第10話 齋姫救出-2

「はひぁひいいっ♡ そこ、そこおぉ~っ♡ もっと、もっと瑞穂のおまんこ抉ってぇぇ、ケツ穴もズボズボしてくださいっ♡ あぁっ、乱暴に使っていたただくの、最高に気持ちいいですぅっ♡ もっと、もっと痛めつけてぇ~♡」

 堕ちた齋姫、神楽坂瑞穂は絶好調で腰を振り、股を締めて男たちに奉仕する。暴力への畏怖と薬物依存、そしてもとの自分には戻れないという諦念が、瑞穂の精神を加速度的にみだらなものとしていた。


「へへ、たまんねぇ最高の穴ぼこだぜぇ……しかもこの国最高の齋姫って血統書付きときてやがる。たまんねーな……」

 山賊の頭領は下から突き上げ、瑞穂の121㎝という破格の巨乳を揉みしだく。感じやすい水風船のような乳房を捏ねまわされて、瑞穂は可憐な顔立ちを淫蕩にゆがめた。


「あはあぁぁ♡ 男の方は、おっぱい好きですねっ♡ わたしも、揉んでいただくの気持ちいいですっ♡」

 すっかり男に媚びる態度を身につけたのはヒノミヤでか、それともこの山賊のアジトでか。すでにその境界も瑞穂にはわからなくなっている。今の彼女にあるのは食欲睡眠欲と性欲という、根源的な三大欲求のみであった。

「うへへ……そんじゃまた膣内に出してやっか、いくぞぁ!!」

 媚びへつらう瑞穂に気をよくした山賊頭領が、その豊臀をがっしとつかんで射精に備えたその瞬間。


「うらららららららららららあぁぁぁぁぁぁーっ!」

 どこからか投擲されたダガーが生きもののように跳ね回り、そこかしこの山賊の四肢に突き刺さる。


そこに吶喊する人影二人。筋肉質な道着姿の茶髪に、銀髪緋眼、華奢で小柄ではあるが、輝くばかりに美しい美少年。


「てめーら全員半殺しだ! 婦女暴行の現行犯でブチしばーく!!」

 銀髪の美少年が、美少女かと見まがう容姿から想像できる通りの可憐な美声で、かつおよそ想像もつかないくらい口汚い言い方で怒声を上げる。


「なんだてめぇら……っぶゥ!?」

「げぅ!?」

「がはっ……」

 瞬時に3人を沈める、圧倒的な銀髪少年の強さと迅さ。接触した、交差した、そう思った瞬間には相手が倒れている。精妙にして凄絶、拳法と短剣技を組み合わせた独特の技法、洗練されつくしたその技前を、山賊ごときに止めること能わず。


「シッ!」

 銀髪が3人を沈める間、茶髪のほうも1人を落としている。銀髪少年があまりに迅速なのでこちらは鈍く見えるが、実際のところ彼の技量も決して低くない。銀髪少年のように前進=敵の制圧という達人ぶりではないが、大ぶりの拳による問答無用の打撃力はかなりのもの。


「土遁、足絡みでゴザル!」

 さらに後ろから声。刹那洞窟の岩肌は泥濘と化し、山賊たちの動きを阻害する。そこに銀髪と茶髪の二人が突っ込み、さらに物陰からダガーが飛び、さらにさらに土礫の弾丸が飛ぶ。数十人いた山賊たちはたちまちに10数人にまで数を減らした。


………………

 銀髪の美少年、新羅辰馬の頭の中はかなり沸騰していた。新羅家三代の血筋、その傾向からして、辰馬もまた薄幸少女に惹かれるところ大きい。よって今回の辰馬は初手からかなりのブチ切れモードだった。


 が、辰馬の新羅江南流、その術理の要諦は「透徹されたどこまでもクリアな理性によって統御された身体運用」。いま辰馬を突き動かすのは本能的な怒りであり、荒れ狂う力の発現はすさまじいものがあるが新羅江南流の術理とは180度反する。


 身体能力に任せて8人までを叩き伏せたところで、次第にそのツケがまわってくる。ガス欠。もともと体力が余りある、というタイプでもない辰馬が絶対的な強さを発揮するのは「透徹された理性」ゆえだったにもかかわらず、それを無視して本能というもっとも原始的で頼るに足らないものに拠ったのが原因だった。


「っく……」

「「ガキが、おっ死ね!」」

 動きが鈍ったところに、左右から山賊の蛮刀がうなる。辰馬は止めず下がらず前進して回避、強烈な回し蹴りの一撃で二人をなぎ倒すも、いままでのような「交差したときすでに敵は倒れている」というほどの精妙がない。吹っ飛ばされた山賊も、すぐに立ち上がって敵愾心に燃える瞳で辰馬をにらんだ。


