第106話 陽光都市 〈3〉

 葦の草原。

 ってところにいる。


 結構だだっ広い一面の緑色だ。


 ここに落ちているパスカルのバッジを見つけて、カゴメに報告し、元の姿に戻してもらう。


 助手の身体はデカくて、いろんなものが小さく見えるからが、なんとなくもある。

 なんかモゾモゾするし……。


 早いとこ元の肉体に戻りたい。


「なー!」


 あたしの身体を肩の上に乗せた状態で、ウサギのモンスターがくるぶしぐらいの高さまで生い茂った緑の草原をかき分けている。


 どうやらこのデカいウサギは本来のがあたしの肉体の中にいるって気付いているようで、からかうようにチラチラとこちらをみてはクスクスと肩を揺らしていた。


「ほら! ぼさっとしてないで手を動かしてくださいよ!」


 高いところからあたしの声――あたしの声ってこんな声だったか。自分で聞こえる声と周りに聞こえる声は違うっていうけど、こんなに違うもんか――がする。


「降りてこいよ参宮!」


 言っていることはごもっともだが『二人と一羽で探そう』って話だったじゃねェか。


 お前だけ楽してんじゃん。

 ムカつく。


「うなー!」

「うわッ!?」


 バケモンウサギのパンチが飛んできた。

 あたしは使い慣れない肉体で避けようとしてよろめいて、尻餅をつく。


「危ねえじゃねェかよ!」

「なー! うー!」


 召喚獣たちの言葉はわかるのにこいつの言葉はさっぱりだ。

 怒ってるってのはわかる。


「なー!」


 もう一発お見舞いされそうになったら、さすがに助手も「ウサギさん! やめてください!」と指示した。

 動きが止まる。


「まったく、使えねえ助手だなァ」


 助手(※あたしの姿)があたしの言いそうなセリフを吐き出して「しょうがねぇからあたしも手伝ってやるよ」と続けてくる。


 自分の姿ってこう見えてんのな。


「――ってなわけで、ウサギさん、下ろしてください」

「うー……」


 ウサギは不服そうな声を出してから、渋々としゃがみ込む。

 小一時間ぶりに地に降り立つあたし(※中身は助手)。


「さて、探しますかあ」


 指をポキポキと鳴らすあたし。

 助手から見ると、こんなに小さく見えるんだ……。


 いやまあ屋内でも思ったけど、屋外だとなおさらちっこく見えるっていうか。


「さて、じゃねぇわ」

「コケーッコッコッコッコ」


 ?


「今、変な声しなかったか?」

「コケケケ」

「ケコー!」

「コッコッコッコ」


 徐々に声の数が増えている……ような……?


「コココココ」


 全身真緑の……いや真緑じゃないやつもいるな……鳥?


「ニワトリですね」


 助手があたしの右足にしがみつく。

 囲まれている。


「こういう時は、スマホで見るんだったよな」


 あたしは助手の上着のポケットからスマホを取り出して、カメラを起動させてその『ニワトリ』をカメラ越しに見る。

 画面上に『コケムストリ』の文字が。


「ふーん?」

「ああ、この緑は植物のコケなんですね」


 助手もスマホを出して同じ画面を開いている。


「苔に寄りつくこまい虫は鳥が食っちまう、ってことか」

「そういう関係でしょうね」

「鳥は苔も食うから、増えすぎたら適度に食えるし非常食にもなると。よくできてんな」


 現にあたしたちを囲い込みながら、呑気に他の奴の苔をついばんでいるのもいる。


「で、なんで俺と四方谷よもやさんは囲まれてるんでしょうか?」

「なー!」

「ウサギさんもでした。ごめん」

「自分たちのテリトリーによそものが入ってきたから……?」


 あたしの推理に対して、集まってきたコケムストリの中でもひときわでっかくてトサカが立派なやつが「コケーッ!」と答えた。

 どうやら正解っぽいな。


「違うんだよ。あたしたちはただ、バッジを探しているだけで」

「コケーッコ! ケーッコ!」


 弁明したところで伝わるわけもなし。

 ニワトリ語は知らねぇんだわ。


「バッジの場所、聞けないんですか?」

「今のやりとりを見て会話が成立してるように見えたか?」

「四方谷さん、得意そうですし」

「得意じゃねぇよ。ウサギ、なんとかできねぇの?」

「うー」


 首を横に振るウサギ。

 ダメかあ……モンスター同士がダメなら、無理だろうな……。


「コッケー!」


 さっきの一番デカいコケムストリがまた大きな声を出した。

 これを合図にして一斉にコケムストリたちが飛びかかってくる!


「飼い主を守って! ウサギさん!」

「飼い主の肉体を守らなくてどーすんだよウサギ!」


 助手とあたしは、ほぼ同時に、ペットに対して命令していた。

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