第103話 中立都市 〈4〉
嘘ついてんじゃねェかなって思うが、参宮は嘘をついているときに瞬きする習性を持っているから、嘘じゃあない。
参宮が誰かから嘘の歴史を教えられていて、それを信じ込んでいるパターンはある。
あるな。
参宮は他の人間とは違うもん。
なんていうの?
純粋っていうのかな。
騙されやすいっていうか、隠しきれてないっていうか。
大天才であるあたしについてきちゃうところ? もそうだよな。
オルタネーターってなだけで、やっぱり人間とは違うわけじゃんか。
あたしがいくらペーパーテストで高得点を叩き出そうとも、オルタネーターの中では優秀ってだけであってだね。
普通の人間ならさ。
いくら第四世代のオルタネーターの中でもあたしがずば抜けて優秀だったとしてもだよ、自分の命を最優先にして、崩壊する研究施設から脱出すべきなわけだよ。
あの時の参宮は、参宮からプレゼントされた服を置いていけなくて部屋に戻ろうとするあたしを引き止めた。
おかげであたしは助かっている。
最後の最後に信じてもらえなかったってのはこの際水に流そう。
あたしが参宮の立場なら、――いや、時空転移装置に乗るなァ?
あ、そうだ。
思い出した。
あたしは参宮に黙って最後のひと押しをしたんだったよ。
隠し味にパパッとね。
頭の片隅にあって「なんぞこれ」と一年間思ってた数式を入力したら、こうやってうまく行ったわけだ。
あの研究所が怪物に壊されそうになっていて、逃げなきゃまずいところだったわけだしな。
参宮に黙って改造するんじゃあなくて、もっと早く入力して、大完成させていれば。
あたしと同じタイミングでこっちに転移できたんじゃねェかな。
「あの『ピースメーカー』計画の最初っからアンゴルモアが参加していて、ってのはわかったよ。でも『ピースメーカー』計画は、人類を滅亡させるもんじゃねェだろ。っていうか逆だろ」
あたしの知っている歴史をちょいと整理させてもらおう。
まず、五年前に地球規模の大災害が起こって、人類は半分以下に減った。
地球全土で異常気象による影響を受け、我が国は赤道直下の国レベルの熱帯に。
次に、その人類を手助けするべく『ピースメーカー』計画が始動して、
第二世代のオルタネーターが結託して暴走、初代所長の
五代の指揮で、第三世代が誕生し、普及。
オルタネーター関連法が制定される。
と同時に、オルタネーターを原材料とした食品が開発されるようになった。
特に缶詰は国内のみならず国外にも出荷され、我が国の主要な輸出品となる。
「怒らないで聞いてもらえますか」
「なんだよ。怒ってほしいのか?」
怒るなって言われてから怒りそうなことを言われんの、やだな。
あたしは嘘をつけねェから。
思いっきりぶん殴っちまうかもしれねェ。
「……なら、言いません。四方谷さんには、これからも、嘘を吐きますよ」
「は?」
あたしはS・A・Aをホルスターから引き抜いた。
今なら
参宮は「持ってきていたんですね」と言いながら、両手を挙げた。
ニヤついた表情を浮かべているのが、苛立ちに拍車をかける。
「あたりめェだろ」
これは参宮があたしに渡したものじゃんか。
あたしは参宮がくれたから、こうして大事に持っていたわけだよ。
「ごめんなさい」
急に頭を下げられた。
「なんだよ?」
困る。
「俺は、ずっと嘘を吐いていました。本当のことを話したら、四方谷さんが可哀想だから」
「あたしが?」
「四方谷さんに嫌われたくなかったんですよ。初めて会った時から、この子の手を離してはいけないと思っていた」
じゃあ、なんで?
さっき水に流したものを拾い上げる。
離してんじゃん。
「なんで時空転移装置に乗らなかったんだよ。あたしと一緒に居たかったんだろ?」
参宮がまた泣いている。
こんな泣き虫だったっけか。
「あの世界をあんな状態にしたのは、俺のせいだから」
「……は?」
参宮にそんな力はないだろ。
あんな状態ってなんだよ。
「俺が、アンゴルモアと二人で世界を破滅に追いやったんです。それなのに、おめおめと時空転移装置に乗れるわけないじゃあないですか」
「はあ?」
初めて聞いたが。
嘘を吐いていたって、そういうことかよ。
結構デケェな。
「アンゴルモアがオルタネーターを作ったのは、人類に寄生して乗っ取るためです。アンゴルモアは、自分の細胞を他の生命体に植え付けることで、その生命体をアンゴルモアの思うままに操れるようになります」
「はあ」
「オルタネーターの体内には、もれなくアンゴルモアの細胞があります。地球上に転移してきた――ことにしていた怪物たちは、オルタネーターが変化したもの。……四方谷さんは、自身がオルタネーターであることを誇りに思っているから、言えなかったんですよ」
堰を切ったように話してくれる。
あたしに知らせていなかった事実かァ……。
「そうだな」
だから、元の世界には帰らないほうがいいのか。
メインクエストをクリアしてから、創にアンゴルモアも怪物も消してもらったとしよう。
あたしと参宮だけになっちまう。
「俺を許してほしい」
「あたしが?」
あたしがS・A・Aを握る手を「あの世界で生きているのは、もう、アンゴルモアか四方谷さんしかいないから」と言って、上から包んでくる。
冷たい手だった。
「俺が『全人類が
「アンゴルモアと参宮が協力してなかったら『ピースメーカー』計画が立ち上がってないって言うんなら、誘いに乗らなかったらあたしはここにいないだろ」
参宮はあたしになんて言ってほしいんだよ。
「ごめんなさい」
「何に対して謝ってんの」
「……これまで嘘を吐いていたことと、時空転移装置に乗れなかったことに対して」
それはまあ、むかつくな。
あたしは大天才なので凡才のミスには寛容になろう。
「ちょっと手をどかして」
「はい」
うむ。
そういうことにした。
「ほらよ」
あたしは巾着から《タートルバッジ》を1個取り出して、参宮に渡す。
「くれるんですか?」
「2個もらっちまったから」
カグラ、これでいいんだよな?
あたしはカグラにテレパシーを送ってみる。
届いていたらいいな。
やり方わかんねェけどよ。
「四方谷さんがメインクエストを終えても、あの世界は、」
みなまで言うな。
「参宮とあたしとで、また新しく始めればいいだろ」
……ん?
これだとあれか?
参宮とあたしとで子作りして、その???
「さすがに四方谷さんとは」
む。
「行くぞ! 次の都市!」
あたしはチキンを呼び出すべく、S・A・Aを天井に向けて発砲した。
【Next→陽光都市パスカル】
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