【第1章】 未来から来た少年

第10話





 わぁぁぁぁぁ!





 最初の第一声はそれだった。


 いるはずのない部屋のベットの上で、夢から覚めたように飛び起きる。





 私は確か、——今…




 自分でも不思議なくらいに鮮明なその「記憶」は、ついさっきまで自分が街の交差点にいたことを思い出せるくらい、近くにあった。


 


 思わず手を体に抱き寄せてみる。



 …どこも痛くないし、どこも問題はなさそう…



 でも、さっきまで私は確か、交差点にいて、




 …えーと、


 それから…





 混乱する頭の中で、部屋を出て階段を降りた。



 洗面台に行って顔を洗う。



 バシャバシャと水しぶきをあげたあとにタオルで顔を拭いたあと、鏡を見た。




 「私」だ。




 おかしなことを言ってるのかもしれない。


 でも私がそこにいる。


 さっきまで外を歩いていたはずの「私」が、なぜか家の中に…




 「なに、どうしたん?」



 後ろで妹が声をかけてきた。



 「ううんなんもない」



 私はそこから立ち去ろうとしたけど、どうも奇妙だった。



 夢にしてははっきりしていたし、家を出て、学校に向かっていたはず。


 スマホを忘れたから家に取りに戻ろうと思って、急いで走って、その先で…



 時計を見た。


 時刻は7時だった。




 …嘘でしょ?


 なんで7時なの?



 母さんの声に起こされて、家を出たのは確か7時20分だった。




 …そんなバカな



 妹は不思議そうにチラチラこっちを見ている。


 いやいや…、不思議なのはこっちだよ。


 ぐるぐる家の中を歩き回って、冷蔵庫の牛乳を飲み干し、リビングのソファに腰掛けた。



 不味…。



 嫌いな牛乳を飲み干すその所業が、頭を整理させるには十分すぎた。




 …だけど、なんにも解決してない。


 解決してないどころかテレビをつけたら、「クリスマスイヴ」の話題がニュースの一面に取りあげられていた。



 …冗談でしょ?


 

 チャンネルをどんどん変えて、現実を確かめようと努力した。


 が、どの番組も季節外れの話題で持ちきり。



 夏なのになんで冬の話をしてるんだろうこの人たちは。



 番組に出てくる出演者たちがこぞって「冬」の嗜みを話題に持ち上げて談笑している。



 …いやいや、どう考えても冬の話を持ち込むには早すぎるでしょ…



 苦笑しながらリモコンを操作していると、また妹がやって来て



 「お姉ちゃん今日お母さんがクリスマスパーティー開くっていうんだけど、何が食べたい?」


 と言ってきた。



 なんであんたまでボケてるの??



 そう突っ込むと、何言ってんのと強い口調で逆に返された。




 いやいや、なんで怒られてるのが私なの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る