> Hello,world.
「天上天下、唯我独尊!」
どうだ!
あたしが起き上がって、数歩進んでから、そう宣言してやった。
ってのに、周りのベッドは空っぽだった。
返ってきたのは沈黙。
はー、つまんねェの。
「ふぅーん……」
ま、いいってことよ。
あたしは部屋を出る。
出ちゃいけねェなんて言われてないもん。
この二本の足で歩くのは、もたつく。
イメージトレーニングはバッチリなのに、うまくいかねぇ。
インプットは何のエラーもなかった。だからできなきゃおかしいんだよ。クソが。うまくできない自分自身に腹が立つ。
右と左を同時に出しそうになって手すりに掴まったり、ぴょんぴょん跳ねたりしながら廊下を進んだ。
オルタネーターの第四世代。
あたしは第四世代の十四番目として、この世界に生み出された。
十四番目。多すぎず、少なすぎず。いい数字だろ?
オルタネーターの役割は、滅亡しそうな人類の手助けをすること。
十四番目のあたしは、――何をすればいいんだろう?
「にしても、誰とも会わねェな」
今日は休日か?
ってぐらいに人間や他のオルタネーターとは遭遇しない。
あたしはこれから、あたしたちの部屋で寝泊まりしながら、人類のために学習していかねばならない。
その学習の中で、得手不得手を判定して、職業が割り振られる。
眠っているうちにある程度の知識は
やりたいことではなくて、できることで決められる。
それでいいと思う。オルタネーターが夢を持つ必要はない。与えられた役割を、きちんとこなす。そういうもんだ。
そうでないと数少ない人類が楽をできねェからなぁ?
窓に映り込む姿を見るかぎり、今のあたしはずいぶんとちっちゃい。
人間の子どもぐらい。
子どもの中でも子どもで、結構子ども……喋れるようになったばっかりぐらいの。
これから、これから。
これからぐんぐん伸びて、みんながひれ伏すような
今に見てろ。
「ァああああアアアア――!」
なんだ!?
あたしが自分の顔に見惚れていたら叫び声がしたもんだから、そっちのほうに駆け出してしまう。
……行かなくちゃいけないような気がしたから。
あたしに何ができるわけじゃあなくとも。
あたしにしかできないような予感もした。
「なんで、なんでユニが!」
髪の短い女の人が「うるさい!」と怒鳴って、泣き叫ぶ男の――人? の腹を蹴り飛ばす。
人だよな?
あたしの知っている人の姿とは、ちょいと違ってるんだけど。
「お前さえいなければ! 全部! こんなめちゃくちゃにならずにッ! 済んだの! お前が悪いんだ! 全部お前が悪いんだよ!」
ボコっ、ボコっ、と、蹴られるたびに声だか擬音だかわからないような音が出てくる。
その度に人っぽいような人――っていうか、あれだな、妊婦みたいだよ。人間は人間のお腹の中である程度成長してから生まれてくるんだろ? オルタネーターの製造方法と違うんだよな? あたしたちは、試験管から育って、機械に入れて熟成させる――の口から赤黒い血が噴き出された。
女の人の隣にいる髪の長い――えっと、こっちも女の人? は、暴力を止めようとしない。ニタニタと笑いながら見ているだけ。
止めなきゃダメだろ。
「こらー!」
あたしは覗き込んでいた隙間から身体を滑り込ませる。
とてててててと走って、髪の短い女の人の前に立った。
ちょうど人と人(?)の間に立つような感じ。
見れば、男の人(頭はハゲかかってて、お腹は変に膨れ上がっていて、人っぽい姿ではないけども言葉を理解してたっぽいから人だろ。血も人っぽいし。人ってことにする)は椅子に拘束されている。
これじゃあ動けねェな。
蹴り飛ばされてても抵抗しないんじゃあなくて、できない状態だった。
「……ひいちゃん?」
男の人が唇の端から血を垂れ流しながらポツリと呟いて「あっ」と髪の短いほうの女の人もなんかに気付いたような表情をする。
「どしたん?」
男の人だった。
髪の長い女の人じゃなくて、男の人だ。
髪の短い女の人の隣で、一人だけよくわかっていないような顔をしている。
あたしもわかんねぇわ。
あたしは第四世代の十四番目だし。
「我がタクミの家の写真で見た、あのちびっ子だ」
あ?
何?
「ひいちゃんが俺を助けてくれた……!」
何?????????
「なぁに言っちゃってんの?
「死んでないよ! だって今ここで! 俺を救ってくれたんだぁ……はははは……はは……!」
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