 その二人を横合いから大輔が強打で殴り飛ばし、残る一人の背後にすっと降り立ったシンタがダガーの柄で延髄を一撃、沈黙させる。後ろから、シエルに先導されてひいふう言いながら出水もやってきた。


「てめぇら……人様の家に勝手に乗り込んでこんだけ暴れてくれたんだ、殺されても、文句は言えねぇよなァ!?」

 事ここに至っても、山賊の頭領はなお余裕を失っていなかった。彼は懐から注射器を取り出すと、すかさず自分の左手の血管にそれを刺す。と、山賊頭領の総身の剛毛がもしゃもしゃと伸びて獣毛となり、顎がとがり突き出して人間のそれから狼のそれへと変わる。瞳は魔に連なるものの証左、赤く燃えた。

「こいつを使うとこうなって手加減が難しくなるが……ま、仕方ねぇ。ズタズタにしてやるよ!」

「うっさい、やかましーわばかたれ! さっさとしばかれておれの本代になれ、犯罪者!」

「っは! テメェだけは殺さずに男娼に売り飛ばしてやるよ! ……瑞穂、お前も戦え! 役に立ったら後でたっぷりヒィヒイ言わせてやるぞ!」

「ヒィヒィ……♡ は、はいっ、全力で、お役に立たせていただきますっ!」


 そうして、盎山の山賊との決戦が始まった。

 敵は山賊頭領と瑞穂、頭領のペットの巨猿、用心棒のボクサー崩れ2人に、先の玄室でも苦戦させられた厭火獣で都合6体。


 まずシンタがダガーの狙いをつける。狙うは瑞穂。見るからに巫女=回復役であり、これを落とさないことにはこちらの攻撃が通らない。


 しかし。


「ちょい待て、シンタ。あの子は狙うな」

「は? 辰馬サンなに言ってんすか! 回復役から落とすのは定石でしょーよ!」

「つーても、無理矢理いうこと聞かせられてるだけの女を殴れるか、ばかたれ! おれが順次に凍らせるから、おまえらそこに打撃集中!」

「……わかったっス」

「了解しました!」

「主様、信じるでござるよ~」


 というわけでシンタの番手を下げて、辰馬。敵前衛厭火獣、瑞穂、巨猿のうち、まず厭火獣に氷刃を突き立てる! そこにシンタの雷刃、大輔の炎拳、出水の泥弾、辰馬の一撃で氷結している厭火獣はあらゆる衝撃に対して脆弱になっており、続く連撃で一気に大きく力を削がれた。


 が。


「高天の庭にいまします、日輪火之赤之大神に請願奉ります! 命の炎、女神の雫を!」

 瑞穂が神聖魔術の呪を結ぶと、たちまちに厭火獣の重創は全快。すかさず炎のブレスをコーン状にばらまいて、意気盛んなところを誇示する。辰馬は氷の盾で仲間をブレスから守るが、やはり瑞穂を殴らずに済ませるのは無謀としかいいようがない。


「しかたねー。なんとか当身で気絶させよう。ほかにやりようがねーからな……」

 そう心に決めるところに、ボクサー崩れ×2と巨猿と山賊頭領、全員一斉に辰馬狙い!


 辰馬は歩法で全回避を狙うも、やはりまず頭に上った血が静まっていない。完璧で十全な身体運用ができず、数発をもらう。蒼月館強化学生服は防弾防刃、多少のダメージなら止めるが、巨猿の大ぶり猿パンチと人狼化した山賊頭領の爪の猛襲は止めきることができず、かなりのダメージを負う。


「っそ、シンタ、その子ちょっとそこから退けろ! 天桜絶禍ぶっ放す!」

「ええ゛! アレっスか!?」

「アレだよ。任せたかんな! ……暗涯の盟主! 兜率の天を喰らうもの、餓(かつ)えの毒竜ヴリトラ! 汝の毒の牙もちて、不死なる天主に死を与えん!」

 神にささげる言祝を神讃、魔にささげるを魔誥という。上位の神魔と霊的なバイパスをつなげ、巨大な力を発現させるための呪文であり、儀式。辰馬を中心として、強烈な凍気が逆巻く!


