第107話 陽光都市 〈4〉
ウサギは、迷いなく、両方を選んだ。
すなわち、あたし(※助手の姿)を守るでも助手(※本来の飼い主だけどあたしの姿)を連れて逃げるでもなく、二人を戦わせないためにコケムストリに向かっていった。
「んなー!」
「コケーッ!?」
逃げるとばかり思われていたデカいウサギが逆に突っ込んできて、散り散りになるコケムストリたち。
コケムストリの中でも一番デカいやつ――さっき鶴の一声ならぬ鳥の一声をあげたトサカのデカいやつの首根っこを掴んだウサギは「うー!」と気合いを入れるとその首をへし折った。
「コッ」
鳴かない鳥はただの鶏だから、血抜きしたら美味しく食べられそう。
「やるじゃん」
「うなー」
あたし(※中身は助手)がウサギの頭をなでようとしたが届かないので、ウサギがしゃがんでいる。
鶏肉、久しぶりに食べるかもしれねぇな。
「コッコー!?」
「コケー!」
「コケッコッコッコッコ!」
コケムストリらはというと群れのカシラがやられたせいでちょっとした混乱が生じている。
逃げ出そうとするやつ、ウサギに立ち向かおうとするやつ、そいつを止めようとしているやつ。
「うー! なー!」
ウサギが事切れているカシラを掲げて威嚇した。
お前らもこうなっていいのか、とでも言いたげだ。
「コケェー!」
「コケッ!」
「コケコケェー!」
一斉に離散していくコケムストリたち。
そうだよな。
こうはなりたくないよな。
これで立ち向かってくるやつがいたら大したもんだよ。
ホンモノのチキンはチキンよりチキンだった。
「邪魔ものはいなくなって、……ん?」
敵はいなくなったがバッジ探しが進んだわけでもなし。
ここからこのだだっ広い草原をまた探さないといけないわけで。
「どうした?」
「いや、このコケムストリ? トサカになんかついているような……あっ」
「あっ」
オレンジ色の、丸っこい、《ソーラーバッジ》がトサカの両サイドについている。
これは誰かにつけられたものっぽくないか。
「もしかして、このバッジのパワーでデカくなったとか?」
「あるかもしれねぇな」
ウサギが「な!」と言いながらその二つのバッジをむしり取って、あたし(※助手)に手渡す。
ただ探してたら日が暮れるところだったなァ。
襲ってきてくれてよかった。
メシも確保しちまったし。
「元の肉体に戻してもらうとするか」
あのカゴメとかいうネコを探さないとな。
この《ソーラーバッジ》を証拠として見せてやらなきゃ。
というか、カゴメがこれをくっつけたんじゃねぇの?
自然にはくっつかないだろ、これ。
「四方谷さんは、戻りたいですか?」
あたしが陽光都市パスカルの方角に歩き出すと、助手はあたしの姿で妙なことを言ってきた。
「あ?」
「俺はぶっちゃけこのままでもいいんですけど」
何言ってんの。
助手、頭打ったか?
「このままだと専用装備が使えねェじゃねーかよ」
「……それはそうなんですけどね」
「助手だってカード使えないのは不便じゃねェの? ここから先、ウサギだけで戦っていくわけにもいかねぇだろうが」
「うなー!」
ウサギがあたかも『自分一羽でいけます』と主張するかのように声を荒らげた。
コケムストリ程度ならいけるだろうが、次の相手がどんなのだかもわかんねェのに?
「四方谷さんとしては、俺になれてどうでした?」
「んー……まぁ、悪くはねェかな。助手はデケェから、視座が高くなるってぇの?」
「この姿のまま専用装備だけ使えるようにしてもらえませんかね」
「そんなうまい話はねェだろうよ」
「ないですか……」
助手が本当に残念そうにしているので、大天才のあたしとしては「話だけはしてみようや」と提案して、カゴメにも話はした。
「えー。だめですよォー」
「そこをなんとか」
食い下がる助手に、困った顔をしているカゴメ。
だめなもんはだめなんだろう。
さっさと諦めて、次の都市に行くぞ。
次は、常夏都市ガレノス、だっけか?
「
うん?
あたしは第四世代オルタネーターだから、人間ではない。
だから、人生ってもんはないんだが?
オルタネーターとして、人間のために、侵略者をあの世界から追い出すのが、あたしの役目。
それ以外にはない。
「変なこと言うんだなァ、このネコちゃんは」
助手があたしになって、あたしが助手になったら、あたしは助手としての人生を、――うまく歩けるかどうか。
大天才なあたしと違って、助手は抜けてるところがあるからなァ。
あたしが助手になったら完璧すぎてバレるよな。
あたしが人間になろうだなんてそんなおこがましい話はねぇよ。
「さっさと元に戻してくれよ。あたしは急いでるんだよ」
【Next→常夏都市ガレノス】
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