第112話 精鋭都市 〈2〉


「一人で行っちゃったかと思えば『すぐに来い』って言ってきて……人使いの荒い人ですよ」

「キュイ」

「キュキュ」


 着替えて市役所内のベンチに座っていたら、文句を言いながら男どもが合流した。

 参宮、タロウとジロウとも仲良くなれたか。

 それならよかった。


「ほら」

「市長に挨拶しに行くんですよね? 挨拶するとクエストが発生するパターン。行きましょうよ」

「その前に」


 髪だよ髪。

 助手なら言わなくともわかるよな。

 偉い人に会いに行くのに崩れた髪型で行ったら、追い出されちまうかもしれねェ。


「キュー!」

「タロウがやってくれんの?」

「キュイキュ!」

「気持ちはありがてェけど、これは助手の仕事だから」

「キュ……」


 ガックリとしたタロウをジロウが「キュー」と慰めている。


 やっぱりこいつらかわいいよな。

 元の世界に連れて行けねェか……?


 リスって何食べるんだっけか。

 クルミとかナッツとか?


「たまにはツインじゃなくて、別の髪型もしてみませんか。たとえば、ポニーテールにでもしてみません? 一つ結び」

「やだ。落ち着かない」

「そういうもんですか?」

「そうだよ」


 市役所内ってこともあって人々の往来があるなか、助手が髪型を直してくれるのを待つ。

 終わったらすぐに市長に会いに行ってやるからな。


「あのー」

「はい」


 あたしではなく、助手が返事をした。


 イヌだ。

 イヌがスーツを着ている。


「メインクエストを進めている、ピースメーカーさんと参宮拓三さんでお間違いないでしょうか?」


 お間違いない。

 バインダーに挟まれたプリントと、あたしたちの顔を見比べている。


「市長がお忙しいので、わたくしが代わりに『テレス地下ダンジョン』へ案内させていただきます」


 話が早い。

 こっちが移動しなくともそっちから来てくれるなんてな。


「この『テレス地下ダンジョン』の戦いはライブ映像としてお茶の間に放映されておりますので、頑張ってくださいね」


 イヌがニコッと笑った(ような気がした)。

 ライブ映像。


「メインクエストの実装は『Transport Gaming Xanadu』の正式サービス開始と同時でしたが、とうとうこの設備が使用される日が来ましたね。わたくし、感無量であります」


 そんなにメインクエストを進めるやつがいねェのか。

 さっきはニコッとしてたのに今度は泣き出しそうになっている。

 情緒不安定なイヌだな。


「今回、特に制限はないんですよね?」


 助手が質問している。

 あたしのツインテールは、……うん、完成してた。


「制限とは?」

「陽光都市だと、俺と四方谷さんが入れ替わったせいで、専用装備が使えなかったもので」


 そうだそうだ。

 そのせいで、ウサギに振り回されたんだった。


 タロウとジロウが召喚できていれば、二匹は探し物の天才なんだから、もっと早く終わってたってのに。

 結果としてコケムストリで腹一杯になったからいいけどよ。


「そんなようなことはしませんよ。無制限。バーリトゥードです」


 おっ、言ったな。


「ここまで戦ってきた【勇者】なお二人ですから、さぞかし盛り上げてくれるでしょうね。期待しています!」


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