「させるかよ!」

 人狼=山賊頭領が、懐から抜いたナイフを投げて辰馬の意識をそらそうとするが。


「そちらこそ。させるわけにいかんな」

 それを手甲でガード、はじいて阻む大輔。防ぐやすぐに辰馬の前から飛びのき、すでに術を完成させている辰馬は右腕を高く振り上げ、薙ぎ払う。


「覇葬・天桜絶禍ァぁ!!」

 発現。狂乱の凍嵐。毒の魔竜ヴリトラに由来する暗黒の凍気に、氷に弱い厭火獣が一撃で倒れる。ボクサー崩れ2人もたまらずダウン。巨猿はどうにか体力を残し、極地凍嵐の範囲からトンボを切って飛びのいた山賊頭領が無傷。


「あぁっ、皆様!?」

 シンタに誘導、仲間たちから引き裂かれた瑞穂が悲痛な叫びをあげる。


「ここが先途! 気合入れろ!」

 天楼絶禍に続けて、辰馬の指揮が飛ぶ。信頼するリーダーの檄を受け、勇気百倍の大輔は猛然と巨猿に襲い掛かり、これを思い切り殴り飛ばすと、続けて出水が「泥棺!」黒い泥の檻に巨猿を封じ込めてぐしゃりと叩き潰す。その間にシンタは瑞穂を気絶させ、一行はじわりじわりと人狼=山賊頭領に間を詰める。いかに人狼の身体能力が優れていようとこうなれば問題ではなく。


 あとは数分で、勝敗は決した。

「ふぅ……けっこー強かったが、まあ敵ではなし!」

「辰馬サンけっこー大怪我ですからね。薬の類も切れてるし、はよ戻って治療せんと……」

「そらわかってるけどな。けど、その前に……」

「あの子、ですねぇ……」

「で、ゴザルなぁ……」

「あいつ敵じゃないの? 殺しちゃえばいーんじゃない?」

「はいはい、黙ろーな、ガトンボ」

「誰がガトンボよ! きーっ、ヒデちゃん、あいつムカつく!」


「……んぅ……あぁっ、おちんぽ、おちんぽはあぁ? 誰か、おちんぽ入れてくださいいっ?」

 目を覚ますなり、瑞穂はそう叫んだ。辰馬は半狂乱の瑞穂をどうにか宥めすかし、状態を聞くも、なかなかに要領を得ない。


………………

「つまり、あなたが新しいご主人様ですか?」

「違う」

「……いいんですよ、なにしても?」

「しねーし。つーか、あんたがヒノミヤの齋姫で間違いねーんだよな? んじゃギルドまでつれてく。薬物依存の後遺症は……おばさんかかーさんならなんとかしてくれるだろ。あの人たち「聖女」だしな」


 そして、ギルド緋想院蓮華堂。

「ふいぃー、疲れた。おばさんお茶―」

 日付も変わる間近になって、辰馬たち一行はギルドに帰り着いた。


「おばさんゆーな……っても、今日は勘弁してやるか。で? 齋姫さまは?」

「あー、こっち、この子」

「……ん、確かに。それじゃ、姫様? 病院にいきましょう」

 ルーチェがそういって促すも、瑞穂は辰馬に寄り添って離れようとしない。


「あなたが……いいです。ほかの人は、いや……」

 山賊のアジトでの狂騒的淫乱さが抜けてしまうと、瑞穂はかわいそうなほどにおとなしく、気弱で、はかなげだった。薬の切れた状態での瑞穂にとってあらゆる男女すべては恐怖の対象であり、唯一そこに当てはまらないのが新羅辰馬という、性別を超越した容姿を持ち、そして自分に獣欲を向けることのなかった少年なのだった。


「ありゃ」

「ありゃ、じゃねーわよ辰馬。あんたまた女の子に手、出したんじゃないでしょーね?」

「出してねーわ! おれがいつも女にてぇ出してるみたいなことゆーな!」

「アンタの場合無意識でやってるから質が悪いのよ。……どーしよっか、じゃ、辰馬が病院まで送ってくれる?」

「おれはいーけど……それでいーか、姫様?」

「はい……ご主人様の、お言葉のままに」

「たつまー……ご主人様って?」

「なんもしとらんって! おれだってびっくりしたわ、ご主人様とか」

「ま、いーや。夜も遅いからね。んじゃ、送ってったら帰ってよし。そして今日の報酬、5000弊」

「おぉ、これで新しい本が買える……ふふり」

「いや、あんたは冒険道具買いなさいよ……」


 こうして。

 のちの赤龍帝国皇帝・新羅辰馬とその皇妃・神楽坂瑞穂は出会った。この二人の邂逅から世界の運命は大きく変わっていくのだが、今はまだ、それを知るものはない……。

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