第101話 悪魔が來たりて嘘を吐く
俺は専用装備のカードを使用し、レベルを最大値にまで上げた。手元の『冒険の手引き』によればプレイヤー自身の能力値がペットの能力値に上乗せされるらしい。和風都市ショウザンではヤマタノオロチという名のヘビをパンチ一発で倒してしまった。嘘じゃん。ウサギさんはウサギにしちゃあデカいけど、それでもヘビのほうが見上げるほど大きかったのにさ。渾身の右ストレートでKO勝ちだよ。
俺のことは金輪際殴ってこないでほしい。
犬のおかみさんから《サクラバッジ》を受け取り、次の都市へ。ここでも専用装備のカードを使用する。青いカードに《テレポート》があって、これで目的地である神樹都市セネカを『ワールドマップ』上でタップすると一瞬で移動できた。赤いカードに《ワープ》があり、こちらも同じく移動に使用できそうだ。
ここでは都市のど真ん中に位置する御神木のネロに宿る守護神を倒さねばならない。守護神を倒したら都市としての機能はどうなんの。という心配は、ここがMMORPGの世界なので不要だろう。どうせマップ移動すれば元通り。
今度はパンチ一発では倒せなさそうなので、テイマーのスキルでウサギさんを強化した。スキルの持続時間中はステータスが大幅に上昇する。俺の『鼓舞する』を受けて目にもとまらぬ速さでパンチを繰り出すウサギさん。怖い。
領主のルキウスから《パールバッジ》をいただいて、黄金都市ピタゴラ。雪が降っている。寒さは感じない。転生だし、死んでるから、その辺の感覚がなくなってんのかな。まあ、ゲームの世界だからかもしれねェけど。この雪もただのグラフィック。
造幣局なる場所に眠るコロッサスとの対戦。甲冑姿に、右手に手斧を持ち左手には盾を構えている。ここまでの敵では最もボスらしい格好。……ボスらしいってなんだ? ゲームのキャラクターとして、見るからに強敵です感を醸し出してるっていうの?
「いけるか?」
「なー!」
何言ってるかわからないけど。
ウサギは助走をつけてジャンプし、コロッサスの頭を殴ろうとした。必殺の右ストレートで。結果、頭部へのダメージは盾によって防がれてしまったが、その盾を粉々に砕く。俺自身よりもレベル上がってない?
「うー……」
着地したウサギは自らの拳をさすっている。痛かったらしい。テイマーのスキルで持続回復を入れておく。俺が早く四方谷さんに会いたいからって連戦させちゃっているのもよくないのかな。
ペットに同情してどうする。
「俺を守ってくれ」
青いカードから《フリージング》を使用した。コロッサスが凍りつく。この間にウサギさんへ、テイマーのスキルだけでなく青いカードの魔法をかけておこう。具体的には《スピードアップ》と《アタックアップ》と《クリティカルアップ》の三種盛り。
「なー!」
ウサギさんの身体は輝き、俺はその輝きの眩しさに負けて両手で目で覆う。その三秒後にはコロッサスが音を立てて崩れ落ちていた。強すぎない?
青いカードによる強化は奥の手として使おう。そうだなそれがいい。四方谷さんと合流すれば、四方谷さんのほうの専用装備もあるだろうし。神がどんなアイテムを渡したかはわからないけど。
コロッサスの亡骸から《ゴールドバッジ》を拾い上げた。
これでよし。
バッジをしまってから、携帯端末を取り出してメインクエストの進捗を確認する。中立都市ゼノン。
「次が中立都市か」
ウサギさんが強すぎてここまであっという間だったな。俺はなんもしてないようなもん。いや、強化はしたか。なんもしてないわけじゃあないよ。
青いカードの《テレポート》で移動した。……さて、この広そうな街の中で四方谷さんを見つけないといけないわけだけど。もう移動してたらどうしよう。ノーヒントで探すのはつらいし、かといって通行人に聞いてもな。相手はNPCかもしれねェしさ。プレイヤーだとしても、よっぽど四方谷さんが有名になっていないときつそう。
なんかないかなと携帯端末を操作していたら、フレンドの欄に『ピースメーカー』の文字を見つけた。
そんな奴と友だちになった覚えはない。
「ピースメーカーね……」
これからの人生――死んでるんだけど――できればこの単語は避けて通っていきたいよ。ただ、そのピースメーカーさんはこの都市の民家が現在地としてマップ上に点で表示されている。他にフレンドはいない。ゲーム内で友だちを作れば増えるんだろうけど。
「行ってみるか」
「な!」
ウサギさんが同意した(ように見えた)。
ゲームだし言う必要はないだろうけど「お邪魔します」と挨拶して扉を開ける。テーブルひとつ、イスがふたつ。その奥にベッドがひとつ置かれていて、そこに、
「
四方谷さんはいた。下半身は毛布がかかったまま、上体を起こし、俺がこの場にいるのが信じられないって表情でこちらを見ている。
「寂しがっているって聞いてたんで、てっきり泣いているかと思ってましたけど」
「あたしが泣くかよ」
ツインテールを解かずに寝ていたのかボサボサの頭にはなっているけど、間違いなく四方谷さん本人だ。
「四方谷さんも転生したんですか?」
「ちげェわ。大天才のあたしが、転移に失敗するわけねェだろ」
生きている。
あのとき、時空転移装置での転移に成功して、今、ここで。
「だからってお前が泣くなよ!」
よかった。
四方谷さんは、あの世界から逃げ切った。
「あたしは残りのメインクエストをクリアして、あの世界を救う」
……?
「救うって?」
「参宮は
創って、神か。
ゲームマスターがそんな名前を名乗っていた。
四方谷さんの前にも現れたんだな。
「あたしがメインクエストをクリアしたら、あの世界からアンゴルモアと怪物を追い出してくれるんだってよ」
は……?
四方谷さんとの再会に安堵した涙が引っ込む。
「そしたら、何もかもが元通りになる。あたしが侵略者から世界を救って、人間とオルタネーターの社会を取り戻す!」
元通りにはならない。
アンゴルモアが地球上からいなくなったら、新しいオルタネーターは作れなくなる。
アンゴルモア細胞を接種した人間たちも、アンゴルモア細胞によって作られたオルタネーターたちも、みんなモンスターになってしまうから、あの世界には、……というか、追い出すって言っても、あいつ戻ってくるだろ。四方谷さんがあの世界に戻ったとわかれば、すぐに。
「あの世界には帰らないほうがいいですよ」
四方谷さんは知らない。
宇宙からの侵略者が、地球で何をしていたのか。
知らないから、自分が救世主になれると信じている。
四方谷さんの存在そのものが、あの世界の隠された真実。
「なんだよ。創とおんなじようなこと言うじゃねェか」
ピースメーカーについて、ユニが語ってくれた言葉を思い出す。
開拓者の銃。
裏を返せば、平和な世界を脅かす侵略者の銃。
四方谷さんが〝ピースメーカー〟を名乗るのは、皮肉というか風刺というか。俺は四方谷さんの視線から逃れるように、ホルスターに収まったS・A・Aを見つめる。
「参宮。今度はこの世界を、あたしと一緒に行かないか」
俺は、
「いいな、それ」
この子に黙ったままでいいの?
「でも、その前に、俺の思い出話を聞いてください」
「ん? ああ。いいよ。そういや、あんま聞いたことなかったな」
四方谷さんが喋ってばかりだったからさ。
俺もたくさん喋ってくれたほうが、喋らなくて済むし。
「俺と、アンゴルモアの話を」
【 】
SeasonY end.
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