第109話 常夏都市 〈2〉
七色のアイスキャンデーを買ってヤシの木の下に戻る。
助手が何味がいいかわからないから、あるだけ全部買っちまった。
イチゴ味もブルーハワイ味も、ミルク味も、メロン味も、レモン味も、アズキ味も、ヒミツ味も。
「どうしたんですかそれ」
手頃な椅子を見つけて、横並びに座った。
あたしたちはさっさとメインクエストをクリアしてぇのにな。
このガレノスの雰囲気が、強制的にあたしを休ませようとしているような……暑いからさっさと次行きたいってのに、アイスでも食ってけよって言われている。
「選べなかったわけじゃねェからな」
参宮は参宮で、街を歩く浮かれポンチな犬人間やら猫人間どものように南国の花の描かれたシャツと膝丈のズボンに着替えていた。
暑くねェって言ってたじゃねえかよ。
小脇に抱えている紙袋にはあたしの服が入ってんだろうな?
自分だけ着替えやがって。
「俺はどれを食べていいんですか?」
「半分くれ」
「なら全部半分ずつでいいんじゃないですか?」
助手にしては賢い。
「ならこの、ヒミツ味から」
「ヒミツ味?」
「おじさんがヒミツ味って言ってた」
助手がニオイをかいで「コーラかな?」と言ってきた。
ヒミツ味はヒミツ味だろうがよ。
「いただきます」
半分ずつだから、一気に半分をくわえて、まるまる口に押し込む。
冷たくてうまい。
コーラ味ってのがどういう味なのかわかんねェからこれはヒミツ味。
「……情緒のない食べ方しますね」
うるせェ。
食べたいように食べさせろや。
「というか、さっさと食べていかないと他のが溶けちゃいますね」
「
あたしが食ってるところ見てる場合かってんだ。
せっかく買ったのに、溶けたらアイスキャンデーじゃなくてただの甘い水じゃねェかよ。
「やっぱりコーラ味ですよこれ」
残り半分をぺろぺろとなめながらコーラ味を主張してくる助手。
あたしは次のミルク味にかぶりつく。
これもまたうまい。
「服なんですけど」
「食べ終わってからでいい?」
「はい、そうですね」
ってなわけで、順番に食べ進めていって、食べ終わる頃にはなんだか眠くなってきた。
何をするんだったっけか。
ここで。
何を。
するんだったっけ?
なんだかどうでもよくなってきた。
他のやつらみたいに、バカになって『バカンス』を満喫してェな……。
「暑いって言ってたんで水着みたいなのを買ってみました」
「は?」
紙袋から出してきたのは、紫色の、子どもっぽい水着。
水玉模様で、腰回りにフリフリのついてるやつ。
「サイズは合ってると思うんですけど」
「これ?」
「ご不満ですか?」
「……お前さ、本気でこれでいいと思ってんの?」
「いや、だって、次、クラーケンと戦うとなると、絶対水際での戦いになりますし、これなら濡れても問題ないですよ?」
殴っていいか?
「他にもあっただろ! 選択肢!」
「最適解じゃないですか?」
「あたしはこのまま行くぞ!」
「せっかく買ったのに!?」
「お前さ! さっきまであたしだったんだからあたしの気持ちになって考えてみろよな!」
助手は水着を見て、うーんと唸ってから「似合うと思いますけど」と平然と言いやがった。
似合うか似合わないかじゃあ、ねェんだよな。
「四方谷さんは幼児体型なんですし、ビキニは背伸びしすぎで、スク水は俺の趣味が疑われそうなのでやめました」
「幼児体型」
「百センチしかないでしょう、身長」
「もうちょい伸びてるっての!」
「でも次の敵は」
「それはお前も条件としては一緒じゃねェかよ」
「俺には頼りになるウサギさんがいるんで。安全圏でバフ盛ればいいだけの話です」
チクショー!
「あ、あたしだって召喚獣がなんとかしてくれるっての」
「サマナーはスキル有効範囲がテイマーよりも短いって『冒険の手引き』にありましたよ」
ああ言えばこう言う。
これまでのボス戦でも、あたしはみんなの近くにいた。
言うだけ言って外で待っているわけにもいかねぇだろうが、と思っていたが、やっぱりそういうもんか。
「わかったよ。着りゃいいんだろ着りゃあ」
どっちにしろ暑いから、この服のままではいけないし……戦いが終わったらすぐ元の服に着替えるし……。
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