第21話 黄金都市 〈4〉
「もう少し涼しい場所に移動しましょうか」
カグヤの提案に、あたしは首を縦に動かして同意した。
心がざわざわする。
金色の絨毯の上を歩いているだけなのに『そちらに向かってはいけない』と警告されているような感覚。
ここは元の世界とは異なる歴史を歩んできた土地だ。
異世界だから。
元の世界と似たような出来事があっても、あくまで似たような出来事であって、そのものではない。
そう思いたい。
「キュゥーン」
ジロウが励ましてくれている。
あたしは深呼吸してから「びびってねェよ」と答えた。
紫色のこのリスは、ただの召喚獣のくせに大天才のあたしに寄り添ってくれる。
「こちらは廃棄された《魔動機構》を再利用するためのスペースです」
カグヤが引き戸を開けると、その先の部屋には人形たちが積み上がっていた。
注意深く見れば、腕が捻じ曲がっていたり足が垂直になってしまっていたり。
「単純作業を繰り返していけば部品は摩耗して壊れてしまいます。壊れたものからエネルギーを回収し、稼働しているものに分配することで半永久的に《魔動機構》は動き続けるのです」
人形の体から〝何か〟が抜け出ていく様子が見えるんだよな……。
倒れて、積み重なり、天井から吊り下げられたミラーボールのような球体が人形から〝何か〟を吸い取っている。
「……コイツらはどうなんの?」
動いているもんはいつか壊れる。
壊れるんなら壊れたやつを動力源にすりゃあいい。
理屈はわかった。
ただ、壊れたものをこちらに持ってきてを続けていたらこちらのスペースはいずれ埋まるだろう。
カグヤが話している間にも、この工場のスタッフなのかわかんねェけどネコが《魔動機構》を手押し車に乗せて運んできた。
そいつが《魔動機構》の両腕を掴んで、上のほうを目掛けてポイッと投げる。
三角錐の形に積み上がってんから山が崩れることはねぇけど、ネコが人形を放り捨ててんのを見るとなんか、――嫌な気持ちにはなった。
「それは、次のお部屋でわかりますよ」
カグヤが引き戸を閉めた。
さらに奥の部屋に連れて行かれるらしい。
あたしは思い出したくもないような吐き気を、ジロウの「キュ、キュ」という声援で堪えながらついていく。
「《サクラバッジ》《パールバッジ》……この二つをお持ちということは〝メインクエスト〟を攻略なさっているのですよね?」
今更で不意の確認に、あたしは「そうだよ」とぶっきらぼうに答えた。
硬貨の製造過程に興味がなかったわけではないが、ここに来た主目的はこの場所がメインクエストの対象に入っているからだ。
まさかネコに人間(のようなもの)が使役されている様子を見せられるとは思いもしなかったが。
「でしたら、ちょうどよかった」
カグヤは胸ポケットから《杖》を取り出すと、突き当たりの部屋の扉にかけられていた南京錠にその先端を差し込む。
カチャリという音がして、解錠された。
それって鍵にもなんのな。
これも魔法ってやつか。
便利だなァ。
あたしもこの世界に来たんだから魔法の一つや二つでも覚えたほうがいいんかな?
まあ、さっさと元の世界に戻るつもりだからいいか。
「こちらをご覧ください!」
勢いよく扉が開け放たれる。
中に鎮座していたのは、鎧を着込んだデカブツ。
大きさでいうとあたしが神樹都市セネカで最後に召喚した《ボルケーノサラマンダー》に匹敵するぐらい。
おんなじかもしれん。
他に比較できるもんがねェから実際はわからんけど。
あんときは周りに神樹ネロとか石造りの家とかがあったからな。
今、なんもねぇし。
あたしは巾着からスマホを取り出し、カメラで写してみる。
目で見ただけじゃ名前だの強さだのわかんねェからな。
右手にでっかいナタみてぇなもんと、左手に黒光りする盾を持っている。
「ふーん?」
便利なスマホによれば、コイツはコロッサスというらしい。
さっきカグヤが『ちょうどよかった』と言っていたのは、メインクエストでコイツを倒さんといけないからっぽい。
上から下までカメラで確認すると、頭の部分に《ゴールドバッジ》の反応があった。
「黄金都市ピタゴラの『造幣局』からゴールドを盗み出すような輩が現れないのは、こちらの守護神のお陰であります」
「ゴールドを作らせて、壊れたら動力源にして、残りカスはコイツに食わせてんのか」
「その通りでございます」
生まれながらに支配されていてこの場所から逃れられない。
一生こき使われて、失敗したら食われて終わり。
あの《魔動機構》ってやつらは、あたしたちみたいだ。
そう、『
親近感湧くなァ!
【半永久的繁栄】
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