールまで一直線に進んでたな」


 大天才らしい回答を「四方谷さんらしいですね」と助手が賞賛してくれる。


「キュ!」

「来たか」


 ここはダンジョンだってのに、天井を気にせずにふわふわと降りてくる人影。

 絨毯みたいな模様のローブに身を包み、その手には先端部分に緑色の宝石がついた長い杖を握っている。

 頭には魔法使いらしい帽子を目深にかぶっていて、――そんなに深くかぶってたら前見えてねェんじゃねぇの?


「あれが《最高位魔術師》っぽいですね」


 助手がスマホのカメラ越しに確認していた。

 人の形をしているが、モンスター扱いなんだな。


「つまり、あいつを倒せばいいってことだな」


 SAAをガンベルトから抜いて、その《最高位魔術師》に照準を合わせる。

 さあ、誰が出てくるか。


「残りの銃弾は?」

「あと3発」

「なら、使わない方がいいんじゃあないですか?」

「弾を撃つわけじゃねェから」


 さっきのクラーケン戦の時みたく、一発で仕留めようと思っている、と思われてんな。

 違うんだよ。


 SAAのサモンアタックアクティベーターとしての使い方はこれで合っていて。

 銃弾が出てくんのがおかしくて。


「フォーッフォッフォフォフォフォ!」


 相手の《最高位魔術師》が持っていた杖を振るう。

 床に赤い魔法陣が三つ現れた。


「キュ!」

「キュイ!」


 身構えるタロウとジロウ。

 その魔法陣の中心から、が、それぞれ生えてきた。


「は?」

「なるほど……再生怪人」

「感心してる場合じゃねェ!」


 ヤマタノオロチが鎌首を持ち上げて、その牙を主張する。

 コロッサスは盾を振り回し、剣で薙ぎ払いをしてくる。

 本物のクラーケンはワンショットキルで倒してしまったが、偽物のクラーケンはその触手をでたらめに振り回している。


「フォーフォッフォッフォ!」


 高笑いが闘技場に響き渡った。


「ウサギさん!」


 助手がスマホでウサギを呼び出して「うなー!」と大きく上に伸びをするウサギ。

 さらに青いカードを三枚取り出して、ウサギにかざした。


「うー! なー!」


 ウサギがパワーアップし、助走をつけてクラーケンの頭にアッパーカットを食らわせる。

 ひるんだところで触手を掴んで、八本のうちの一本をぶちぶちと引き抜いた。


「キュー!」

「キュキュー!」


 タロウとジロウがウサギを褒めるように拍手しているが、間髪入れずにそのクラーケンの触手がウサギを背中から絡め取り、振りかぶって、壁に投げつける。


「なー!?」

「ウサギさん!?」

「キューイ!」


 壁に激突したウサギさんが、ズルズルと床に落ちていく。


「タロウ! ジロウ!」

「……キュ」

「キュキュウ」

「キュッキュ」

「譲り合ってんじゃねェよ。二匹で連携攻撃すんだよ」

「キュゥ……」


 ウサギさんがやられてしまったことで、すっかり闘争心を削がれたタロウとジロウ。

 さっきの再生力を見ていると、やはりSAAで一体ずつ……残りの弾が……。


「わっ!」

「助手!」


 コロッサスの剣が床を割って、あたしと助手の間に亀裂が走る。

 こんな威力を見せられたら、余計にタロウとジロウが萎縮しちまう。


「くっそ……考えろ……」


 何か。

 何か倒せる方法が。


 ヤマタノオロチ戦は、女将からバッジを奪い取ったからまともには戦っていない。

 コロッサス戦は、タロウとジロウがバッジを盗み取ってくれた。

 クラーケン戦は、SAAで倒しちまったから、――正攻法でバッジを入手していない。


「何か……何か使えるアイテム……?」


 デカブツたちの攻撃を避けながら、あたしは手持ちのアイテムで考える。


 スマホ。

 水筒。

 べっこうのくし。


「ステッカー……」


 カグヤからもらった《カナモリ様のご尊顔ステッカー》……金運が上がるんだっけか。

 こんなものあってもな……。


「キュ!」

「なんだよ」

「キュー、キュ! キュイ!」

「は? そんな効果あんの?」


 タロウが「キュ!」と自信満々にうなずいた。

 タロウ曰く「このステッカーを貼ると一時的にステータスを下げる」効果があるらしい。


「そんなこと、カグヤは言ってなかった」

「キュー! キュ!」


 ジロウの言う通りだな。

 渡す時にそんなマイナスのこと、言わないよな。

 受け取ってもらえなくなるもんな。


「キュッキュッ!」

「キュイ!」

「おお。やれんのか?」

「キュ!」

「キュー!」

「よし、わかった」


 あたしは天井に向けてSAAを発砲する。


「フォー!」

「久しぶりだなァ、チキン」

「フォッフォ!」


 ここんとこ、助手の《テレポート》で移動してたからな。


「キュイー!」

「キュッキュー!」


 タロウとジロウがステッカーを手に、チキンの上に乗っかる。


「これを敵に貼って、弱体化したところを《ボルケーノサラマンダー》でぶん殴る! わかったな!」

「「キュッ!」」

「フォフォー!」


 チキンが舞い上がり、タロウとジロウをモンスターたちの頭んところまで運んでいく。

 あたしは《ボルケーノサラマンダー》が出るように念じながら、SAAの引き金を引いた。


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