【番外編】こずみっく☆あふぇくしょん!


 好きにならなければならない。

 こうして産んだのだから、文字通り地に足をつけてこの子を守らないといけないのだぞ。


 わかっているなアンゴルモア。


 我は遥かかなた、宇宙の果てよりこの地球へ降り立った宇宙最強の生命体。

 斯様なか弱き生物などに臆することはないのだ。


 違う。


 今の我はアンゴルモアではなく、……そう、

 人間としてこの世界に認識され、人間としてこの世界で生きていくことを決めた一人の女性だぞ。


 コズミックパワーには頼らない。


 あ、いや、多少は使っていこうと思う。

 多少は。


「ぷ?」


 そしてこの幼子ややこは我のいとし子。

 先ほどギャンギャン泣いて我を叩き起こしてくれた。


 たまに「ぷ?」と擬音を発する。

 人間の成長した個体のように、言葉によるコミュニケーションが可能になるまでにはまだ時間がかかりそう。


 会話はできなくとも、こうしてつぶらな瞳で見つめ返してくれるだけで嬉しい。

 この、何かを訴えかけてきてくれているこの感じ。


 この瞳からこの子が今何をしてほしいのかを、読み取っていかねばなるまい。


「さっきミルクはあげたから……うーん……?」


 何度も何度も起こすのはやめてほし――おかあさまは『赤ちゃんは泣くのが仕事だから』とおっしゃっていた。

 となれば、真夜中まで仕事をしていることを褒めるべきだぞ。


 わかっているなアンゴルモア。


 我は愛する男と生まれてくるこの子を天秤にかけて、この子を選んだ。

 彼の心が「死にたくない」と泣き喚き、悲痛な叫びを上げているのを知りながら、その肉体を操って命を絶たせた非情の〝アンゴルモア〟なのだぞ。


 最期まで謝罪の言葉のひとつもない男だった。

 教えたところで、とあやつには教えなかったが、コズミックパワーは心を読むことだってできるのだぞ。


 ……ま、死んだ人間のことを引きずっていても現状が改善するわけではなし。

 蘇ってきても、きっと、この子を共に育てようと考えてはくれないだろう。


 そうだとも。


 好きにならなければならない。

 雨が降ろうと槍が降ろうともこの子を育てる。


「おむつは濡れてないし……」


 わからぬ。

 てんでわからぬ。


 コズミックパワーの一つ〝寄生〟を使用し、その心を読めばすぐにわかりそうなものだが。

 しかし、コズミックパワーに頼るのは人間ではない。

 我はとして生きていくと決めたのだぞ。


 人間の母親ならば、いとも容易く我が子が何を求めているかを理解するのだろうな。



 ***



 おかーさまは魔法使いだ!

 千は見た!


 おかーさまは肩からニョキニョキとウネウネした腕を出せる!


 ちなみに


「ふんふん!」


 千はねぇ、先生から「明日までにやってきなさい」と言われた宿題を終わらせないといけない。

 右手でペンを動かしながら、三本目の腕ちゃんでマグカップに入れた紅茶を飲む。


 ちょー便利。


 でも、おかーさまにはナイショ。

 聞いたらなんでも答えてくれる物知りハカセなおかーさまだから、教えてくれると思うけど。


 バレたら大変だから、千にも言わないんだ。

 現代に魔法使いがいるって知られたら、みんなびっくりしちゃうもんね!


 千は魔法使いの子どもだから、魔法が使える!


 うん。

 そうゆうこと。


 でも。


 魔法が使えるってお友達に話したら、いろんな人がうちに来ちゃうかもしれないなー。

 お話ししたいなー。


 え、やだ、千、ゆーめー人になっちゃう?


「ゆーめーに、なっちゃっていいのかな」


 おかーさまも魔法が使えるって、きっとバレちゃうから、やめておこ!

 いつか美人親子としてげーのー界デビューするんだもんね。


 ふんふん!


 ユニおば――おねえさんにはナイショ。

 ユニおねえさんにこの前学校で測った身長と体重をこっそりと教えたのに、おかーさまにもバレてたから。


 なんでしゃべっちゃうのー!?


 おばーさまは、最近ちょっとボケ始めちゃってるから、教えても忘れちゃうと思う。


せんは宇宙一可愛いね」


 安藤千あんどうせんっていうのが、あたしの名前だ。

 由来は映画からだって、おかーさまは教えてくれた。


 一緒にその映画も観たよ!

 こわかったけど、かんどーした!


「ゆーめーになっちゃう?」


 鏡を見てお話しするの。

 今日もとってもいい感じ!


 おかーさまとおばーさまと、ユニおねえさん。

 三人が「千が宇宙一かわいい!」って言ってくれるから、あたしは宇宙一可愛いのだ。


 ふんふん!


「ゆーめーになったら、おとーさまに会えるかな」


 人間は他の動物と同じで、母親から生まれてくるけれど、一人では産めない。

 んだって、授業でやったからばっちり。


 千にもおとーさまがいる。

 でも、おうちにはいない。


 おかーさまに聞いたら「千が生まれる前に死んだよ」って教えてくれた。

 包丁で首を刺して死んじゃったらしい。


 そんなー。


 どーしてって聞いたら「千のことを殺そうとしたから」って答えてくれた。

 千、生まれる前なのに?


 千はおかーさまとおんなじで、ドラマや映画を見るのが好きだから、包丁で首を刺したら死んじゃうのはわかる。

 でもでも、映像の中で死んじゃった人が他の番組に出ているみたいに、おとーさまもどっかで生きてると思うんだ!


 会いたいなー。

 どっかにいるんだよなー。


 おとーさまも、千のこと、かわいいって言ってくれるもん!

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