第十七話 カールの進言
カールからマリーの言葉を聞いたヴァルナルは深く
百戦錬磨と呼ばれる豪胆な男であっても、たった六歳の子供のその情け深さに、ひどく苦い思いで感服するしかない。
「東塔は
カールは事務的に言いながらも、自分の選択がこれでいいのかまだ決めかねている。ヴァルナルの返事がないが、そのまま報告を続けた。
「パウル
「カール。それで、マリーは大丈夫なのか?」
ヴァルナルがうつむいたまま尋ねてくる。
カールは
「医者の話では、今夜の熱さえ超えればおそらく問題はなかろうと。オヅマにも熱冷ましの薬を渡しておいたと言っておりました」
「そうか…
ヴァルナルに言われても、カールはしばらくその場から動かなかった。
気配を感じて、ヴァルナルが顔を上げる。
「ヴァルナル様」
カールはまだヴァルナルが領主となる前に呼んでいた名前で呼んだ。
「パウル爺はマリーがオリヴェル様の部屋に遊びに行くのを知っていたそうです。その上で、それは若君の為になることだと思って、黙って見ていた……と。実際、マリーやオヅマらと遊ぶようになってから、若君は以前よりも食事の量も増えて、時には気に入ったデザートなどを
ヴァルナルはどんよりした目でカールを見つめてから、椅子の背にダラリと
「カール…私がミーナら親子を
「いえ。ただ、ご判断の
カールは静かに頭を下げると、部屋から出て行った。
◆
医者の見立て通り、マリーの熱は一晩を過ぎると
目を覚ました途端にお腹が空いた、と言う妹に、オヅマはあきれつつもホッとして少し涙が出た。
喉の腫れがまだひどく、芋をすり潰したスープを啜るのにも、痛そうではあったが、それでも食べようとしていることに、心底
喉の痛みは数日続き、しゃべるのにも一苦労だったが、それも三日過ぎ五日過ぎてゆけば、だんだんといつもの口うるさい妹が戻ってきた。
マリーはオリヴェルがまだ病に臥せっているのを知ると、自分が治ったらミーナと交替して看病すると言ったが、オリヴェルと隠れて会っていたことについて、まだはっきりとどうするのかを聞いていなかったオヅマは曖昧に笑うしかなかった。
その頃になると最初に罹患したアントンソン夫人ら、普段からのオリヴェル付きの女中達も回復して世話するようになっていたので、ミーナが戻ってきても良さそうなものだったが、オリヴェルはこの数日の間にすっかりミーナに頼りきるようになってしまったらしい。
「もう、仕方ないわねぇ…オリヴェルったら」
と、マリーは笑った。
常日頃から母親の不在がオリヴェルにとって一番寂しいことなのだと気付いていたので、ミーナがオリヴェルのお母さん代わりになってくれればいいと思っていたのだ。
しかし、そのマリーですらもオヅマが熱を出して倒れると、ミーナを連れてきてくれとパウル爺に頼んだ。
「そうしてやりたいのは山々なんじゃがのぉ…」
パウル爺は申し訳無さそうにマリーに話して聞かせた。
「お前さんのお母さんも、必死で若君の看病を続けたせいで、体調を崩してしまってな。特別に領主様の温情で、館の方で療養しとるんじゃよ」
「母さんも病気になったの?」
「いや。病気というよりも、疲れてしもうたんじゃ。無理もない。何日も寝ずの看病をしておったんじゃから」
マリーは泣きべそをかきながらも、必死にオヅマの看病をしようとしたが、六歳の子供ではオヅマのやってくれたように、体の汗を拭いて、着替えさせることもできない。
パウル爺からオヅマも紅熱病に罹ったことを聞いたカールは、弟のアルベルトに看病に行くよう指示した。
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