第9話


 重く、硬いモノ。


 とてつもなく巨大なモノ。


 形容するには時間が足りない…


 思考の全てが遮られるかのような衝撃が、日常の真横からやって来て、あっという間に視界が暗転した。


 瞬時に分かったのは、自分の体が何物かに突き飛ばされたということ。


 「突き飛ばされた」——?


 …いや、もっと激しい形容をすべきなんだと思う。


 けど、…思考が追いつかない。


 視界が回転して、さっきよりも地面が低いところにある。


 自分の身に何が起こったのか、それはわからない。


 大きな音がした。


 …そこまでは、記憶が思い出せる。



 …だけど、だけどなにが…




 思考が追いつくのには時間がかかった。


 頭が揺らされる感覚と、宙に浮く感覚。



 自転車に乗っていて転けたような


 足を滑らせて尻もちをついた時のような



 手が動かない…


 足が動かない…



 うまく呼吸ができなかった。


 何か手で掴むものがないかを必死に探した。


 地面の上に自分が倒れていると気づき、必死にもがいた。


 眩しい光が目に入る。


 直射日光が真っ逆さまに降って来ている。


 ぐちゃぐちゃになった思考のそばで、空が見えた。



 青く、白い。



 それは一瞬の情景に過ぎなかったけど、確かに見えた。


 …けど、次の瞬間には、自分の意識がどこかに消えてしまいそうになるのを、止めることはできなかった。



 

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