第110話 常夏都市 〈3〉

 砂浜の『海の家』ってところに着替えるスペースがあったので、そこで水着に着替える。

 着替えぐらい一人でできるから、助手は外で待たせていた。


 おかしくないか?

 この格好。

 おかしくないか?


「お似合いですよ」


 あたしが上着を脱ぐ時に崩してしまったツインテールを結び直しながら、助手が褒めてくる。

 ……そうかな?


「ガンベルトは巻くんですか」

「あったりまえだろ。ずっとSAAを持ってろってのか」

「転んだ時に両手つけないと困りますもんね」

「そんな頻繁には転ばねェよ」


 どうせこの戦いが終わったらすぐに着替えて、次は精鋭都市テレス――これでバッジ集めはラストか。

 思ってたよりかかったな。


「はい、できましたっと」


 自分で触ってみて、いつもの位置にあるかを確かめる。

 よし。

 今度のネコは、カグヤ、カグラ、カゴメときて、どんな名前だ?


「メインクエスト、対象のNPC」


 あたしはガンベルトに吊り下げてある巾着からスマホを取り出し、地図で確認する。


「その巾着って、元から持ってましたっけ?」

「いんや、こっちで買った」

「へぇ」

「欲しけりゃ自分で買えよな」


 そんなに高くなかったし。

 和風都市ショウザンにもう一度行くことがあるんだとしたら寄ればいいんじゃねェの?


「そういう可愛らしい小物にも興味があるんだなって」

「結構使わなきゃいけないのにスマホ見るためだけにいちいちカバン下ろして、見て、しまってをしてたらめんどくせェじゃねぇか」

「――まぁ、そうですね」

「なんだよその間は。言ってみろよ」


 何に引っかかってんだか。


「四方谷さんってオルタネーターっぽくないですよね」

「そら、最新の第四世代は第三世代と違うから」

「と、俺も思うようにしてたんですけど、にしても、ですよ」


 助手が顔を近づけてくる。


「オルタネーターって、人間と区別をつけるためににおいをつけるじゃないですか」


 におい。

 人間が自分自身の体臭がわからないように、オルタネーター自身もオルタネーターのにおいはわからない。

 わからないが、人間にとっては結構きついらしい。

 建造物にはオルタネーター専用の入り口が用意されていて、ゲートで消臭剤を吹きかけられるぐらいだ。


「全然、そういうにおいがしないっていうか」

「顔近い」

「ああ、すいません」

「こっちの世界にいるうちににおいが取れたんじゃねぇの?」

「そうですかね?」


 第四世代だけにおいがついていないってことはないだろう。


「前は俺の身体がおかしくなってたから、鼻もおかしくなってたんじゃないかって」


 まだ言うか。

 前の助手……そうだ。


「前はデブだったよな」


 普通はもっとオブラートに包んで言うべきなんだろうが、助手へはストレートに言ってもいい。

 なんせ助手だからな。


「デブっていうか、腹ばっかり膨らんで、足と腕が細くなって、頭は禿げちゃって」

「そうそう。あたしにとっちゃ、そっちのほうが助手だから、今の姿は『誰?』だよ」

「今の姿が、あの侵略者と会う前の、本来の俺ですよ。――四方谷さん的には、どっちがいいですか?」

「どっちかっていうと、今のほうが人間としてだよな。参宮には長生きしてほしいから、今のほうがいいよ」


 あたしはオルタネーターとして、元の世界を救えたらそれでいい。


「四方谷さんは長生きしたくないんですか?」

「オルタネーターの耐久年数は」


 元いた世界の一般論を述べようとして、助手は「サービス終了までは平和ですよ。四方谷さんはオルタネーターとしてではなく、転移者として、この世界で生きていたいと思わないんですか?」となんだか最初にはじめが言っていたのと近いことを言ってきた。


「あたしがメインクエストをクリアしてんのは、元の世界から侵略者を追い出すため。追い出せば、あの世界は平和になる」


 このやりとり、参宮と再会してからもやったな。

 今聞けばあたしの気持ちが変わっているとでも思ったのか。


「平和には、……見かけ上はなるかもしれないけども」

「助手に何がわかるんだよ!」

「あの世界からアンゴルモアが消されたら、


 何を言い出すかと思えば。


「アンゴルモアがいたからオルタネーターが生まれたので、アンゴルモアが現れる前の状態に戻ったら、オルタネーターは存在しないことになる」

「それなら、それでいいじゃねェか。人類の平和のためにオルタネーターがいるんだから、そのオルタネーターあたしがゼロの状態に戻せるんなら、それでいい」

「本当にそうですか?」


 何を。


「うるせェな。とっととクラーケン倒すぞ」


 あたしもバカじゃねェから、参宮の気持ちが全くわからないわけじゃない。

 ただ、――うん。

 あたしは救世主になるのだ。

 この世界でぬくぬくと過ごしているわけにはいかない。


 むかついてきたからクラーケンにSAAをぶちかましてやるか。

 次行くぞ、次。


【Next→精鋭都市テレス】




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る