第50話 不都合な現実 〈後編〉
諸外国は隕石で大騒ぎ。地震なんて、一昔前の『東日本大震災』の時のようになんとかなるだろうという見方が強いようだ。こちらの国への支援よりも、この隕石の出どころを調べ、なんなら宇宙戦争をふっかけようとしている。
隕石が地球の磁場に影響を及ぼして気候が変動するとかしないとか。
ふーん?
さらっと英語の記事を読ませてもらった。国内の混乱が、海外には伝わっていない。一刻も早くカスミガセキには復旧していただかなければなるまい。俺がなんとかできる問題ではないが。
「私から呼び出してきてこう言うのもごめんだけど、『どのツラ下げてきてんの』ってかーんじ?」
「俺はその『恐怖の大王』の話を知りませんでしたからね」
おなかを空かせたのか、弐瓶教授は手近にあった非常食の封を切って中身をパキッと割る。その割れた固形物の長さを見比べて、短いほうを俺の目の前に差し出した。受け取っていいのかな。チラッとその目を見やると、さっさと取りなさいと言わんばかりに眉間にしわを寄せられてしまった。受け取る。
「
刺さる。ぐうの音も出ない。……俺だって死んでほしくなかったよ。自殺するほどなら、その前に――話し合いの場はあったけどさ。そこまで思い詰めているなんて、夢にも思わなかった。椅子が倒れる音がした時に、後妻さんの部屋に飛び込んでいたら。救えたかもしれない。たらればだけど。悔やんでも戻ってくるわけじゃあない。
口の中の水分を全部吸い取ってくれそうな固形物だったので、先に水分を摂ってからいただくことにする。
「……美味しくはないわね」
もらっておいてはっきりとまずいとは言いたくないので、もそもそと噛み砕いてから水で流し込んだ。ラジオから垂れ流しにされ続けている情報によると、一般路も高速もあの混雑が解消されるのには時間がかかる。瓦礫や倒木やらで通れなくなっている道も多い。スーパーやコンビニから食品が消えても、安定して供給されるようになるには時間がかかるだろう。美味しい食品を手に入れたい気持ちはあるが、今急いで向かったところでだ。
今ここに食料があって、分け与えてもらえているだけありがたい。
「私はもっと後になってから、君が気付いてから話せばよくない? ってアドバイスしてたんだけどな。あっちから『タクミに隠し事はしたくない』って言ってきた、その結果がこのざまね。現実は残酷」
もそもそした固形物だけでは物足りなかったのか、弐瓶教授はカップ麺の蓋を開けてお湯を注ぎ始めた。全て座ったままできるような位置で配置しているようだ。俺に言葉の刃をグサグサと突き刺してくる。片手間で。
俺はそっとウサギさんを抱き上げて、ウサギさんを置いていた椅子に腰掛ける。膝の上にうさぎさんを座らせた。疲れたな。もそもそした固形物を半分とは言いがたい量だけ食べて、決して満足したわけではないのだが、これ以上を要求する気分にはなれなかった。ただでさえも、電車で小一時間のこの場所まで徒歩で来ている。休んでもいいだろう。
「電車で自由に移動できるようになったら研究施設を見に行きましょう」
「研究施設?」
聞き返すと、弐瓶教授ではなくウサギさんが『ひいちゃんをよみがえらせるための研究施設だよ!』と補足してくれた。
なるほど? ……まあ、今すぐには無理だよな。物流の正常化が優先だろうからさ。
どこを通っている路線かは電車に詳しくないから知らないけど、線路が断線したってニュースも飛び込んできた。ちょくちょく余震があるらしい。この建物がぜんっぜん揺れねェせいで気付かんかった。どっかの有名な建造物が倒れたり、液状化現象が起こったりと外は大騒ぎだってのに。次から次へと報道しなければならないニュースが飛び込んできて、ラジオのキャスターは息つく暇もない。
「君はここで寝泊まりしていていいから」
「えっ?」
ここに?
え、ここに???
「何か不満でも?」
「いや?」
弐瓶教授は箸を割ると、カップ麺の中身をぐるぐるとかき混ぜ始めた。
追い出された身だ。帰るべきところがないので、寝泊まりしていいなら助かるっちゃあ助かる。っていうかあの家には弐瓶教授の護衛の方々がいるっぽいし。……なんで場所入れ替わってんの? おもろ。冷静に考えたらウケるなこの状況。
よくかき混ぜてから、箸で麺を持ち上げ息を吹きかけている。
美味しそう。
ウサギさんがくすくすと笑いながら『食べちゃえば?』とけしかけてくる。
まあ、護衛の皆様も出払っていることだしね。役に立ってくれているみたいだしさ。祖母のお守りってそんなに人数が必要なのか知らないけど。いてもいなくても俺になんもしてこないから変わんねェけど、行った先で必要とされてんのならいいんじゃん?
『おんなじ部屋で寝泊まりしていいってことは、つまり
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