第9話 齋姫救出-1
太宰郊外、盎山(ほとぎやま)、山頂近くの洞窟入口。
「あ゛-、疲れる……、ここまで登山してこっからが本番とか……」
「ぼやくな、赤ザル。大した山でもないだろう」
筋肉痛を訴えてぼやくシンタを、元気はつらつの大輔がたしなめる。シンタだってそれなりにアウトドア派ではあるのだが、肉体錬磨が特技で趣味のカラテ家にはかなわない。
「るせー、筋肉ダルマ。おれとおめーとじゃ違うんだよ、一緒に考えんな」
「いーから、そろそろ気ぃ引き締めろよー。この辺から山賊のテリトリーだし。出水とシエルもいちゃいちゃしてんじゃねーぞー」
と、注意喚起する辰馬の声がなんとも、しまりがないというかぼんやりしているのはまあ、いつものこと。これで戦闘力と指揮能力に関して比類ないわけだから、世の中わからない。
「っと、いってる間に出てきましたね。叩きますか?」
「あー。んじゃ派手にぶちかますか。……いくぞぁ!」
哨戒なのか、洞窟から出てくる山賊のグループ5、6人。ぽや~ん、としていた辰馬の声が、飄然と戦士のそれにかわる。号令とともに一行は展開した!
まずシンタがダガーを広範にばらまいて惑乱、それに乗じて出水が地面を泥濘に変え、相手の機動力を奪う。そこに待機しながら力をためていた辰馬と大輔が吶喊、たちまちに勝負を決める……が、すぐに呼び出された新手が登場。これを倒すのにまた同じコンビネーションを使い、さらに敵が新手を呼び出し、また同じ手で……、
「しゃーねえ、一旦下がるぞ。こいつら案外統制とれてる!」
「では、目くらましでゴザル!」
出水が泥の煙幕を張って、その間に逃げる辰馬たち。
「……なんか、絶対に通してやらんって雰囲気でしたね。やっぱり齋姫さまがいるからですか……」
「かもしれんが。まあちょっと別の道探ろう。あんな無尽蔵に湧いて出られたらさすがに少し困る。この山賊の規模がわからんからな、100人くらいで済むならなんとかなると思うが」
「辰馬サンがよくてもその間にオレら死にますって。あれだ、できるだけステルスでいきましょ」
「そうでゴザルなぁ……シエルたん、偵察頼めるでゴザルか?」
「がってんしょーちのすけ! 待っててね、ヒデちゃーん!」
役に立つ場面があるのがうれしいのか、勇躍、飛んでいくシエル。辰馬たちはその間に柔軟して飴玉舐めて、ウォームアップと疲労回復に努める。
数分後。
「こっちにあんまり使ってない通路があったよ、ヒデちゃん! えらいでしょー、褒めて褒めて!」
「さすがでゴザルシエルたん、さすが拙者の嫁!」
「その寸劇いらねーから。んじゃ、そっち回りますか、辰馬サン?」
「そーだな、正面から戦うと効率悪い」
というわけで。
裏の獣道から侵入した辰馬たち。
………………
そのころ。
「ひあぁうっ♡ あぅっ、あっあっ、あくうぅぅ~っ♡ そ、そこぉ♡ お猿さんの太くて大きなモノが、わたしの……瑞穂の中をゴリゴリってえぇ……♡」
「ばうっ、がうううっ、がふ!」
少女の肢体がみだらにくねる。山賊の頭領とそのペットの巨猿にサンドイッチで犯される少女は、神楽坂瑞穂。ヒノミヤの齋姫であった。
これまで何人の男に犯されたのかその身体は全身くまなく精液まみれであり、風呂に入ることも許されず饐えた性臭を漂わせる。その瞳にかつてあった理知の輝きはいまは見る影もなく悦楽に濁り、今の彼女はひたすら男の耳に心地よい喘ぎ声を発するだけの肉玩具だった。
ヒノミヤで神月五十六以下の男たちに凌辱を受けた瑞穂は死力を振り絞ってどうにかヒノミヤを脱したが、白山から盎山に移ったところで体力は限界、力尽きて休憩しているところを山賊に襲われた。
抵抗するもすでにすでに消耗させられ尽くした神力はあっさり底をつき、たやすく拿捕される瑞穂。山賊たちは戦利品の美少女を当然の権利とばかりに犯し、瑞穂の心に反抗の意志が残っているとみるや薬物……ヒノミヤで先手衆(さきてしゅう)に打たれたものとおなじ、ヒノミヤ製の強壮媚薬……を投与して精神を徹底的に破壊した。
ために今の彼女は。
「あはぁう~っ♡ あひっ、あへぇ♡ そこぉ、もっとゴリゴリってしてくださいぃ♡ 淫乱な雌家畜の穴ぼこ、徹底的にしつけてくださいませぇ~っ♡」
