第15話 神樹都市 〈3〉


 目を覚ましたら、案の定独房の中だった。

 嘘でもいいから「神、すげー信じてます! リスペクトっす!」と言ってみたらこうはならんかったかも。


(……地下牢にぶち込んだわりには何も盗られてねェな)


 ガンベルトもホルスターもSAAも無事。

 巾着の中のスマホもあった。


 召喚獣呼び出したらこんな鉄柵ぶち破れるだろ。

 脱走してくださいって言われてるようなもんだ。


 逆に考えると脱走しなければ許されるかもしれん。

 大人しくしておこう。


 なんか聞かれたら「やっぱ神を信じます!」って手のひらを返そっか。


(下手に街を歩き回るより安全まであるな)


 ショウザンの街中はモンスターが出て来なかったがセネカも同じとは限らんし。

 こうやって落ち着ける場所を用意してもらえたと考えるか。


 地下を掘り進む怪物はいたけど、モンスターがどうかは知らん。

 でもこれだけガッチガチに壁を固められているし、こっちには頼りになる召喚獣も――頼りに……?


 もっと戦闘力のある召喚獣はいないもんか。


 あたしはスマホを取り出す。

 この世界の知識はこのスマホの『冒険の手引き』やカメラ越しに情報を入手するほかない。


(そういや、このスマホってやつには時計がない)


 元の世界で人口のほとんどが所持していた携帯端末には、左上に時計が表示されていた。

 スマホにはそれがない。


 キョロキョロと見回してみても時計は見つからなかった。

 脱出できたら意識して探してみようと思う。


 体感的には半日は経ったような気がする。

 外の様子でも見えたらと思うが地下なので何もわからん。


 時計の他には電池残量も表示されていない。

 ショウザンで巾着などを購入したショップにはモバイルバッテリーの類が置かれていなかった。


 このスマホのバッテリーがなくなってしまったら情報源を失ってしまう。

 ずっと使えるなら使えるに越したことはないが……。


(この世界、電気ってあんの?)


 見上げれば電球はない。

 電球の代わりに光が球体になってゆらめいていた。


 背伸びして触れようとしたが、ちょっと届かない。

 ジャンプ力が足りていなくて指先すらかすっていない。


 成長促進剤を拒否し続けた結果がコレだよ。

 参宮ぐらいの背丈なら届いただろな。


 ……死んだやつの話をしても始まらん。


「んばぁ!」


 階段をトテトテと駆け降りてきた小さいネコに脅かされて「うわぁ!」と尻餅をつくあたし。

 考え事をしている人に急に話しかけんなびっくりするだろうが!


「えへへ」


 えへへじゃねぇよ。

 何しにきたんだよココちゃん。


 見ると、右手には銀色の鍵を持っている。


「たすけにきたよっ!」


 大人しくしていようとしていたのに助けに来られたぞ。


「いいのか?」

「いいよ!」


 本当に?


 大人のネコに見つかってまた戻されるだけじゃないか?

 ココちゃんの独断専行で解放されても何も嬉しくないが?


 自信満々に鍵を見せてくるココちゃんの顔からは何も読み取れない。

 ネコの表情から何を読み取れってんだよ。

 誇らしげってことしかわかんねぇよ。


「待ってくれ」


 早速この鍵で出入り口を開けようとするココちゃんを制止する。


 スマホを取り出して、カメラを起動した。

 プレイヤーのステータスが表示されるこのカメラを通して見たら、犬やネコが腹ん中で何を考えてんのかわかるかもしれない。


 そんな機能もあってくれ。


(《パールバッジ》だと……?)


 縋ってみたら思いもよらない情報が飛び込んできた。

 ココちゃんの左胸についている真珠は、あたしが〝メインクエスト〟で集めなきゃいけない《バッジ》の一種っぽい。


 ルキウスと名乗った司祭服のネコが親玉だろうから、この親玉を討てば《バッジ》を手に入れられると勘違いしていたが、どうやらその必要はなさそうだ。


「その真珠、あたしにくれない?」


 ガチャリ、と鍵が解錠されて、ココちゃんは嬉しそうに「開いたよ!」と報告してくれた。

 それは見たらわかる。


 ココちゃんに理解してもらえるかはわからんけど、交渉はしてみっか。


「あたしはココちゃんの持っているそのバッジがどうしても欲しいんだけど、くれない?」


 独房の中に入ってきたココちゃんは、あたしが指差した先、自身の左胸のバッジを見て「これ?」と聞き返してきた。

 そうだよそれだよ!

 それさえ手に入ればこの街に用はない。


 さっさと次の目的地――黄金都市ピタゴラへ行く。


「ルキウス様が『ココちゃんに』ってくれたから……」


 渋ってきた。

 親玉からもらったアイテムなんだな、それ。

 なるほどなるほど……。


「他の奴らもルキウスからそれをもらったんか?」

「そうだよ! 教徒の証なの!」


 はー、なるほど。

 あたしが万が一、億が一、あんときに「神をシンジマース」って答えてたらもらえてたんじゃね?


 全く信じてねェが?


「知るか」

「わっ!」


 ココちゃんの左胸から《パールバッジ》を上着の一部ごとむしり取る。

 これで二個目のバッジを獲得したぞ!


「何すんの!」


 シャーと威嚇してくるココちゃんにSAAの銃口を向けた。


 手段はどうだっていい。

 バッジさえ集まれば、あたしは『人類の平和』に近づくのだ。

 悪く思うなよ。


 ココちゃんの《パールバッジ》を強奪するのが、一番手っ取り早かったってだけの話。



【無秩序無法】

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