Phase4

第78話 名前を入力してください

 次こそはその手を離さないようにしないといけない。


「ひいちゃんって呼んでも……」

「なんでだよ。あたしは第四世代の十四番目で、どこもかすってねェじゃんか」


 けんもほろろに断られ続けている。


「せめて『おにいちゃん』って呼べない?」

「ふざけんな」


 オルタネーターは名実ともに人類の代役となり、第三世代の抱えていた問題は五代英伍ごだいえいごの開発した飲み薬――オルタネーターたちには大変不評な成長促進剤――が解決していく。

 第四世代はより安定をとりつつ、身体能力の向上を目標に設計された。


 と、この子が五代とユニを説得して解放されたのちに、俺は他の研究員から説明を受ける。


 ずいぶんと丁寧に説明されたけども。

 俺にとってはどうでもいい。


 あれだけ俺を殴ってきたユニは、十四番の顔を見てから手のひらを返したように「拓三をここに置いておこう」と言い出す。

 もちろん五代は承服しかねる顔をしていたけども、ユニと十四番がゴリ押しした形だ。


 参宮一二三さんぐうひふみの生き写し。

 亡くなったあの日のままの姿をした彼女の存在は『ピースメーカー計画』の終焉と同義。


 彼女にはこのままでいてほしい。

 俺のそばにいてほしい。


「君は他のオルタネーターとは違う」


 俺の言葉に、彼女は初めて頭を縦に振った。

 力強く「あたしは大天才だからな!」と言い放つ。


 彼女がそう言うのなら、彼女はなのだ。


 他のオルタネーターとは違う。

 俺のために生まれてきた個体。


 だから、俺を救ってくれる……!


 彼女のために俺も、

 誰より賢く、特別な


「名前を決めよう」

「あたしは十四番目だって言ってんだろ」

「数字で呼んだら同格みたいじゃん?」


 俺が言えば「ふむ……」と半分納得したような顔をする。

 トテトテと本棚に近づいていき、辞書を持ってきた。


 きっとこの部屋は、元々ここが学校だった頃には図書室だった場所だ。


「お前の言う『ひいちゃん』ってのとあたしがどんなに似てるんだとしても、あたしはあたしだかんな」


 ページをめくりながらくどくどと、同一性を否定する。

 俺が言いすぎた面もあるが、それにしても。


そいつひいちゃんとの思い出は、思い出として大事にしてくれよ」


 ……。

 ……。


「第四世代だから、四は入れてェな。大天才らしく、意外性があって、他の人間とは被らなそうなの名前……よもや、うん、よもや」


 そうか。

 そうだな。


「十四。十は拾にして、四は肆にしたら他の世代とも被らねェだろ。四方谷拾肆よもやじゅうしでどうだ?」


 持ち歩いているリュックサックからノートとボールペンを取り出し、拙い漢字が並ぶ。

 大天才が大天才らしく生きていくための名前。


「いいな、それ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る