Re:SeasonX

第102話 中立都市 〈3〉


 あたしが目を覚ましたことに気付いたカグラは、あたしに2個も《タートルバッジ》を渡してきた。


「2個もいらねェよ」


 すぐさまあたしは1個返そうとしたのに『受け取ってください』とテレパシーで突っぱねられる。


 まあいいか。

 これで4個目だな。


 それからカグラは『どうぞごゆっくり』と言い残して――テレパシーを送ってきて――この家を出て行った。

 ごゆっくりと言われたらごゆっくりするよな。


 菜の花畑に落ちるところから始まって、買い物したり、温泉まんじゅう食べたり、ヤマタノオロチから逃げたり、犬をぶっ殺して最初のバッジをもらったり、チキンに振り落とされたり、捕まったり、都市を破壊したり、工場見学したり、コロッサスデカブツと戦ったり、うまいもの食わしてもらったり。


 いろいろあったが、休みはなかった。

 ここでお言葉に甘えてゴロゴロすんのも悪くな


 くない。


 あたしは世界を救わないといけないんだよ。

 ここで立ち止まっている場合か。


「お邪魔します」


 誰か来た。

 その姿に、見覚えがある。


 っていうかついさっき、夢の中で。


「参宮じゃん」


 ハゲデブだったはずの助手は、夢の中の姿で登場した。

 元がデブだったせいでほっそりしているように思えるけどまあ成人男性って考えるとこんなもんか。

 成人男性の中でも背は高いほうか。

 2メートル近いもんな。


 あたしの約二倍……あたしもでかくならなきゃ……。

 そのためにはあのクソまずい成長促進剤を飲まないといけないか。


 飲まなくても身長が伸ばせる方法、大天才らしく思いつかねェと。


「寂しがっているって聞いてたんで、てっきり泣いているかと思ってましたけど」


 誰から聞いたんだよそれ。

 むかつく顔しやがって。


「あたしが泣くかよ」


 そりゃ、まあ、寂しかったのは本当。

 今こうして目の前にいるほうが、夢なんじゃねェかと思う。


 あたしの都合のいい夢。


「四方谷さんも転生したんですか?」


 


 参宮は、その、転生?

 してきたっての?


 ここに来れたんなら手段はどっちでもいいか。

 たぶん、創がやってくれたんだろ。


 それより。


「ちげェわ。大天才のあたしが、転移に失敗するわけねェだろ」


 最後、あたし一人で時空転移装置に乗せたのは、あたしが失敗するって思ってたからか?


 失敗したらどうしよう。

 自分まで巻き込まれたくねェってか?


 と、食ってかかろうとしたら「だからってお前が泣くなよ!」参宮がそのオレンジ色の目から涙を流していた。


 泣いてる場合かよ。

 まったくあたしの助手ときたら。


「あたしは残りのメインクエストをクリアして、あの世界を救う」


 ここまで来たんなら、クリアまでついてきてもらうからな。

 あたしは拳を強く握る。


 カグラからもらったもう一個の《タートルバッジ》は、参宮のためのものかな。


「救うって?」


 まるで初耳のような反応をされて「参宮は創から聞いてねェの?」と確認する。


「あたしがメインクエストをクリアしたら、あの世界からアンゴルモアと怪物を追い出してくれるんだってよ」


 参宮を転生? させてきたんなら、創の力はホンモノなんだろ。

 メインクエストも今んとこ順調。


 大天才のあたしだけじゃあなくて、参宮まで駆けつけた。

 こりゃあメインクエストの最後の強敵だっていうドラゴンキングとやらも楽勝だなァ。


「そしたら、何もかもが元通りになる」


 憎き侵略者と、その配下を地球から追放する。

 何もかもが元通り。


 全員があたしに感謝するだろうよ。

 ついでに参宮にも。


「あたしが侵略者から世界を救って、人間とオルタネーターの社会を取り戻す!」


 堂々と宣言してやると、参宮は「あの世界には帰らないほうがいいですよ」と進言してくる。


「なんだよ。創とおんなじようなこと言うじゃねェか」


 創は、ここで暮らせって言ってたんだっけか。

 あたしはここにいるべきじゃあない。


 元の世界で、人類のために尽力する。

 それこそがオルタネーターの使命だろ。


「参宮。今度はこの世界を、あたしと一緒に行かないか」


 ちょっと告白のセリフみたいだったかな。

 ……言ってから恥ずかしくなるのはやめろ。


 堂々としていればバレやしない。


 参宮は「いいな、それ」と瞬きせずに言ってくれた。


 瞬きしてたら嘘ついてるからな。

 そういう癖があるんだよこの助手にはよ。


 ふう。


 ……よかった。

 あたしが心臓バクバクなのは、バレていない。


 あの世界でそうだったように。

 こっちのMMORPGだかの世界も、一緒に行こう。


「でも、その前に、俺の思い出話を聞いてください」


 参宮のオレンジ色の目に、影がす。

 夕陽に雲がかかったみたい。


「ん? ああ。いいよ。そういや、あんま聞いたことなかったな」


 あたしが参宮といると、どうもあたしが会話の主導権を握りがちだ。

 大天才のあたしは知りたいことばっかり。


 参宮が頷きながら、時々小馬鹿にしながら、聞いてくれる。

 時々じゃあねェな、結構な頻度だな?


「俺と、アンゴルモアの話を」


 アンゴルモア。

 あたしたちの生活を脅かす敵。


「あたしが転移してから、何かあった?」


 参宮は手近にあった椅子に座ると「転移してからじゃあないですよ。まあ、転移してからも一悶着ありましたけど」と自嘲気味に笑う。


 そういや思い出話をしたいんだったな。

 ついさっき起こったことじゃあねェよな。


「俺がアンゴルモアと出会ったのは、」

「出会った?」


 会ったことあんのかよ。

 大天才の知らないうちに接触してんじゃねェよ。


 そういう大事なことは共有してくれねェと困る。


「出会ったのは、オルタネーターが生まれる前です」


 何言ってんだ助手。

 根本的に間違っているからあたしが「アンゴルモアが地球の侵略を始めたのは一年前だろ。真っ先にあたしたちのいた研究施設を破壊したんじゃんか」と訂正してやる。


「……四方谷さんの記憶だと、そういうことになっていますね」

「あ?」


 大天才のあたしが、間違えるわけないだろ。

 助手がいちばんわかっているはず、なのに。


「オルタネーターを生み出して人間の社会を復興する『ピースメーカー』計画は、アンゴルモアの主導によるものでした」


 バカ言うなよ。

 その『ピースメーカー』計画が立ち上がったのは五年前だろ。


 五年前に、当時の所長だった漆葉弥七うるしばやしちが計画を始動させて、そこに参宮が立ち上げ時から参加していた。

 って言ってたじゃねェかよ。


「じゃあ何、五年前にアンゴルモアは地球に到着してたって言いたいのか?」

「そうですよ」


 大真面目な顔して常識を覆してくるから、あたしは呆れを通り越して笑っちゃいそうになる。


「面白くねェ冗談だなァ」


 面白いことを話してくれよ。

 あたしにとってさ。


 ちっとも面白くない。


「漆葉さんは矢面に立たされていただけです。……アンゴルモアは俺たちを利用して、着々と、人類を滅亡に追い込みました」


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