第93話 “Take off toward a peace.”
俺の語る『ピースメーカー』計画のあらましが、シイナにはどう聞こえただろう。俺は人の考えを読めるわけでもないので、シイナが「ちょい待ち」と言って補足の説明を求めるたびにまだるっこしさを感じながら答えていた。ユートピアの立場も考慮して、ユニと
言葉の解釈は聞き手次第だろ。
「オルタネーターの素材は、宇宙由来の成分なのか……」
「そうです。
「はぁ……スッゲェな」
――だから、あのユニはアンゴルモアなんだと思う。もし次にユニと出会うことがあっても、それはユニの姿をした侵略者だ。
「話してくれてありがとよ。おかげでこれがフェイク映像じゃねーんだなって思った」
シイナは携帯端末の画面を見せて、動画の再生ボタンを押した。どこかの工場の様子だ。コンビニやスーパーで売られているような弁当が番重に所狭しと並べられている。ここからトラックに乗せて、各地に配送されるのだろう。
ベルトコンベアで右から左へと細かい部品のようにお弁当の具材が運ばれていって、人間――じゃあなくて、オルタネーターたちは一個ずつ目視で、おかしなところがないかを確認しながら自らの手前にある弁当箱に詰めている。ゴミとか髪の毛とか小さい羽虫でも入っていたら大問題だからさ。この段階で悪評につながる危険は
こういう工場の作業員として働くオルタネーターには、青色のツナギが渡される。オルタネーターと人間とを一発で見分けるために、オルタネーターはオルタネーター専用の服が用意されていた。オルタネーター専用の服を好んで着るような人間もいない。
ふと、画面の真ん中辺りにいるオルタネーターの動きが止まった。概要欄によれば、この映像はオルタネーターたちの勤務状況をリアルタイムでチェックする監視カメラが撮影したものらしい。動きが止まったオルタネーターにズームしていく。
青色のツナギの背中には製造番号が縫い付けられていて、故障した場合は
オルタネーターの表皮がぶくぶくと泡立ち、穴から溢れた赤い体液がツナギごとオルタネーターを包み込んだ。周囲のオルタネーターも
やがてオルタネーターはウサギのような姿に変化して、暴れ始める。
ウサギはベルトコンベアの上の部品を飛び散らせ、目についた機械をその足で蹴り飛ばし、同僚たちを襲っていく。動画のラストは、監視カメラにヘルメットのようなものが投げつけられ――おそらくは監視カメラそのものが破損して――暗転して終わった。
「反オルタネーター派の奴らがわざわざご苦労なこって、と思ってたけどよ」
絶句している俺の代わりにシイナが喋っている。
俺は知らないぞ。こんなの。何も聞いてない。モンスターに変化したオルタネーターは、第三世代のオルタネーターだ。しかも、現行世代で、もっとも普及している成人男性型のオルタネーター。
第三世代は人間に反抗しない。人間が意図していない挙動をするはずがない。仕事を放棄して、モンスターの姿になって、職場で暴走するなんて、絶対にありえない。
「あのXanaduが壊された直後に、この事件は起こったんだそうだ」
「知らない!」
問い詰められる前に、俺は否定する。
シイナは俺にこの映像を見せて、何を聞き出したいんだ?
オルタネーターと、アンゴルモア細胞、宇宙人の話はした。したよ。でも、俺は知らないよ。第三世代のオルタネーターなんて、俺が
俺は製造法を知っているだけで、直接関わってはいない。
下っ端だしさ。俺が悪いわけじゃあないよ。
「宇宙からの侵略者が、オルタネーターを普及させて、人類がオルタネーターなしでは生活できなくなってから、今度は
シイナは俺の反応には目もくれずにひとりごちた。
大体合っている。
俺が話していないから、オルタネーターが本来はアンゴルモアの新たな器を作り出すために生み出されたもの、とまではわからないはずだ。表向きには、宇宙からの攻撃によって壊滅した世の中を立て直すための代替品だからさ。
「四方谷さんには言えませんね」
第二世代に関しては厳しい評価を下していた四方谷さんだけど、現行世代である第三世代はいずれ第四世代が追い抜くべき目標としてのリスペクトはあった。そんな第三世代の豹変を知られるわけにはいかない。
アンゴルモアは、宇宙の果てから【転移】してきたと話していた。もし四方谷さんがモンスターに遭遇したら、アンゴルモアがその力で【転移】させてきたことにしよう。そのほうがいい。
というか、四方谷さんもオルタネーターである以上、モンスターに変貌してしまう……?
ないか。ないな。アンゴルモアはひいちゃんの姿の器が欲しいのだから。
「あの子にどう話すかは、サングー、お前に任せるよ」
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