第24話 中立都市 〈2〉

『召し上がってください』


 向かいにいるのに《テレパシー》で脳に直接メッセージを送ってきた。

 召し上がってくださいって。


 食っていいのか?


『私一人では食べきれません。お姉からもてなすようにと仰せつかりました』


 なんだ?

 あたしって、そんなにカグヤに気に入られてたんか?


 気に入られるようなことしたかな?

 身に覚えはねェけど、ご厚意には甘えたい。


『お代はお姉が全部支払ってくれますので、お気になさらず』


 お前もちゃっかりしてんな!


 あたしはテーブルの上に並べられた色とりどりの料理を眺める。

 元の世界では馴染みがないような、何が使われてんだかわからん料理ばかりだ。

 匂いはうまそうだけど……。


『中立都市だけに、永世中立国の料理をモデルにしているらしいですよ』


 ふーん?

 スイスとかオーストリアとかトルクメニスタンとか?


『お詳しいですね』


 大天才だからな。


 あたしは「いただきます」と手を合わせて、まずはスープをスプーンで掬って啜ってみる。

 うん、美味しい美味しい!


『お食事が終わりましたら、メインクエストの目的地である歴史博物館へ行きましょう』


 あたしがメインクエストやってるって知ってんのな。

 それもカグヤから聞いたんか?


『私は歴史博物館の案内人ですので』


 姉妹で似たような仕事してんのか。

 入れ替えてもわかんねェだろな。


 魔法使いってのも一緒か。


「パンうまっ!」

『お気に召しましたらお持ち帰り用に包んでいただきましょう』


 自分の金じゃねェからやりたい放題してんなお前。


 んまあ、でも、今後を考えると助かるわ。

 パンなら移動中でも食えるしな。

 チキンの背中の上でも食えるだろ。


 歩きながら食ってると参宮には怒られたけど、今は怒るやつもいねェし。


「《ナップザック》に入るだけくれ」


 あたしが入れ物を差し出すと、カグラは右手を挙げてウェイターを呼んだ。

 さっきのダルメシアンのウェイターが駆けつける。


 カグラはウェイターとも《テレパシー》で会話しているようだ。

 あたしには一切やりとりが伝わってこない。


 ウェイターに驚いている様子がないのでこの《テレパシー》ってのも一般的なんだな。


『ピタゴラでは《魔動機構》をご覧になられましたでしょう?』


 ああ。

 薄気味悪い人形だった。


『この世界では何事にも魔法を用いるのが一般的なのです。調理にも火属性魔法は必要不可欠であります』


 へぇ。

 この魚料理も、魚の内臓とか骨とかを取り除く魔法があんのかな?


『そうです。原始の魔法から近代の魔法への発展の歴史も面白いですよ』


 ふんふん。

 案内人っぽいセリフだなァ。


 目的地が歴史博物館ってことは、この世界の歴史でもお勉強させられるんか?


『お聞きになられますか?』


 聞いたらバッジもらえんの?

 そんなら聞くけど。


 食べながらメインクエストも終わらせられんなら一石二鳥ってやつだ。


『本来ならば展示を見ながらのお話になります』


 歴史博物館の展示、気になるっちゃ気になる。

 見たいっちゃ見たい。


 大天才としての知的欲求!


 が、あたしはメインクエストを最後までやり遂げなきゃなんない。

 この世界にあんまり肩入れすんのもな。


『中立都市のバッジは《タートルバッジ》といいます。かの有名な〝ゼノンのパラドックス〟のアキレスと亀にあやかったものでございます』


 相対性理論ガン無視するわりにそういうとこからネタを引っ張ってくんのか。

 おもしろ。

 そういうのもこの世界の歴史を紐解けばわかんのかな。


 どうせまたなんかデカブツが出てくんでしょ?

 四度目だからなんとなくわかってきたよ。


『お察しの通り、全ての展示をご覧になられてからのボスバトルの報酬であります』


 ほらァ。

 そういうことだろうと思った。


『あなたはあのコロッサスから《ゴールドバッジ》だけを抜き取ったそうですね』


 まともにやり合って勝てそうにねェからな。

 そもそもあたしはバッジを集めればいいんだしさ。


 デカブツをぶっ倒されなくてよかったんじゃん?

