第18話 黄金都市 〈1〉


 雪だ!

 元の世界では、列島の北の土地でしか降らない。

 地球温暖化とやらが進みすぎた結果だ。


 だから、一面の銀世界ってやつは写真でしか見たことがない。


「雪だァ!」


 吐く息が白く漂う。

 あたしが歓声を上げると「フォ?」とチキンが小馬鹿にしてきた。


「あたしの元いた世界では、こんなのは珍しい光景なんだよ」

「フォーン?」

「ひゃっほぉ!」


 あたしはチキンの背中からジャンプして、雪にダイブする。

 足の裏から聞こえてくる「シャリッ」という擬音が楽しい。


「ふふっ」


 シャリッシャリッ。

 無駄に足を踏み鳴らしてみてから、屈んで一部分を掬ってみる。


 かき氷みたいだ。


 夏場に参宮が『倉庫にしまってあったのを見つけてきましたよ』と氷を削る機械を持ってきたのを思い出す。

 手回しだから満足いく量になるまで手間がかかったっけ。


「……腹減ったなァ」


 かき氷を思い出したらお腹が空いてしまった。

 そういや、ショウザンで温泉まんじゅうを一個食べてから何も食べていない。


 雪は空気中の塵やゴミが混じっているから食べないほうがいい。

 と、知識ではわかっているが、試しに一口分だけ口に運んでみる。


 冷たいだけで無味。


「はぁ……」


 美味しいかまずいかでいうと美味しくはない。

 かき氷もシロップの味しかしなかったもんな。


 ――あたしは銀世界の先にそびえ立つ黄金の城を見据える。


 スマホの『冒険の手引き』によればあの城に黄金都市ピタゴラの領主、カナモリがいるらしい。

 赤いピンが指し示す〝メインクエスト〟の目的地は城ではなく、城の手前にある工場のようだ。


(この工場で、この世界で流通している通貨が製造されているんだな)


 あたしはスマホを片手に雪道を進んでいく。

 振り向けば、足跡がくっきりと残っている。


 さっきまでは楽しかったからわからなかったけどさ。


 結構寒くね?

 都市部に近づくにつれて寒くなってる?


 血の付着した《ポンチョ》は着たくない。

 白衣の汚れは取れていない。


 かといってこのままでは凍え死にそうだ。


「よし、こういうときは」


 スマホを巾着にしまって、かじかんだ手に息を吹きかけて擦り合わせる。

 指の感覚を取り戻して、SAAをホルスターから取り出した。


 お前らが頼りだ。


「行けっ! タロウ! ジロウ!」


 地面に向かって撃ち込む。


「キュイ!」

「キュキュ!」


 二匹の紫のリスが飛び出してきた。

 あたしの目の前でくるっと空中で回転してみせる。

 元気そうで何より。


「タロウにジロウさァ。なんか上から着るものを持ってくるか、それを買えるだけのお金を探してきてくれよ」

「キュ!」


 タロウ(たぶん、こっちがタロウ)が「りょうかい!」と敬礼してみせた。

 その隣のジロウは「キュー!」と助走をつけてこちらに飛びかかってくる!


「なっ!」


 召喚獣の反抗期か?

 身構えるあたしの肩に飛び乗ってから、ジロウはあたしの首に巻きついた。


 モコモコだ。

 あったかーい。


「お。いいじゃん」


 首周りが暖められるだけでも違う。

 一時しのぎとしてはちょうどいい。


 タロウがうらやましそうに「キュ……」と足元で小首を傾げている。


「なんだ。まだいたのか」

「キュ! キュ!」

「あたしの首、お前ら二匹分ほど太くねェから」


 頭から尻尾の先までの一匹分でちょうどいい。

 タロウは納得してくれたようで、あたしのほうをチラチラと何度か振り返りつつ出発する。


 熱心なやつでよかった。




【雪原白銀黄金】


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