第69話 One more think
「そんでさーあ、あの
あっちの計画ってことにしとこうよ。ね。
私・
携帯端末の向こう側で息を呑む音がする。ご飯を食べながら電話するのはお行儀が悪いぞって怒られちゃいそうだけど、今はお昼のピークも終わって調理場では片付けと夜の仕込みが始まっている時間だから、注意する人はいない。通話相手は五代の
『頭おかしくなったんとちゃう?』
漆葉チーフのせいにしちゃったけども、ほんとのほんとはそんなこと一言も言ってない。英伍くんの反応が真っ当で嬉しい。私もそう思う。オルタネーターは人間ではないとはいえ、人間っぽい形をさせて、人間の仕事を肩代わりさせている以上、ここの一部を改造して食肉工場とし、働けなくなったオルタネーターをひき肉にして缶詰にしようだなんて正気を疑っちゃう。場合によっては「人肉食だ」なんて後ろ指さされちゃう。オルタネーターは人間ではないっていうのを全国民の共通認識にしておかないと。刷り込みが大事だよーん。
「でしょでしょお。だーかーら、英伍くんからも言ってやってよ」
『自分、あの人苦手やって前から言っとるやんか。タバコくさくて』
我の計画だぞ。
全国を巡って一人一人に接触するより、保存食という形で全国に支給したほうが手っ取り早い。アンゴルモア細胞を全国、いや、世界中に広める作戦だぞ。缶詰ならさほど劣化せずに空や海を渡れる。人類という有限の資源は、大切に取り扱っていくぞ!
『彼氏はなんて言ってんのん?』
「かれしぃ?」
『あの、
「彼氏じゃないってばー!」
大声を出したら流石にムッとされた。調理場方面から。さーせん。ペコペコしてから「まだ私と漆葉チーフとでしか話してないよーん」と嘘をつく。漆葉チーフにも話してません。これから話すよーん。
ていうかさーあ、タクミは違うって言ってんじゃーん。何度も言うように、私は京壱くんのいるTransport Gaming Xanaduの世界に行くために侵略者に協力しているわけで。たとえこの道が、正しい人の道を外れるものだとしても。私の判断で全人類の命運が左右されてんの、責任重大すぎない?
まあ、私自身一度死んで、死んだ事実がゲームマスターの能力で【抹消】されて戻ってきているし、普通じゃあないって言われちゃったらそれはそうだし、今更なになにってかーんじ?
こういうのって開き直りが大事だよねん。京壱くんの命と、その他大勢の命のどっちを取るって言ったら前者なわけだよ。わかる?
『彼氏って言ったら、自分もユニ坊のことは狙ってたんやけどな』
「そーなの?」
意外。っていうかいとこってどうなんだっけ。結婚――うーん、英伍くんには普通の女の子と幸せになってほしい。
『拓三にはユニ坊をどうやって
「むむ……」
タクミがあっちからやってこなければアンゴルモアと出会えなかった。それはそう。なんだけどけど。口籠もっていると『男嫌いやったやんか。自分に対してもいとこや言うてんのに、最初の頃なんかほんまによそよそしかったで』と昔の話をされた。
英伍くんと出会ったのは、大学の外での交流会。たまにあったんだよ、そーいうの。私は出たくないから欠席で出そうとしてたのに、付き合いもあるからって引きずり出された。いろんな人からジロジロ見られるからさーあ。ぜんっぜん楽しくない。テキトーに過ごしてそれなりに挨拶して帰ろ帰ろとしてたら、英伍くんのほうからおじいちゃんの葬式で、と声をかけられた。おじいちゃんの葬式は私が小学校も低学年の頃だったからどんな感じだったかなんてほっとんど覚えてないっちゃないけども、細かいことは気にしないない。男だけど男らしくないっていうか、いい意味で男判定してないっていうか、同性の友だち感覚。気軽に相談できる相手ができたからもうけもん。行った価値はあったってかーんじ。
「そっちが距離感バグってるんだってば。関西のノリっていうのん? ぐいぐい来すぎ」
『参考にさせてもらいますわ。おおきに』
こっちに来てくれないかな。まじまじのまじ。漆葉チーフが苦手なのはわかる。私も苦手だよ。英伍くんのおっしゃる通りで、私は男嫌いなんです。私がトップだったらすーぐ召集すんのに。
「あのさーあ、英伍くんは宇宙人っていると思う?」
『なんやの急に』
ちょっと小馬鹿にした調子で答えられた。
「いるかいないかで言うとどっち?」
『いたらおもろいな、ぐらいやな』
ですってよ。宇宙からの侵略者さん的にはどう思います?
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