第74話 傍観者


【オートセーブ中です】


 ユニ坊の様子がおかしい。


 昔っからおかしな子ではあった。一色京壱のことが大好きで、一色京壱以外の男には目もくれない。アウトオブ眼中っていうの? その辺のゴミカスのほうがまだ拾ってくれるだけマシ、みたいな女の子やった。せやから、自分はまず、ゴミカス以上にならんとなって。京壱くんにはなれへんけど。ユニ坊の中で、ゴミカスよりも価値のある存在にならへんと。ゴミカスに話しかける女なんかおらんやん?

 そんで、ユニ坊の身の回りを徹底的に調べて、自分はでいこうと思ったわけやな。父親とは喋っとるみたいやし。兄とか弟とかはおらん。ユニ坊は一人っ子や。お隣さんで同い年の京壱くんにベタ惚れしたのも、お互い寂しかったんやろ。

 ユニ坊との出会いのきっかけになった交流会も、ユニ坊が出席するっていうから出た。他の有象無象なんか興味ないわ。自分に話しかけてくる輩は居ったけど、自分は最初っからユニ坊に話しかける心算やったからな。話半分で気もそぞろ。ユニ坊に話しかけるときには、もうこれが人生の最初で最後の大チャンスと思って、まさにキヨミズの舞台から飛び降りるような心持ちやったわけ。


 ユニ坊にはずっと、嘘をつき続けている。そうでないと、対等な関係で話ができないから。と思ってたんよ。


 めっちゃガードの固い女が一介の大学院生と付き合うわけないやろ。頭打ったんちゃうか。――ユニ坊の研究室の男から、最近ユニ坊に頻繁に会いにくる男がいると聞いたときにゃあたまげた。男だけやなくて、どえらいべっぴんさんも来るのだとか。べっぴんさんはまあええけど、男。べっぴんさんは安藤もあといって、研究室の男どもに手土産を持ってきてくれるようになったとか、研究の一部を見せると「何が起こっているのかわからないがすごいな!」とか「励むといいぞ!」とか褒めてくれるのだとか……それはどうでもええねん。男のほうや。


 参宮拓三さんぐうたくみ


 ここでこう繋がってくるとは思っとらんかった。名前を聞いて、頭ん中が真っ白になったわ。自分の父親と弟の晴人を轢き殺しよった男の息子。そんででもある。

 ああ、そうな。自分のとこのおうちの事情について話しとかなあかんか。

 自分の実の父親は隼人っていうんよ。自分が小学校に上がるぐらいだったかな、もうちょい前やったかもしれんけど、離婚して、自分と妹は母親のほうで引き取った。で、五代勇治さんと再婚して、名字は五代になったんや。自分が父親って言うとこっちの勇治さんのほうやな。

 拓三は自分から見たら異母弟になる。参宮隼人が自分の母親と離婚した後に再婚した相手との子どもやから、腹違いの弟やな。拓三は知らんやろうし、こっちもあの事故さえなければ調べようと思わんかったから、一生知らんままやったと思う。

 拓三の父親が起こした事故は、自分からしたら『自分の生みの父親(父親が産むわけやないから変な感じやけど、便宜上そうしとくわ)が育ての父親と自分の弟(再婚相手と実の母親との子)を撥ね飛ばした』っていう、ようわからんけど自分の身の回りの人間ばっかり出てくるなあっつー事故やった。

 偶然だったとしたら、なんで晴人が巻き込まれなあかんねんって思うわ。話聞いとると、歩道に車が乗り上げたんは実の父親のほうの再婚相手の元旦那がバイクで突っ込んできたからっていうやんか。避けようとして歩道に行ったって。

 実の父親やからそんな悪く言いたかないんやけども、隼人さん何回結婚しとんの? 自分の母親とで一回目、拓三の母親とで二回目、その再婚相手とで三回目? 悪く言うつもりはないんやけども。

 つらつら言ったけど、自分の父親と晴人の命を奪った男の子どもであり、その男は実の父親であるっていう複雑な事情が自分にはある、ってことだけわかってもらえればええんとちゃう。これは本当。嘘やない。


 自分の弟やから、拓三のことはと思っとったら、そうもいかなくなってきた。


 ユニ坊がおかしいから、漆葉の研究施設であるXanaduの防犯カメラをハッキングして様子を観察しとったんよ。ユニ坊には内緒や。研究室の頃は研究室の男からユニ坊の様子を聞いとったけど、地震があって世の中が混乱しとるから人づてには聞けなくなったってのもある。自分もハッキングなんかしとうない。でも、ユニ坊が心配で。

 そしたらなんや。拓三が。肩から気持ち悪いツタだかツルだかを生やして。なんやあれ。自分の弟、人間ちゃうやんか。あんなのバケモンや。死体を機械に突っ込んでぐちゃぐちゃにしたものを食べるし。真性のバケモンやで。警察呼ぼうか、警察でなんとかなるんか、どう説明すればええんかわからん。ユニ坊に電話しても繋がらん。吐き気が込み上げてきて、さらにはめまいがして倒れた。しばらく気を失って、次に気付いたときにはユニ坊がバケモンに犯されていたから、今度こそ警察を呼んだ。自分がXanaduに居たなら、すぐに助けに行けたのに。漆葉が嫌やからってこっちにいるんじゃなかった。ユニ坊の近くで、ユニ坊を守らんとあかん。

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