 守護神だって言ってたから。

 直すのも大変だろ。


 あ、もしかして直すのも魔法で一発か?


『魔法といいますか、この世界はゲームですから……というと、メタ発言になってしまいますね。やめておきましょう』


 あたしにはそのゲームってのがよくわかんねェから、魔法ってことにしてくれたほうがまだわかるな。

 そういうことにしといてくれ。


『ひとつ条件をつけさせていただきましょう。その条件さえ飲めれば、このカグラが便利な魔法で《タートルバッジ》を抜き取り、あなたに差し上げます』


 話がわかるやつだなァ!

 姉妹揃っての善人か?


 して、その条件って?


『この世界の歴史は、これからお話しさせていただきます。あなたは残りの料理をお召し上がりになられていればいい』


 こんなに食べたのにまだ半分も減ってないな。

 腹減ってたからまだ食えるけど。


『その後で、あなたの歴史を教えていただきたいのです。それが《タートルバッジ》を渡す条件となります』


 あたしの歴史?

 大天才のあたしの歴史、ねェ。


 そんなに興味深いか!

 そうかそうか!


『では、先にこの世界の歴史をダイジェストで語らせていただきます』


 おう。

 頼むわ。


『この世界は、元はスニーカ族とリフェス族が仲良く暮らしていました。ある日、遠い星からドラゴンキングがやってきて、この世界を荒らし始めます。ドラゴンキングは遠い星からモンスターたちを《テレポート》させて、次から次へと都市を陥落させました』


 ん……?

 んん?


 似たような話を知ってんぞ。

 あたしの場合、ドラゴンキングって名前じゃなくてアンゴルモアっていうんだけどさ?


『スニーカ族とリフェス族はモンスターたちと戦いました。種族の対立もあって、スニーカ族とリフェス族はそれぞれの領地をそれぞれで設定します。お互いがお互いの領地を、モンスターたちから守ることとなりました。そして現在に至ります』


 お、おう。

 だいぶ端折ったっぽいな。


『メインクエストの最終目的は侵略者のドラゴンキングを倒すことです。各都市でバッジを集め、精鋭都市テレスの最高位魔術師にバッジを渡すと《最終ダンジョンへの鍵》が手に入ります』


 精鋭都市テレスね。

 その最高位魔術師さんをぶん殴ったら《最終ダンジョンへの鍵》がもらえるってのは?


『おやめください。バッジに秘められた力で《最終ダンジョンへの鍵》が保管されている箱が開くのです』


 冗談だってのにすごい勢いで反論するな……。

 ショウザンの時みたいにはいかないってことね。


『ドラゴンキングは用心深いラスボスで、その鍵を使用して最終ダンジョンに入らなければその姿を見ることすらできません。私たちはドラゴンキングと呼んでいますが、ドラゴンの姿をしているかはわかりません』


 そんであたしはあっちこっち行かされてんのか。


 理解した。

 理解したと同時に、――あたしの元いた世界と近い話もあって驚いたな。


 あたしはその、ドラゴンキングに該当する奴を【抹消】してもらうためにメインクエストをやってるんだけどさ。


『私はあなたに魔法をかけさせていただきます。あなたは自分の記憶の世界に誘われますが、あくまで記憶の世界ですので、過去そのものではありません。だから、その歴史を改ざんするわけではございません。その様子を、術者である私は見学させていただきます』


 魔法って便利だな……。


 あたしが色々喋んのかと思ったけど、喋らんでいいのか。

 わかったわかった。


『記憶の世界に存在している間、あなたは周囲からはスリープ状態で表示されています。ここでは他のお客さまの迷惑になりますので、あなたの現在地は歴史博物館の医務室のベッドとなります。目を覚ましてから驚かれぬよう、今のうちにお話ししておきますね』


 おう。

 覚えとく。

 記憶力はいいからな。


 はっきりばっちり元の世界を案内してやるよ。


『お頼み申します。それでは、グッドラック』







【期待形成仮説】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る