第69話 One more think


「そんでさーあ、あのおじいちゃん漆葉チーフのこと?、オルタネーターを食用にしようって言ってんの言ってた?。やばやばのやば」


 あっちの計画ってことにしとこうよ。ね。


 私・弐瓶柚二にへいゆにはXanaduの食堂でサバ味噌定食を食べている。オルタネーターがちゃあんと成人のかたちを取れるようになったら、魚はオルタネーターが漁に出て捕ったりいけすで育てたりするようになるんだろうし、米も付け合わせのほうれん草もオルタネーターが田んぼや畑で作るようになるし、味噌も蔵で働くオルタネーターが発酵させてくれるんだろうし、それらをこうやって料理にしてくれる調理師やシェフのオルタネーターも現れる――オルタネーターがゲシュタルト崩壊しそう。

 携帯端末の向こう側で息を呑む音がする。ご飯を食べながら電話するのはお行儀が悪いぞって怒られちゃいそうだけど、今はお昼のピークも終わって調理場では片付けと夜の仕込みが始まっている時間だから、注意する人はいない。通話相手は五代の英伍えーごくん。私ので、西のほうのナントカ大学でクスリをやっている……ちゃうちゃう、薬学のお勉強をしている人ね。ピースメーカー計画にも参加してもらうよーん。


『頭おかしくなったんとちゃう?』


 漆葉チーフのせいにしちゃったけども、ほんとのほんとはそんなこと一言も言ってない。英伍くんの反応が真っ当で嬉しい。。オルタネーターは人間ではないとはいえ、人間っぽい形をさせて、人間の仕事を肩代わりさせている以上、ここの一部を改造して食肉工場とし、働けなくなったオルタネーターをひき肉にして缶詰にしようだなんて正気を疑っちゃう。場合によっては「人肉食だ」なんて後ろ指さされちゃう。オルタネーターは人間ではないっていうのを全国民の共通認識にしておかないと。刷り込みが大事だよーん。


「でしょでしょお。だーかーら、英伍くんからも言ってやってよ」

『自分、あの人苦手やって前から言っとるやんか。タバコくさくて』


 我の計画だぞ。

 全国を巡って一人一人に接触するより、保存食という形で全国に支給したほうが手っ取り早い。アンゴルモア細胞を全国、いや、世界中に広める作戦だぞ。缶詰ならさほど劣化せずに空や海を渡れる。人類という有限の資源は、大切に取り扱っていくぞ!


『彼氏はなんて言ってんのん?』

「かれしぃ?」

『あの、参宮拓三さんぐうたくみくん』

「彼氏じゃないってばー!」


 大声を出したら流石にムッとされた。調理場方面から。さーせん。ペコペコしてから「まだ私と漆葉チーフとでしか話してないよーん」と嘘をつく。漆葉チーフにも話してません。これから話すよーん。

 ていうかさーあ、タクミは違うって言ってんじゃーん。何度も言うように、私は京壱くんのいるTransport Gaming Xanaduの世界に行くために侵略者に協力しているわけで。たとえこの道が、人の道を外れるものだとしても。私の判断で全人類の命運が左右されてんの、責任重大すぎない?

 まあ、私自身一度死んで、死んだ事実がゲームマスターの能力で【抹消】されて戻ってきているし、普通じゃあないって言われちゃったらそれはそうだし、今更なになにってかーんじ?

 こういうのって開き直りが大事だよねん。京壱くんの命と、その他大勢の命のどっちを取るって言ったら前者なわけだよ。わかる?


『彼氏って言ったら、自分もユニ坊のことは狙ってたんやけどな』

「そーなの?」


 意外。っていうかってどうなんだっけ。結婚――うーん、英伍くんには普通の女の子と幸せになってほしい。


『拓三にはユニ坊をどうやってたぶらかしたんかを一から十まで聞かんとな』

「むむ……」


 タクミがあっちからやってこなければアンゴルモアと出会えなかった。それはそう。なんだけどけど。口籠もっていると『男嫌いやったやんか。自分に対してもや言うてんのに、最初の頃なんかほんまによそよそしかったで』と昔の話をされた。

 英伍くんと出会ったのは、大学の外での交流会。たまにあったんだよ、そーいうの。私は出たくないから欠席で出そうとしてたのに、付き合いもあるからって引きずり出された。いろんな人からジロジロ見られるからさーあ。ぜんっぜん楽しくない。テキトーに過ごしてそれなりに挨拶して帰ろ帰ろとしてたら、英伍くんのほうからおじいちゃんの葬式で、と声をかけられた。おじいちゃんの葬式は私が小学校も低学年の頃だったからどんな感じだったかなんてほっとんど覚えてないっちゃないけども、細かいことは気にしないない。男だけど男らしくないっていうか、いい意味で男判定してないっていうか、同性の友だち感覚。気軽に相談できる相手ができたからもうけもん。行った価値はあったってかーんじ。


「そっちが距離感バグってるんだってば。関西のノリっていうのん? ぐいぐい来すぎ」

『参考にさせてもらいますわ。おおきに』


 こっちに来てくれないかな。まじまじのまじ。漆葉チーフが苦手なのはわかる。私も苦手だよ。英伍くんのおっしゃる通りで、私は男嫌いなんです。私がトップだったらすーぐ召集すんのに。


「あのさーあ、英伍くんは宇宙人っていると思う?」

『なんやの急に』


 ちょっと小馬鹿にした調子で答えられた。ウサギさんアンゴルモアの話はまだしたことがない。ウサギさんアンゴルモアと仲良くなってから「京壱くんに出会えるチャンス到来したかも!」みたいな話はしたんだけど〝コズミックパワー〟の話を切り出す前に英伍くんに急用ができちゃって。


「いるかいないかで言うとどっち?」

『いたらおもろいな、ぐらいやな』


 ですってよ。宇宙からの侵略者さん的にはどう思います?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る