第82話 Lost some-lie 〈前編〉

 私の『ピースメーカー』計画、うまくいきすぎて笑っちゃった。


 人類ちゃんは負け確。おつかれさまだよーん。オルタネーターが社会基盤に組み込まれて、ベーシックインカムでお財布を握られているかぎりはおしまい。オルタネーターを加工して作られた缶詰は各世帯に支給されているから、よっぽどの菜食主義者ベジタリアンでもなければお召し上がりになられているはず。あとは、敗戦記念日をいつにするか決めるような段階。


 んまぁ、参宮拓三さんぐうたくみくんが暴走して逮捕されたのは計算外だったんだけどもさーあ。一体誰があの決定的瞬間を、犯行中の映像を提出したんだろうね。


 でも、刑務所に入るのっていい経験になったんじゃないない? 社会経験として、なかなか出来ないことでしょ。本来ならもっと長くいないといけなかったよん。でもでも、そうすると私の目的がなっかなか達成できなくなっちゃうから。


 しばらく見ないうちにずいぶんと、内面通りの外面異常で醜悪な姿になってくれちゃってて、改めてアンゴルモア細胞ってすんごいなと思ったわけ。


 もう誰も参宮拓三を愛することはないのでしょう。

 生理的に無理。


 かわいそかわいそ! って思ってたら、第四世代の十四番は――っていうか、あの子にはいろいろ、があるっちゃあるんだけども――彼のことを好きみたい。よかったねえ。すんごいなついているとは聞いていたけども、まさか四方谷よもやさんと呼んでいるとはさ……いい加減にしろってかーんじ?


 四方谷という名字は、彼が研究施設Xanaduに来る前に最後に住んでいた母方の祖父母の家――ええと、彼の父親の再婚相手の、後妻さんの結婚前の名字だよん。偶然の一致にしては出来すぎてるしさーあ。それとも、十四番の記憶の奥底に、っていう文字があったのかもしれないない。アンゴルモア細胞が組み込まれている以上、安藤もあの見たもの聞いたものがなんとなーくそれとなーく、既視感デジャヴなレベルで反映されてもおかしくはないじゃーん?


 そうそう。アンゴルモア細胞だとか〝コズミックパワー〟だとかの話を英伍くんにしたんだよん。英伍くんもオルタネーターの成り立ちは興味あったみたいだし?


 あれはわかってなかったね。口では「そうなんな」と納得しているそぶりは見せてたんだけどけど。ユニ坊、何言っとるんや? って目で語っちゃってた。宇宙人の身体の一部を人間と同成分の肉塊に組み込むとあら不思議、人造人間オルタネーターが誕生するんだよーん。……私でも何を言ってんのかと思っちゃうけども、実際そうして生まれたんだからそうとしか言いようがなくなーい?


「そして今日は、弐瓶柚二にへいゆにの悲願が達成される日だぞ!」


 ここまでいろいろありましたん。


 人類ちゃんには申し訳ないけどさーあ、私にとっては、オルタネーターは副産物でしかないわけで。私にとっちゃあ人類ちゃんの行く末はどうでもいいのん。愛しき侵略者アンゴルモアにとってはそうでもなくとも、私にとってはね。


 私の目標は、四年前も今も変わらない。

 京壱けいいちくんに再会して『Transport Gaming Xanadu』の世界から現実へと連れ戻すこと!


 完成したのん。

 時空転移装置じくうてんいそうちが。


「これからユニは魂だけの存在となり、その『Transport Gaming Xanadu』の世界に飛ぶ」


 うんうん……うん?

 その間、この肉体は――ユニちゃんの身体はどうなっちゃうのん?


「時空転移装置の中で放置されるから、この部屋には何重にもロックがかかっている。拓三にも持たせたセキュリティカードがあっても入ってこれないぞ」


 おけおけ。幽体離脱して、気絶した状態になっちゃう、と。肉体の持ち主の私がいないうちにあんなことやこんなことをされたら嫌だしね。


 で、私は京壱くんの魂を連れて、そこに寝かしている第四世代のオルタネーターの身体に京壱くんの魂をねじ込む。京壱くんは飛び降り自殺して死んじゃったことになっていて、オリジナルの肉体はとうの昔に骨になっているから仕方ないよねん。


 着いたらさっそくモンスターに襲われたらどうしよ。

 そんときは愛しき侵略者アンゴルモアさん、よろしくねん。


「準備はいいか?」


 私は出来てる。

 時空転移装置の中に入って、スイッチを押したら転移開始。


 ――!


 なんかすごい、脳が揺れ揺れ、揺れるんですけどお!?


 なんだこれ、Gっていうの?

 宇宙飛行士がロケットの中で耐えなきゃいけないやーつ?


 あびゃばばば!


「ユニ、大丈夫?」


 ばばばばば。

 びゃー!


 ばやばばばば。


 んぎゃあ!


「あれ……?」


 ぶべっ!


「ユニ、ここが『Transport Gaming Xanadu』の世界か?」


 え、ええ、えええ?


 うげえ気持ち悪い。

 洗濯機の中に入っているぬいぐるみになった気分だったよん……。


「ユニから聞いていた話よりも、ずいぶんと近代的だな!」


 私はに着地していた。枕はひとつしか置かれていない。大きいサイズが好きな人なのかな、家主。


 じゃ、なくて!

 ここ違うな?


 私の知っている『Transport Gaming Xanadu』の世界じゃないのん!


「そうなのか?」


 というか実体化してんの、私。

 さっき着てた白衣のまんまだし……魂だけ、ってわけじゃないのん?


「空気中の成分を付着させて人間の形にしているぞ。解除して霊体にもなれる』


 さらっとすごいこと言ってんなあ。

 ……っていうか、これ、転移失敗じゃーん?


 部屋の中を見回す。寝室かなあ。部屋の隅っこにおもちゃ箱のようなものが見える。壁にはバイクのポスターが何種類か貼ってあるけどけど。


 キョロキョロしてたら、ガラッと扉が開いて、風呂上がりっぽい全裸の男性が入ってきた。お互いに目が合って、固まる。このとき、ユニちゃんが取るべき行動は次のうちどれ!


1,怪しい者ではないと弁明する。

2,えっち! と叫ぶ。

3,頭のいいユニちゃんは〝コズミックパワー〟を借りてこの場から逃げる。

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