第20話 黄金都市 〈3〉
「立ち話ばかりではつまらないでしょうから、本題に入りましょうか」
「つまんなくはないな。あたしは《呪い》ってやつを知らんかったから、助かったよ。ありがとう」
あたしが再度お礼を述べると、カグヤは「私を褒めても、来場記念品の《カナモリ様のご尊顔ステッカー》しか渡せませんよ」と微笑んだ。
カナモリってこの黄金都市の領主だよな?
「ご尊顔ステッカー?」
カグヤは胸ポケットに《杖》をしまって、ポケットから《カナモリ様のご尊顔ステッカー》を取り出して渡してきた。
ふくよかで柔和な顔をした黄金色のネコだ。
「金運が上がるそうです」
「こんなもので?」
こんなもの、というのが失言だったかと、後から慌てて「ご利益ありそうだな」と付け加えておく。
ショウザンは領主が出しゃばってこなかったが、セネカのように領主を信奉させられているような都市だったら何をされるかわからない。
幸いにもカグヤは「信じるも信じないもあなた次第、でございます」と軽く流してくれた。
「金運は上げてえなァ」
お金は大事だ。
今タロウが駆け回っているところだろう。
受け取ったステッカーを巾着にしまっておく。
カグヤはあたしが《カナモリ様のご尊顔ステッカー》をしまうのを見届けてから、正面の扉をその体で押しながら開けた。
「こちらが作業場でございます」
「……」
言葉を失う。
ずらりと縦に並んで、懸命にその両手で金を成形していた。
作られたものはベルトコンベアで奥へと流されていく。
それはいい。
作業場だから。
問題は作業している側だ。
「……どうされました?」
カグヤが心配そうに声をかけてきても、あたしは何を返すべきか言葉に詰まった。
人形だ。
瞬きひとつしない。
人間なら、瞬きしてくれるだろう。
だから、これは人形なのだ。
人形であってほしい。
右も左も、全く瓜二つの顔をして、その体型も同じ。
これじゃあ、まるで――。
「暖房がきつすぎるのでしたら温度の調整をしてきますよ?」
カグヤが心配してくれているので「あ、ああ、大丈夫」と生返事した。
この、犬とネコとよくわからんモンスターしかいないはずのこの世界で、人の姿をしている。
首に巻きついていたジロウが「キュ?」と首から離れて、あたしの肩からあたしの顔を覗き込んだ。
どんな顔をしていたんだろう。
(これじゃあ、あたしのいた研究施設と一緒じゃんか)
ベルトコンベアで運ばれているのが、金なのか肉なのかの違い。
作業させられているか、本人が運ばれているかの違い。
フラッシュバックする。
あの『ピースメーカー』計画の、コマーシャルが。
違う。
同じではない。
脳内から映像を追い出そうともがく。
「やめろ」
あたしは無意識のうちにホルスターに収まっていたSAAに手を伸ばし、両手で構えていた。
カグヤから「作業場での魔法の使用はおやめください」とたしなめられる。
「コイツらは何なんだ?」
銃口と目線は正面に向けたまま、あたしはカグヤに訊ねた。
なんでも答えてくれるんだってな。
それならなんでここに人間っぽいものがあるのかも教えてくれよ。
「《魔動機構》です」
「まどう?」
「魔法で動くから魔動です。昔は作業員として必ず一人はウィザードを配置していたのですが、改良に改良を重ねて完全に制御できております。一分間に十個のゴールドを生産しております」
コイツらもそうか。
セネカでは同族を《パールバッジ》の《呪い》でコントロールしていたが、おんなじことをしていやがる。
「なんでコイツらは人間の姿をしてんだよ」
「にんげん?」
なんでも答えるはずのカグヤがキョトンとしている。
初めて聞いた言葉のように復唱して「とは?」と聞き返してきた。
そうくるか。
なら聞き方を変えてやろう。
「お前らリフェス族とは違うだろ。見た目がさ」
あたしがヒントを与えると、カグヤは「モデルとなったモンスターがいるのでしょうね。二本足で立って歩くモンスターもいますから」と頷いた。
モンスターとくるか。
人間をモンスター扱いと。
立ち上がってなうなう騒ぐウサギみてェなやつと一緒かよ。
「どっちかっていうとお前らよりあたしに似てねェか?」
「そうでしょうか?」
会話が噛み合わねェ。
この世界の奴ら、たまにボケ散らすよな。
何なんだろな?
「こちらの《魔動機構》は先代の工場長が試作品を造り、カナモリ様に認可されてこのように大量生産されるに至りました」
「んじゃ、その工場長に聞きたいことがあっから会わせてくれねェか?」
なんでこの姿にしたのか。
聞かずにはいられない。
この世界に『モデルとなったモンスター』……人間がいるってなら、あたしは会いたいしさ。
「工場長は改良機の製造中に亡くなりました。今動いているのは、最新の第四世代でございます」
……。
偶然の一致ってやつだ。
ちっと動揺しちまったけど。
【最新工場事情】
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