第16話 神樹都市 〈4〉
ドドドドドドドドドドドド。
地鳴りと共に5匹のネコが、我先にと階段を降りてくる。
人みたいに二本足で歩ってるからこの場合は匹じゃねぇな、頭のほうが正しいんか?
体か?
わからん。
匹でいいや。
「ココちゃん!」
「パパぁ!?」
先陣を切ったのはココちゃんのパパらしい。
言われてみれば確かに毛色がそっくりだ。
瞳の色はココちゃんのパパはくすんだ緑色をしているが、ココちゃんはまだ子ネコだから青いだけであってそのうちこの緑に変わっていくんだろう。
「ダメだろうこんなところで遊んでちゃ!」
ココちゃんのパパはココちゃんではなくあたしを怒鳴りつけた。
他の4匹のネコは「はなして!」とジタバタ暴れるココちゃんを担ぎ上げて、階段を上がっていく。
ココちゃんはあたしよりも小さい。
あたしは人間でココちゃんはネコ。
あたしとココちゃんを見間違える要素はどこにもないってのに、この『ココちゃんのパパ』はあたしを『ココちゃん』と勘違いしておられる。
そんで他のネコたちも含めて、本物のココちゃんを異教徒であるあたしと取り違えてらっしゃる。
あたしがココちゃんじゃねぇのは見りゃあわかるってのになァ。
その緑色の目は飾りか?
「どこに連れて行った?」
「……そうか、ココちゃんはまだ儀式を見たことはなかったな」
不穏な単語が出てきた。
何がどうしてどうなっているのかはわからないが、先ほどとの違いといえば。
あたしはズボンのポケットに突っ込んだ《パールバッジ》を取り出す。
(教徒と異教徒を区別するだけでなく、住民がどこの誰かってぇとこまでの情報が刻まれているんか、これ?)
この真珠の中にマイクロチップが埋め込められているだとか?
凝視したり、振ってみたりする。
ココちゃんから奪い取ったらこいつらが来たのは、タイミングに偶然ではなくなんらかの仕掛けがあんのかも。
監視カメラの類は見当たらんが。
「見に行こうか」
ひょいとあたしを抱きかかえる『ココちゃんのパパ』。
運んでもらえるなら運んでもらおっか。
んまあ、あれだ。
想定よりもはやくこの場所から出られたのはよかった。
一晩ぐらい無駄になるんじゃねェかって覚悟してたからな。
バッジも手に入って願ったり叶ったり。
儀式ってェのには興味ない。
本物のココちゃんがどうなっちまうかなんてあたしの知ったことじゃあない。
次だ。
次。
このスマホの『冒険の手引き』によればバッジはあと五種類もあるってんだから。
(……どんぐらい時間が経ったかわかんねェな)
地上に出て(持ってこられて)、空を見上げる。
霧が濃すぎて何もわかんねェ。
一晩は経っていない、と思う。
たぶん。
「おろせ」
「? ああ」
地面に足をつけて、SAAを天に向けて撃つ。
あたしをココちゃんだと信じて疑わない『ココちゃんのパパ』がその発砲音に「!?」と腰を抜かしてしまった。
さらに召喚された《フェザーホーク》ことあたしのチキンを見て、襲われると思ったのかその頭を両手で守る。
チキンはネコを襲えねぇよ。
なぁ、チキン!
外見だけは立派な鷹なのになァ。
「フォーォ!」
「ヒィ!」
チキンの雄叫び(本人――本鳥? に威嚇の意図は全くねぇだろな)にびっくりして『ココちゃんのパパ』は逃げ出してしまった。
やるときゃやるじゃん!
デケェし、両翼広げたらそら逃げ出すか。
あたしもチキンの性格がチキンだってわかってるからこうやってそばにいられるけどよ。
初めて見たネコの反応はこれで正しいな?
「た、たいへんだぁー! モンスターが出たぞー!」
あっ。
あの『ココちゃんのパパ』が増援を呼んでんな。
モンスターってチキンのことか?
この辺モンスターってあんま出てこねェのかな。
あの慌てようを見ていると。
あたしはチキンのクチバシと鉤爪を見て「モンスターって雰囲気はあんな」と評価した。
「フォ……」
「ここに来るときにあたしを振り落とした件に関しては、ま、不問にしてやっから。逃げるぞ」
「フォッ!」
乗りやすいように屈むチキン。
チキンの真ん前に「待ちなサイ」と司祭服のネコが瞬間移動してきたけど、こういうときに「待て」って言われて言葉通りに待ってやってもろくなことがねェんだよ。
困ったようにあたしの顔を見てくるチキンの頭に「無視しろ」とささやく。
「悪逆非道の異教徒に、神罰をクダス」
ほら!
ろくなことがねェ!
……ん?
待てよ。
異教徒?
「テメェはあたしを『ココちゃん』って呼ばねェんだな」
【視覚的錯覚】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます