第86話 A Farewell to memory
ここんところずっと悪夢にうなされてる。寝た気がしないのん。というのも、
――あれは過去だったよん。
紛れもなく、現在に続いているタイプの過去の世界。パラレルワールドでもなく、私が目指した『Transport Gaming Xanadu』の世界のようなゲームの世界でもなっしん。
過去の世界だって私が気付いたのは、八束さんがプンスカ怒って出て行ってしばらくして、急に寂しくなってテレビをつけたから。
「トウキョー、ウエノの事故現場から中継です」
事故。
野次馬だらけの事故現場。ねじ曲がったガードレールと、タイヤ痕。私にも見覚えのある被害者の名前。
まだ半分ぐらい残ったストロング缶を床に落としてしまうぐらいに、画面に釘付けになる。
もう、この部屋の家主は戻らない。
「ユニ、帰るぞ!」
戻ってきた
そして、去来するのは『私が八束さんを煽らなければ事故は起こらなかったのでは?』という疑問。事故が起こっていなければ。八束さんはこの部屋でウジウジしていて、最悪な事故の連鎖もない。英伍くんのお父さんと弟の晴人くんは、英伍くんからトウキョーの観光旅行をプレゼントされていて、あの日あの時に偶然いただけだから、まだ生きている。
だから、八束さんがここにいたら、
「
その両肩からは触手がコンニチハしている。
「拓三の家族が乗った車を、シノバズ池に叩き落とした。これで拓三はひとりぼっちだぞ!」
堂々と犯行を告白されて、私は開いた口が塞がらなくなった。この事故には『人を轢き殺した乗用車がトップスピードでシノバズ池に飛び込むだろうか?』という不審点があったのだが、よもや宇宙人の仕業だとは。誰が想像できただろうか。
とどのつまり、私と
「してやられてんなあ、人類ちゃん……」
振り返り終了。
私は携帯端末の画面を見ている。
いつもなら秒で既読になるはずの英伍くんからの返事がない。
一週間ぐらいこんなかーんじ。
英伍くんは薬剤師の資格を持っているから、睡眠薬をもらいたかったんだけどなーあ。医者のオルタネーターにお頼みすれば、私に合った薬の処方箋を書いてくれて、薬剤師のオルタネーターが準備してくれるんだけどさーあ。差別じゃーんって思われちゃうかもだけどもども、やっぱり昔から付き合いのある人間に相談したいわけよん。
「英伍くんなら我が殺したぞ」
……?
冗談でも殺したなんて言わないほうがいいのん。
ここんとこ姿を見てないといえばそれはそうなんだけどけど。
「安藤もあのいるところにあるぞ」
元々音楽室だったところでしょー?
あの場所には、私と
「ユニは英伍くんに絶大な信頼を寄せているようだが、英伍くんが嘘をついているとしたらどう思う?」
英伍くんは私のいとこで、
その英伍くんが私に隠し事するの、考えられなくなーい?
嘘をついているだなんて疑うのはアホっぽいよん。
「ふむ」
私の見てないうちに英伍くんからなんか言われたのん?
英伍くんは、
「英伍くんと他の追放者たち、どちらも人間ではあるが、ユニの中では重要度が違うのだな」
英伍くんと裏切り者とを同列に扱わないでほしいのん。
全てはピースメーカー計画を円滑に進めて、私が京壱くんに再会するため。ピースメーカー計画に反対する人間はここにいる資格はなんてないよーん。オルタネーターをたくさん作って、世の中を根っこの部分から変えていく。人間の総数が減ってしまったあのころの、そうでないと人類ちゃんはおしまいだった。
我が国の上の人たちも賛成してくれたじゃーん。
偉い人たちが「いいよ!」って言っているのに、下々の者が「否!」と言っちゃうのはただのバカなのん。
「どうやら我とユニとで、見解の相違があるようだ」
あなたが英伍くんを殺したっていうのが本当なら、私のそばから離れてほしい。
私は時空転移装置改造版で今度こそ『Transport Gaming Xanadu』の世界に戻るから、いずれにせよあなたとは離れるんだけどねん。京壱くんと一緒に帰ってきたら、また会うことはあるかもかも。
「さよならユニ。次の世界でまた会おう」
消えたってことは、英伍くんを殺したのは事実ってことでいいんだよねん?
そんで、死体は音楽室にあるのかな……なんで開けられたのか理解不能だけどけど。
連絡がつかないのにも、死んでるんだからそりゃそうだって合点はいく。
「そっか……」
私は携帯端末を操作して、
現存する全てのオルタネーターがそうであるように、彼女はすぐに私の部屋へやってきた。
「
「わざわざ言い直さなくていいよーん。知ってるから」
彼女を呼び出したのには理由がある。
彼女でないといけない。
私は「そこに座って」と背もたれのある椅子に座らせて、オルタネーターの教育用に作成されたヘルメット型の装置を彼女に被せる。頭の小さい彼女に被せたら、鼻まで見えなくなってしまった。口の部分には何もないから、呼吸はできるので問題ない。耳も完全に覆われている。
「大天才のあなたは、時空転移装置の設計図を持っています」
「持ってねェ――持ってません」
口が悪いのは誰に似たんでしょーね。
私はちょっとニヤけちゃったけど、ここは真面目に決めないといけないから「今から始まるのは、私の懺悔のようなものです。四方谷さんは、忘れてしまうでしょう」とキッパリと言った。
装置で、設計図のデータを脳にインプットさせる。と同時に、電源を入れてから音声データとして入力される私の言葉は彼女の記憶領域から綺麗さっぱり消える仕組みとなっていた。
彼女には忘れてほしい。
四方谷拾肆がこれからを生きていく上で、私の存在は重荷になる。
彼女は自らを、誇り高き
オルタネーターは道具であり、人間ではない。
と、父子ともども信じていたほうがいい。
あの宇宙からの侵略者が固執し続けている人間の器の条件から外れる。
宇宙人は真実を知っているが、真実を知らないあいつは四方谷拾肆を上書きさせないだろう。
電源を入れる。
ブゥン、と音がした。
「あなたの顔は、
英伍くんには、全部は話してない。
いや嘘。あいつがこの子を四方谷さんって呼んでんのを知ってから、ちょろっとだけ「本当は人間だよ」とは言ったかもかも。秘密にしておくつもりだったけどけど、さすがに四方谷さんって言うのはなーんって、誰かに愚痴りたくなっちゃったんよ。
「ん? んん? ――何これ?」
ちょうど今、視覚情報として時空転移装置の外観が送り込まれているところだと思う。
電話ボックスみたいなものがふたつあって、ふたつの間に制御装置があるよん。
「私は私の目的を果たすために、罪を重ねてきました。そんな母親のことなど忘れてください」
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