第105話 陽光都市 〈2〉


 中心部に位置する市役所の受付に挨拶して『メインクエスト課』に案内された。

 扉を開けた先には、見慣れたネコがいた。


「ハァーイ、こんちわー! わたしが陽光都市のメインクエストの担当、カゴメでェーす!」


 カグラ、カグヤときてカゴメ。

 いやカグヤが先だったか?


「カグラとカグヤとは姉妹?」


 あたしが聞けば「おぉー! 名・推・理っ! 小さな名探偵さァーん! あの双子とは従姉妹デェーす!」とやたらハイテンションになってあたしの頭をワッシャワッシャと撫でてきた。


 なんか似てると思ったんだよ。

 褒められんのは嬉しいが、撫でるのはやめてくれよ。


 大天才の象徴、あたしのチャームポイントのツインテールが崩れるだろうが!


「参宮ぅ……」

「あとで結び直します」


 よし。

 あたしがやるとどうも高さが納得いかねェんだよな。


「姉妹っていうか、グラフィックの使い回しじゃあないですかね」

「なんじゃそりゃ」

「ゲームにはよくあるんですよ。同じ絵柄で、口調違うから別のキャラですみたいな……」


 そうなんか。

 カグラとカグヤもだいぶキャラ違ったしな。


 カゴメは何してくれんだろ。


「ここまで来たあなたたちに、パスカルのバッジをプレゼント!」

「「えっ」」


 ここに来ただけで?


「いいのか?」

「プレゼントって言ってるんだからおとなしく受け取っておきましょうよ」


 参宮の言う通りではある。


 が。

 ここまでのメインクエストを思い出せ。


 最初はヤマタノオロチをぶっ倒し、次は神霊だかなんかと戦い、バカでけー鎧と一騎打ちして、過去の映像を提供する。


 それで今回は、ただ会うだけでバッジがもらえちゃうもんか?

 ここまで頑張ってきたで賞か?


「……と、あれ?」


 ガサゴソ。

 ガサゴソ。


 着ている服のあちこちのポケットに手を突っ込むカゴメ。

 服装はカグヤ、カグラのものとも違う、小さなポケットがいくつも付いているベストを着ている。


「アッレェ?」


 もしや、見つからないとか。


「いやあ、困った困った。さっきまで葦の草原に居たんですけどォ、そこで落としちゃったカモーね」

「大事なもんなんだからなくすなよ」

「失・敬♪」


 てへっ、と舌をぺろっと出すカゴメ。

 メインクエストやってないやつに拾われたらどうすんだ。


「早く探さないと、コケムストリにぱっくんチョされちゃいます!」

「なおさらなくすなよ」

「そんなわけで、探してきてくださぁーい!」


 おねがーい、と手を合わせられてしまった。

 タダでは渡せねぇってことね。


 二人だし楽勝だろ。

 探し物に関してはプロフェッショナルなタロウとジロウがいる。


 そのコケムストリっつーモンスターっぽいのは気になるが、そっちの対処は参宮に任せよう。


「葦の草原に移動しろってことかな」


 参宮が青いカードを一枚取り出した。

 青いカードはこの『Transport Gaming Xanadu』の課金アイテムを模したものらしい。


 あたしはマップを見て「すぐそこっぽいし、チキンで移動してもいい」と提案する。


「お二人とも、ちゃーんとご自分のスキルを活用されているんですねー」


 このやりとりを見ていたカゴメは、懐から星のついたステッキを取り出した。

 ステッキはあるのかよ。


 それは落とさないんだな……。



 カゴメがステッキを振るう。


 建物内なのに、天井からピカっと稲光が落ちてきた。

 建物内なのに!?


 あたしと参宮の頭に直撃する。

 不思議と痛みはない。


 痛みはないが「うわっ!?」と発した声に、


「四方谷さん、大丈夫ですか?」


 と、


「あたしっ!?」


 あたしが二人いる――んじゃない。

 なんだか視界がし、手は倍以上に大きくなってやがる。


 何より声だよ。

 声がおかしい。


「これって、もしかして、……たち」

「あたしの身体に、参宮が?」


 


「イェスイェス! そーでぇーす!」


 そうですじゃねぇよ!

 早く元に戻しやがれ!


 あたしは参宮の身体で、カゴメに詰め寄る。


「ふざけんな!」

「おおおおおおお大きいいと迫力が段違いデェーす、怖いでぇーす」


 一方の参宮はといえば。


「これが四方谷さんの見えている世界ですか」


 なんだか感動している。

 お前に比べたら身長半分ぐらいしかねェし、だいぶ低いんだろな。


 あたしはあたしでどっかぶつかりそうでこえーわ。


「胸……」

「触んなヘンタイ!」

「やっぱり女の子になったら一度ぐらい触っておかないとダメかなって。お約束ですし」


 戻ったらぶん殴るからな。


「というか、これって専用装備使えるんですか?」


 カゴメに聞いてるっぽい。

 カゴメはニコニコしながら「のんのん」と答える。


 のんのんって、つまり、あたしたちだけで探せっつーことかよ。

 あたしのS・A・Aを参宮は使えなくて、参宮のカードをあたしが使うことはできねェって?


 それじゃあ、タロウとジロウにも頼れない。


「専用装備じゃなきゃあいけるんだったら、俺のウサギさんを出すのは? あれは【聖者】ではなくてテイマーとしての力ですし」

「あいつどうやって出すんだよ」

「スマホからいけません?」


 二人よりは二人と一羽のほうがいい。

 ウサギのモンスターには初っ端から追い回されたし、つらい記憶は蘇るが、ここは手助けしてもらいたいところ。


 頼むぜウサギさん。


「ステータス画面から、ペット呼び出し、っと」

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