知性や品性のかけらもない、壊れきったアヘ顔で男……どころか雄獣のモノを受け入れ、自らいやらしく腰を振るほかにない。壊れた精神では義父のかたき討ちもヒノミヤの再建も、あったものではなかった。
………………
「ふぃ……なんか暑くねーっスか? 6月なのに汗かいてきちまった……」
「んー……なんかいるのかもな、それ系の魔物が」
「え゛? ここって山賊のアジトっスよね? そんな魔物とか飼ってんスか?」
「わかんねーが。可能性としてなくはないだろ」
「うへー、ただのチンピラ相手と思ったら……」
「ガタガタいわんととにかく往くぞー。山賊だろーが魔物だろーが、ブチしばくことに変わりはねー」
「まぁ、そーですけど……」
と、辰馬とシンタのやり取りがあり。
何度かの散発的な山賊との遭遇戦。殺すわけにいかない辰馬たちとしては一度無力化した相手が復活して背後から襲われることが数回あり、難儀したが。
ともかくも洞窟下層へ。
そこは岩肌に溶岩走る灼熱世界。その部屋の奥には燃える橋が架かっているが、その手前には2匹の屈強な4足の獣。
一匹は虎身猿面、蛇の尻尾。全身に稲妻をまとわせる雷獣、鵺(ぬえ)。
もう一匹は黒い牛のような体に巨大な単眼、総身にけぶった焔をまとう、厭火獣(えんかじゅう)。二匹の魔獣が呼ぶ雷雲と炎雲が、さして高くない室内に垂れ込める。
「鵺と厭火獣か……、結構な大物だな」
「あんなモン飼ってるとか……ここのボスどんだけなんだって話なんスけど……」
「しらん。それよりまずはこの炎雲と雷雲、どーにかせんとな……。まあ炎はおれの氷でなんとか相殺できるとして、問題は雷雲のほうだが……どーすっかな」
「あんなものも払えないの、辰馬? ふーん。じゃ、あたしがどーにかしてあげる! ヒデちゃんのためだし!」
「なんとかなるか、シエル?」
「任せなさいよ。っていってもあたしが払えるのは雷雲だけ。炎雲はあんたがどーにかしなさい……ヴェント!」
シエルの言葉で突風が沸き起こる。雷雲が裂けて道が開け、そこに辰馬が氷撃、炎雲を凍らせる。凍った焔の結晶降り注ぐ中を、一行は突撃した!
「行くぞおぁ!」
真っ先に辰馬が厭火獣に。今回の得物は普段のように素手ではなく、ナイフ。封石により強化してあるナイフに氷の魔力を乗せて、斬撃。弱点を突かれた厭獣獣は地響きのするような呻きを上げた。
「次はオレ!」
氷結状態の厭火獣に、シンタの刺突、環集雷刃。さらに大輔が大きく振りかぶってのオーバーハンドブロー、虎打ちの一撃。乱打に厭火獣がかしぐ。まだ倒れないが、そこに出水の泥濘が足をからめとる。
「ゴアアァァァァァァァァァッ!!」
狂猛に吼えて、二匹の魔獣のブレス、一条の雷光と、コーン状に広がる炎。しかし雷撃はシエルの起こした風で方向をそらされ、炎は辰馬が展開した氷の障壁で無効化。
ここに至って勝利は確定したといっていい。辰馬たちは優位を確立し、魔獣たちは決定力を欠く。にもかかわらず戦闘が数十分間におよび、少なからぬ消耗を一行に強いた。それは戦闘力というより、魔獣の異常な生命力、殴っても殴っても倒れないタフネスによった。
「これで……倒れろ!」
なんとかどうにか厭火獣を倒し、ついで鵺に辰馬のナイフが突き立つ。ようやくで沈黙した相手に、辰馬たちは緊張を解いた。
「はぁ……はぁ、どんだけタフなんだよ、こいつら……」
そしもの辰馬がそういって、肩で息をする。ほかのみんなもだいたい一様に、疲労困憊にあった。戦闘力が高いといっても、数十分間、全力疾走したのと同じである、消耗するのは当然。
「それで、結局トドメささねーんですか?」
「あー、殺すのもなんだしな」
「つーても、こいつら目ぇ覚ましたらまた襲ってきますよ?」
「……なんとかなる。殺すのはな、どうにも寝覚めがわるい」
「……辰馬サンがそーいうなら、構やしませんけど……」
「ともかく。この先たぶんボス戦でしょうし。しっかり回復して挑みましょう!」
辰馬の甘さに言いよどむシンタ、微妙な雰囲気を打ち消すように、大輔が大きく声を張り上げた。
「あー、いよいよ、だな」
回復を済ませた一行。
燃える橋を凍らせ、いよいよ最下層へと進む。
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