第104話 陽光都市 〈1〉


 陽光都市パスカル。

 初心者クエストの最初の地と『冒険の手引き』にはあった。


 なるほどそんなわけで犬やら猫やらが二本足で突っ立ってるんだな。

 最初見た時は何じゃこりゃと思ったもんだけど、タネを知ってしまえば怖くねェわ。


「そっちじゃあないですよ」


 あたしが初心者クエストの待機列に吸い寄せられていると勘違いして、参宮はあたしの手を引っ張る。

 大天才のあたしが道草を食ってるとでも思ったか。


「こいつらみんなゲーム始めたての初心者なんだなと思うと……あたしのほうがつえーんだぞって」

「そりゃあ、四方谷よもやさんのほうが強いですよ」


 この世界は『Transport Gaming Xanadu』というゲームの中。

 武器を背負っている犬や猫こいつらは、が操作している。


 と、参宮が教えてくれた。

 創にも教えてもらったが、参宮も言うのなら正しい。


 この参宮はあたしの知っているぶよぶよおでぶハゲの参宮とは違って若くて背が高くてちょっとかっこいいのは癪だ。

 なんか蹴ったり殴ったりしたら本気で怒ってきそうじゃんか。

 んまあ、大天才のあたしを敬っているようなのでまああたしの知ってる参宮なんだろ。


 話は逸れたが、あたしの知っている侵略者にぶっ壊された『世界』ではなく平和にゲームを楽しめるような『世界』があるっつーことで。

 こういうのマルチバースっていうんだっけか。

 パラレルワールドってのかな。


 こんな仮想空間を作れるような、技術力のある人間のいる世界。


 あたしもそこに行きたい。

 なんて、ちょっと思っている。

 参宮と再会できて浮かれてんのかも。


 あたしがそこに行けたら、あたしのこの大天才的頭脳もより輝くに違いない。

 ノーベルなんとか賞だって獲れちゃうかもな。

 その世界にまだあるんだとしたらだけど。


 ――いや、何言ってんだ?


 あたしの目的は、メインクエストを攻略すること。

 メインクエストをクリアして、創に侵略者を追い出してもらうこと。


 元いた世界を捨てて、あたしだけ逃げることではない。


「さて、メインクエストを受注できるNPCの居場所は、っと」


 マップを開く。

 陽光都市の市役所へ行かねばならないっぽい。


「なんか『必ず二人以上のパーティーを組むこと』とありますけど」


 ほんとだ。

 メインクエストの受注条件にそんな文字が見える。


 メインクエスト、他にやってるやつ見てねェけどそのうち見かけんのかな。


「二人なら、あたしと参宮とで二人なんだしいけるだろ」

「とんでもなく強い敵だったらどうします?」


 なんだよ急に。

 怯えてんじゃねェよ。


「黄金都市のコロッサスも強かったですし」

「強かったか?」


 あたしにはタロウとジロウがいて、二匹が連携プレイでバッジを回収したからそこまで強いとは思わんかった。

 参宮にとっては強敵だったんか。


「四方谷さんは【隠者】でしたよね? どうやって勝てたんですか?」


 ちっとも隠れてねェけども【隠者】なんだよなァ。

 召喚獣を召喚して戦うから、サモナーだかサマナーだかって言い方のほうが実態に合ってる。


「お、見るか? あたしの自慢の召喚獣たち」


 しょうがねーなァ。

 助手の質問には答えてやんないと。


 あたしはS・A・Aを構えて、地面に向けて撃つ。


「キュ!」

「キュッ!」


 すると《リスキースワークル》こと紫色のリス、タロウとジロウが現れた。

 特に面倒な用事があるわけじゃあねぇが、参宮に挨拶してくれ。


「キュッ!」

「キュイイイッ!」


 タロウはジロウを踏み台にして高く飛び上がると、参宮の額に蹴りを入れる。


「んわぁ!?」


 予期せぬ攻撃を喰らって、参宮はそのでかい図体を仰向けに倒した。

 あたしもびっくりだよ。


「おい! 何してんだ!」


 参宮はモンスターじゃねェってのに、タロウとジロウはしてやったりといった感じで「キュイ!」「キュー!」とハイタッチしている。


「さ、さすが四方谷さんの召喚獣……教育が行き届いていらっしゃる……」


 嫌味か?

 嫌味だな?


「「キュ!」」


 どうした二匹揃って。

 ほら見たことか、って感じか?


「キュー! キュイ! キュキュ!」

「ああ、なるほど」


 タロウ――お前がタロウだよな? タロウってことにしよう――が説明してくれた。

 どうやら、二匹は参宮のことを『あたしを付け狙うモンスター』と勘違いしたらしい。

 それで先手必勝とばかりに飛び蹴りを喰らわせたんだとか。


 でかいし仕方ねェな。

 でかいし。


「よくわかりますね」

「逆に参宮にはわかんねェの?」

「なんか……皿を洗った時みたいな音しか聞こえないです」

「こんなにはっきりと喋ってんのにな?」


 と、タロウとジロウを見下ろせば、二匹はウンウンと頷いている。

 かわいい奴らだよ。


「参宮はあたしの仲間だから」

「キュイ!?」

「キュ!?」

「そうだよ」


 疑り深い二匹は、参宮の周りをくるくると回って観察し始めた。

 こーいうこまけぇところを注意することで、金とかアイテムとか拾ってくんのかも。


「だから謝っとけ」

「キュー……」


 なんだか腑に落ちないって顔してやがる。

 タロウが率先して「キュ」と頭を下げ、横に並んだジロウの頭を後ろから押して頭を下げさせた。


「なんで蹴られたんですか、俺」

「言ってるだろ。でけぇからモンスターと間違えたんだってよ」

「ああ、そういうこと……」

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