第10話 和風都市 〈5〉

 蛇の頭に狙いを定めて、トリガーを引く。

 ボフォン、と銃口から期待できそうな白煙を吐きつつあたしの前に現れたのは――


「キッシャー!」


 鋭利な爪を自慢げにひけらかし、ニヤリと笑う小動物。

 白くて、細長い身体で、体格では圧倒的にこちらの負け負けの大敗北。


 なんだ?

 この生き物。


 え、こいつで勝てんの?


 タロウジロウをくっつけたぐらいの大きさなんだけど?

 見かけによらないってやつ?


「なんだこの生き物」

「シャ、シャッ」

「お前の敵はあたしじゃなくて向こうのデカブツな」


 あたしに向かってまるで演舞かのようなダンスをして見せてくる。

 なんて生き物なのかをカメラで確認してみよう。


 こいつは《スノーマングース》っていうらしい。


「……ハブと戦うっていう?」


 相手ハブじゃないんだわ。

 ヤマタノオロチなんだわ。

 蛇だからいいんか?


『氷属性の斬撃を得意とし、主人に忠実で義理堅い性格』とある。


「シャ!」


 そこで見てろよ、ってことらしい。

 体格差がありすぎる敵に突進していく《スノーマングース》。


 その爪を光らせて、大地を蹴って跳ね上がった。

 体躯からは計算できないような、バネのような跳躍力!

 ヤマタノオロチのアゴに向かってアッパーカット!


「ウギュ!?」


 死角からの攻撃がクリティカルヒットして、よろめくヤマタノオロチ。

 やるじゃん!


 と思ったのも束の間。


 爪がアゴに突き刺さって取れなくなってしまったようで、ヤマタノオロチが頭を左右に振るのに合わせてぶん回される《スノーマングース》。

 あたしに「シャー!!!」と助けを求めてきた。

 どうしろってんだ。


「ギュルルルルル」


 恨めしげにあたしを睨んでくるヤマタノオロチ。

 視界に入り込むアゴに引っかかったまま「シュゥ」と気絶してしまった《スノーマングース》。


 どうしろと?


「他のやつを召喚してみっか……!」


 あたしはもう一度SAAを構えて、トリガーを引く。

 勝てそうなやつ、頼む。


「キュイ!」

「キュキューイ!」


 出てきたのはタロウとジロウ。

 召喚獣としての名前は《リスキースクワール》だっけか。


「お前らかよ」


 非戦闘員じゃねぇか。

 あからさまに肩を落としてみせると、タロウ(多分こっちがタロウ)は「キュイン!」と力こぶを作ってみせてくる。


「相手アレだよ?」


 あたしが見てみろよと銃口をヤマタノオロチに向けた。

 弱点属性だとかなんとかの《スノーマングース》があのザマだぜ?


 勝たなきゃいけない相手なのに勝てる気がしねぇが?


「キュ!」

「キュイ!」


 タロウとジロウはお互いに目線を合わせてから、ヤマタノオロチに駆け寄っていく。


 勢いをつけてジャンプ!

 その小さな身体を丸めて球体となり、二匹はヤマタノオロチの左右の瞳に向かって同じタイミングで体当たりした!


 息ぴったり!


「ギュ!」


 デカブツのヤマタノオロチはこの攻撃を避けきれず、モロに喰らってしまう。

 落下する際にタロウとジロウは《スノーマングース》の身体にしがみつき、その二匹分の重さで爪を引き抜いた。


「よし!」


 ガッツポーズするあたし。

 二匹がかりで《スノーマングース》を持ち上げると、あたしの位置まで運んできた。

 回収完了。


「ウギュアアアアア!」

「うっせ!」


 せっかくタロウとジロウをねぎらってやろうとしてんのに、こっちに向かって咆哮してくるヤマタノオロチ。

 鼓膜と地面が揺らされる。


「キュイ」

「キュキュ」


 タロウとジロウは倒れないようにあたしの足にしがみついていた。

 あるいはあたしが倒れないようにしてくれているのか。


 しっかし、まあ、なんだ。


「勝てんのこれ」


 足元の頼れる召喚獣に訊ねる。

 タロウは目を逸らし、ジロウは「キュ……」とバツの悪そうな顔をした。


 だよね。

 あたしも同意見。


 となれば。


「逃げるぞ!」


 あたしは《スノーマングース》の身体を掴んで宣言する。

 一旦退散して敗因を分析だ。


 確かこの辺に旅館とやらがあったはず。

 旅館ってあれだろ、大昔には繁盛していたとかいう、人が寝泊まりしていい場所だろ?

 温泉街にある。


「キュ!」

「キュイッ!」




【建設的退却】

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