第百五十三話 訓練再開
眠りから醒めて半月ほどが過ぎて、オヅマはようやく騎士の訓練を許された。
それまでにも徐々に機能回復の一環として軽く走ったり、激しくない体操などは許されていたが、ようやくビョルネ医師によって完治を認められ、剣撃訓練も含めた全ての訓練の許可が出た。
当初は剣の重さにややぎこちない動きだったが、以前の感覚を取り戻すのは早かった。
「おぅおぅ、よく動くな。豆猿かよ、小僧」
相手したサロモンが忌々しそうに言いながら笑う。オヅマもニヤリと笑った。
「ふん。病み上がり相手に息が上がってんぜ、オッサン」
「このクソガキがっ」
怒鳴りながらも、サロモンは楽しそうに木剣を振るう。
見ているゴアンやマッケネンも、オヅマの変わりないすばしこさと、鋭い剣使いに安堵の表情を浮かべた。
「どうやら、忘れてないようだな」
マッケネンが言うと、ゴアンが首をひねる。
「なにをだ?」
「数ヶ月、小公……アドルと学ぶ中で、正確な剣技を身に着けたのが、今回の空白期間で失われたら勿体ないと思っていたんだが…子供の吸収力というのは、大人には真似できないな」
「ハハハ。まぁ、最初はそれこそ猿真似だったが、真似も続ければ身に着くんだろうよ。――――ヨシ、終了!」
砂時計の砂が全て下に落ちたのを確認して、ゴアンがパンと手を叩く。
鍔迫り合いして睨み合っていたサロモンとオヅマは、オヅマが蹴りつけるのをサロモンが掠られつつも避けて終了した。
「小指一本分、足が短かったな」
サロモンが嗤うと、
「じゃ、明日には蹴られてぶっ飛ばされるだろうな」
と、オヅマがしれっと言い返す。
なんだと、この野郎…とサロモンはオヅマの首に腕を回し、絞め上げるようなマネをしながら嬉しそうだった。
マッケネンはフッと笑った。
実際、あの年頃の子供の成長は一夜で麻のごとく伸びる。明日にはサロモンは蹴られて転がっているかもしれない。
「しかし良かったよ、お前。倉庫からアルベルトに抱えられて出てきたのを見た時には、本当にもう死んだかと…」
隣で同じように剣撃訓練をしていたゾダルがしみじみと泣きそうな声で言った。
「ホントにな。顔が血だらけで…拭いたら真っ白だし。マジで死んだと思った」
ゾダルの相手をしていたサッチャは肩をすくめる。
「それでも、首魁の野郎をきっちり殺ったんだから、大したモンさ」
サロモンはまるで自分のことのように誇らしそうに言って、オヅマの頭をガシガシと撫でた。
「いってぇな! 爪たてんな」
「オホッ! この威勢のいいこと! よっぽど溜まってたな」
「当たり前だろ! っとに、すぐにでも出来るっていうのに、大袈裟すぎるんだよ。カールさんだって、医者がいいというまでは駄目だ、っていつまでも許可してくんねーし」
オヅマは口をとがらせた。
目覚めてから七日ほどで体調は十分に戻っていたのに、ビョルネもカールも慎重で、なかなか訓練の参加許可がおりなかったのだ。
「それにしても、バッサリいったもんだ。斬口も鮮やかなもんだった」
感嘆して言ったのは騎士団の長老トーケルだった。
ダニエルの死体はあの後、騎士達によって運ばれて検分され、一振りで綺麗に首を断ち斬ったオヅマの腕前に皆が驚いた。
「斬られたこともわからなかっただろうな、あの男」
その言葉にオヅマは無表情になると、冷たく言った。
「だったら、残念だな。もっと痛めつけてから殺せばよかった」
「…………」
その場にいた騎士達は急に鼻白んだ。
マッケネンは微妙な空気を察して、パンパンと手を打った。
「さて、そろそろ終了とするか。各位、道具の点検して問題なけりゃ夕飯だ」
ぞろぞろと騎士達が兵舎へと戻っていく。
オヅマを囲んでいたサロモン達も、気を取り直すように背伸びしたり、軽口を叩きながら散っていった。
「オヅマ、一緒に行こう」
マッケネンは木剣を入れた籠を持って小屋へと向かうオヅマに声をかけた。籠の持ち手の一つを取って、隣で一緒に歩き出す。
オヅマは軽く息をついた。
「もう大丈夫だって、本当に」
「あぁ…わかってる。ちょっとだけ言いたいんだ」
「なんだ、説教か」
オヅマはマッケネンの久しぶりに見せる教師としての顔に、やや面倒さを感じつつも、話を促した。
「なに?」
「お前があの男を殺したことは…まぁ、当然といえば当然だ。向こうがお前の妹を人質にとったんだから、あちらも覚悟の上のはずだ」
「………そうだよ。マリーを殺そうとしていやがったんだからな」
オヅマは小屋の扉を肩で押し開けると、さっきと同じ冷たい声で肯定する。
隅のいつもの場所に籠を放り出すように置くと、マッケネンに向き合った。
「それでマリーも、オリヴェルもアドルも助かったんだ。問題ないだろ?」
マッケネンは頷かなかった。だが、オヅマの言うことは認めた。
「あぁ、そのことは問題ない。問題なのは、お前の
「はぁ? なにそれ」
「今だって、必死になってお前は思い込もうとしているだろう? 自分は悪くないんだと。当然のことをしたし、妹や大事な友達を救ってやったんだと」
「……だって、その通りだって…さっきマッケネンさんだって言ったじゃないか」
マッケネンは苛立つオヅマを静かに見つめた。深い青の瞳は、いつも優しい。
「……昔、つっても六年ほど前のことだけどな」
軽く息をついてからマッケネンが話し始めたのは、今、歴史の授業で習っている
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