第67話 人造人間はクローン羊の頭数を数えるか〈後編〉
ピアノの屋根を開いて、中から拳銃を取り出したユニ。西部劇でよく見かけるような形状の、リボルバーっていうのかな。ミリタリー方面の趣味もないので正式名称が何であるかを考えあぐねていると、ユニがその銃口を俺の方に向けながら「
棺から離れて後ずさった。そんなところから武器が出てくるとは思わないじゃん。隠し場所として最適かどうかはともかく、意表を突くことはできる。
「ハンマーを起こさないと撃てないから大丈夫だよーん」
ユニは構えていた銃を下ろす。まんまと脅かされた。以前ピースメーカー計画についてユニは――そう、このユニは――〝残り少なくなった人類を救済し、日常を取り戻し、争いのない『人類の平和』な暮らしを創成する〟だのと語っている。ヒトの細胞とアンゴルモア細胞とを結びつけて、試験管の中で
「この銃の別名はピースメーカー。……なんでだかわかる?」
「日常生活にそれほど必要なさそうな雑学だな」
わからないので悔し紛れに言ってやった。ユニは口をへの字に曲げてから「開拓者の銃だからだよーん。フロンティアスピリッツってやーつ」とあっさり答える。
「でもでも、逆の立場で――元々その土地に住んでいた人たちにしてみたら、
侵略者と聞いて、棺に視線を落とす。この中に眠るは、宇宙の果てよりやってきたアンゴルモア。壊されてしまった平和な世界。先住民を、すでに地球で繁栄していた人類に置き換えても物語は成立してしまう。ピースメーカー計画という看板の裏で、ユニは何を企んで……待てよ。なんでユニが人類の存亡に固執しないといけないのさ。ユニは
「
話題が雑学から戻ってきた。人間としての器。ユニは人間なのに。ショートボブの似合う、チワワみたいな瞳を持つ、背が低くて巨乳の、妙齢の女性。思い当たる改善点としては、若返りたいとか背を伸ばしたいとか、……今のままでも十分に若く見えるし、身長は低いほうがちっこくて可愛らしい。
「タクミにとって、安藤もあは人間ではなかったんでしょう?」
自由自在に姿形を変化させて、両肩からは伸び縮みする触手を出したり引っ込めたりできる人間がいるものか。ワープもできるんだったな。どれだけ人間らしく振る舞えていたとしても、安藤もあは人間ではない。人の形を模した遠き異星の生命体。アンゴルモア細胞の〝コズミックパワー〟のおかげで、オルタネーターが誕生したっていうんだし、なおさら人間離れしているじゃあないか。
「なら、さっき漆葉さんの部屋で授業風景を見させてもらったオルタネーターの第二世代の子たちは、人間?」
ユニはトリガーの部分に右手の人差し指を引っ掛けて、
「だから、人間の代わりとして奴隷みたいに働かせようっていう漆葉さんの案には賛同できない。オルタネーターたる彼女たちにも、彼女たちの人生があるはずだろ」
ここまで言って、ユニは呆れ顔になった。拳銃を握り直すと「もあちゃんにももあちゃんとしての人生があったはずなのになあ。私には違いがわからんらん」と呟く。ユニだって安藤もあの〝コズミックパワー〟を知っている。知らないはずないのに、あっちの肩を持つんだな。
「で、タクミはひいちゃんを復活させたいんだったよね? タクミが気に入った器を好きなように作るといいぞ。上手くできたら、その肉体を我は乗っ取る。これで完璧。タクミの願いは叶って、誰一人としてタクミを悪く言う人間などいない。理想の世界が作られる」
「待ってくれ」
おかしい。ユニの口から出てくる言葉が、ユニとしてのものとは思えない。ユニの肉体が、乗っ取られているような。そうだよ。器がどうのこうのって話よりも先に、ユニ自身が乗っ取られちゃいないか。
「お前は誰だ」
「誰って、ご覧の通り、
おどける姿はユニそのもの。ただし、かかとを上げ下げして胸を揺らすのは違うと思う。道中でそっくりの人物と――ずっと一緒にいた。ここに辿り着くまでに、そっくりの存在と入れ替わるようなこともない。安藤もあがユニに化けている可能性は一瞬よぎった。安藤もあの遺体は相変わらず熟睡している。しかしながら、話している内容は随分と安藤もあ寄りだ。
「京壱くんのことはどうした。俺にかまっているより、大好きな京壱くんがいる場所に行きたいんじゃあなかったか?」
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