第108話 常夏都市 〈1〉

 暑い。

 暑すぎる……。


「リゾート地、ですね」


 助手は汗一つかいていない。

 涼しい顔をして突っ立っている。


 白い砂浜と青い海、砂浜に突き刺さった七色のパラソルに寝っ転がれそうな椅子。

 昔々に人々が『バカンス』を楽しんでいた土地にそっくり。


 にしても暑い。

 こんなに暑いのによくもまあ『バカンス』なんて楽しめるもんだ。


「暑くねェの?」

「え?」


 かんかん照りの太陽に、アスファルトの照り返しがきつい。

 目がしょぼしょぼしてくる。


「転生者と転移者の違いなんですかね?」


 容赦なく暑いせいで疲れてきた。

 服を脱ぎたいが、あたしにも恥じらいはあるから……助手の前で脱ぐのは……。


「み、みず」

「ミミズ?」

「バカかよ。水くれっつってんの!」

「はいはい。水と着替え、急いで買ってくるんで、ほらあの、ヤシの木の下で待っててください」


 察しの悪い助手で困る。

 よろよろ歩いて、指定されたヤシの木の下に移動した。

 ヤシの木に身体を預けて、水筒に入っていた残りわずかの水を飲む。


「ふう……」


 さてと。

 一休みしながら、スマホで次のメインクエストの内容を確認する。


「クラーケン、ねぇ」


 今度の敵はクラーケン。

 クラーケンっていうと、北欧の海に出てくる怪物だよな。


 こんな暑い場所の海に生息してるもん?


(しかも、こんな観光地っぽいところに? そういうのって、地域の治安部隊みたいなのが討伐するんじゃねェの?)


 他の都市にヤマタノオロチがいるような世界だ。

 今更つっこんでも仕方ないか。


 これはゲームの世界らしいからな。

 こまけぇことにおかしいって言ってたらキリがない、か。


「……残り弾数は、あと4発」


 いつぞやに参宮からもらった護身用なSAA(シングルアクションアーミー、もとい、今はサモンアタックアクティベーター)の残り弾数を確認する。

 黄金都市ピタゴラでコロッサスに向けて撃ったのが最後。

 中立都市ゼノンのあたしは寝てただけだし、陽光都市パスカルではウサギが解決してくれた。


 次も使わずにいられるかどうか。


「っていうか、弾が出てくる時と召喚獣が出てくる時の違いがわかんねェからなァ」


 コロッサス戦の時だって、同じぐらいのデカさである神樹都市セネカで召喚された《ボルケーノサラマンダー》が出てきてくれりゃあ、弾使わなくても済んだのによ。

 鎧とトカゲの相撲で決着ついていれば……。


「都合よく助手が弾持ってきてくれてねェかな? ないか」


 ガンベルトに収める。

 スマホも巾着袋にしまう。


 にしても暑い。

 日陰にいても暑いとはどういうことだよ。


 なかなか戻ってこねェし。


「なんか食おっかな」


 さっきコケムストリの毛をむしって丸焼きにして食ってから飛んできたが、なぁに、デザートってやつだよデザート。


 あたしはもっとデカくなりたい。

 デカいって言っても助手ほどじゃなくていい。

 常識の範囲内で、女としてちょうどいいぐらいのサイズにいずれ成長したいもので。


 なんだか贅沢言うようになっちまったな。


「なんか……冷たくて甘いもの……」


 ヤシの木から離れて、辺りを探索してみる。

 みんな薄着で浮かれポンチだ。

 助手は何を迷ってるんだか。


「む」


 砂浜のパラソルの下に『アイスキャンデー』という文字が見えた……気がする!


 アイス。

 キャンデー。


 冷たくて甘いもの、だな。

 今のあたしが一番求めているものじゃねェの。


 ま、金なら、タロウとジロウがかき集めてきてくれたのがまだあるし。


 助手の分も買っといてやるか。

 大天才の優しさってやつよ。


「おじさーん、アイスキャンデーくれー!」

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