第7話 和風都市 〈2〉

 駆け回っていたタロウとジロウが帰ってきた。

 二匹ともに頬袋がはち切れんばかりに膨らんでいる。


「おつかれさまー」


 ねぎらいの言葉をかけて屈むと、それぞれが口の中に収めていた物体を取り出した。

 どちらがタロウでどちらがジロウになるのか。


 いざ、尋常に勝負!


「キュ!」


 左側の子のそのちんまい両手には金色に光る小指の爪ぐらいの大きさの粒が二つ。

 ええと、『冒険の手引き』によれば一粒で一千ゴールドの価値だそうだから二千ゴールドってとこか。


 対して右側の子は「キュキューイ!」と紅色に光る鉱石を誇らしげに掲げて見せた。


「これは……!」


 と言ってはみたが何なのかわからない。

 そそくさとスマホでカメラを起動して確認する。


 ルビーと呼ばれる宝石らしい。

 ゴールドに換算すると一万ゴールド!


 二千ゴールドと一万ゴールドだから、右側の子がタロウだ!


「よーしよしよし!」


 どこから持ってきたんだかわからないけど、大成功だろうよ。

 タロウの頭を思いっきり撫でてやると「キュ!」と嬉しそうに尻尾をピンと立ててから消えてしまった。


「キュー……」


 肩を落とすジロウには「次頑張れ! な!」と励まして背中をさすってやると「キュッ!」と決意を新たにした様子を見せてから消える。


 用が済んだらいなくなるのが召喚獣ってもんらしい。

 と、『冒険の手引き』にあった。


(ずっとついてきてくれてもいいのにな)


 なかなか可愛い奴らだったじゃあないか。

 他の召喚獣もこんな感じなんだろかね。


 なんて思いながら、あたしは金の粒二つとルビーを白衣のポケットにしまう。


 マジックポイントの略らしいMPが召喚中に減り続けてしまう、と『冒険の手引き』の冒頭の『冒険に出る前に』の『ジョブ選び』に『サマナーのデメリット』として挙げられていたが、あたしのMPの数値は変化がない。

 理由はわからないが、MPが減ってしまうとイエローエーテルというアイテムを購入して回復しなければならないらしいので減らないなら減らないほうがありがたいな。


 イエローエーテルの画像、成長促進剤に似てる。

 絶対まずいやつ。


(さて、と……)


 金の次は服だ。

 スマホの画面上の『マップ』をタップして、ショウザンの詳細な地図を見つつ移動する。


 ヤマタノオロチとの戦いに備えて、いくら召喚獣が戦ってくれるとはいえそれなりに身支度はしとこう。

 この薄汚れた白衣を着替えたい。


 スマホの『インベントリ』のアプリで所持しているゴールドの総額が確認できるようで、さっきタロウとジロウが持ってきてくれた分の一万二千ゴールドが反映されている。


 プレイヤーたちの着用している鎧や甲冑は、モンスターがドロップする他に各都市のショップで購入できるんだとさ。

 あとはプレイヤーが《露天商》の資格を持っていると街中で露店を開くことができて、その露店からも買えるんだとか。


 ドロップするってなんだ?

 落とすってこと?


 モンスターたちのどこにあんな鉄の塊みたいなもんが収納されてんの?


 拾いたくないなァ。

 臭そう。

 この世界、洗濯機とか脱臭装置とかなさそう。


 この『冒険の手引き』によるとドロップでしか手に入れられない強い装備があるとか、フィールドボスっていう他のモンスターよりも戦闘力が高いモンスターがいるとか。

 そのフィールドボスっていうのよりも〝メインクエスト〟で戦うモンスターのほうがステータスが高いんだってさ。


(待てよ。ショップからではなく露店から買ったほうがいいのかな……)


 あたしはショップの扉の前で立ち止まる。


 露店で販売されているアイテムはプレイヤーがモンスターから奪い取ったアイテムなんだろ?

 これからヤマタノオロチと対戦するんだから、そっちのほうがステータスが上がりそうな。


 悩んで『冒険の手引き』を起動した。


 アイテムには適正値が設定されているものがあり、特に装備品は一定のステータスを越えていないと所持はできても装備はできない、とある。

 例えば《ライトアーマー》の場合はジョブが『ソルジャー』もしくは『ヴァンガード』で攻撃力が『一〇〇』以上だとか。


 サマナーのあたしは《ライトアーマー》をインベントリに入れておくことはできても装備はできない、ってことかな?


 攻撃力なんか1だし。

 1ってなんだ?


(露店、一個も見かけてねえしな)


 扉を開ける。

 エプロン姿の犬があたしに気付いて「いらっしゃいませ」と声をかけてきた。

 他に客はいない。


「サマナーが装備できる服がほしい」


 あたしが要望を伝えると「少々お待ちください」と店の奥に消えていく。


 さすが〝和風都市〟というだけあって、甚平や着物といった和服が商品棚に並べられていた。

 奥から出てくる服の系統を予想する。


 ……和服にガンベルトか。

 和洋折衷の斬新なコーディネートになりそうだ……。


 そうだ。


 白衣のポケットにしまっておくと紛失する危険性があるしスマホを入れておく袋がほしいな。

 ボールペンをなくした回数は両手でも足りない。

 あたしは店内を物色する。


(お。これなら)


 棚の隅っこに、巾着袋を見つけた。

 紫色の手触りのよい生地に菜の花の刺繍があしらわれている。

 スマホが入ってキュっと締められるし、紐の部分に余裕を持たせてガンベルトに括り付ければ取り出したりしまったりも容易だ。


 値段は500ゴールドとある。

 適正相場はわからないが、まあ、こんなものだろう。

 服と一緒に購入決定!


「お待たせしました。こちらの《ポンチョ》なんていかがでしょう」


 思いっきり和風じゃないものが出てきてしまって、あたしは「せめて外套って言えよ!」と突っ込んだ。




【均衡的金銭感覚】

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